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第五十二話

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視界が暗転し、浮遊感が全身を支配した。

「…(なんだこれ…?)」

しばらくして、地に足がついた感覚。

瞼を開けると、そこはさっきとは打って変わって全然知らない場所だった。

ダンジョンの中であることは間違いないようだった。

近くにはシスティとヴィクトリアもいる。

「どこですの…ここ…」

「どどど、どうしよう…大変なことに…」

戸惑っている二人。

俺は当たりを見渡すが、転移結晶が発動したわけではなさそうだった。

それならばダンジョンの入り口に転移していなければおかしい。

「何が起こったんだ?」

「き、きっと罠ですわ…転移系のトラップを…私が踏んでしまったんですわ…」

ヴィクトリアが申し訳なさそうに言った。 

「転移系のトラップ…?」

「ええとね…多分だけど…」

この中で1番博識なシスティが解説してくれる。

ダンジョンの中層以降の領域には、さまざまなトラップが存在する。

その中の一つに転移トラップというものがあり、引っかかると瞬時にどこか別の場所へと飛ばされる。

転移先は、たいていがそこよりもさらに下の階層なのだが、最悪の場合、モンスターがたくさん湧き出てくるトラップ部屋と呼ばれる空間に飛ばされることもあるらしい。

「なるほどねぇ…そのトラップ部屋ってのはどんな感じなんだ?」

俺が尋ねると、青ざめたシスティが言った。

「トラップ部屋は…たいていが正方形の空間で、出口がなくて…ちょうどここみたいな…」

そう言って周りを見渡す。

正方形。

出口がない。

全て今現在俺たちがいる場所に当てはまることだった。

「ん…?ひょっとして俺たちは最悪の転移トラップを引き当てたってことか?」

「た、多分…うぅ…」

ほとんど泣きそうになりながら、システィが答えた。

「も、申し訳ございません…本当に…」

流石に責任を感じているのか、普段とは打って変わってしおらしく謝罪の言葉を口にするヴィクトリア。

「脱出できないってどうするんだ?壁を破壊するのか?」

俺はともかく脱出の方法を模索してみる。

「と、トラップ部屋から脱出する方法は一つ……それは湧き出てくるモンスターを全て倒すことで…」

システィそう言った側から…

パキキ…

何かが割れるような音が前方の壁から聞こえてきた。

俺たちは一斉にそちらをみる。 

「あ…」

ダンジョンがモンスターを産んでいる。

そうとしか言えない現象がそこでは起こっていた。

壁が生物のようにうねり、モンスターの姿を形作る。 

程なくして形作られたモンスターに色合いが生まれ、一匹のモンスターに生まれ変わる。

そんな信じられない現象が、俺たちを取り囲む四方の壁で同時に起こっていた。

「へぇえ…これがダンジョンがモンスターを生み出すってやつなのか…」

エドワードの説明で、ダンジョン内のモンスターはダンジョンの壁から生まれる、なんてのがあったが、どうやらそれが目の前で起こっていることらしい。

俺は今、なかなか貴重な体験をしているのではないだろうか。

「ひぃいいい!?」

「いやですわ…!!こんなところで死にたくないですわ…!!」

俺がダンジョンがモンスターを生み出す様をじっと見つめる中、二人は怖がって互いに抱き合っていた。

「だから言ったんだよぉ…中層には行かないほうがいいって…」

「ごめんなさいですわ!!本当にごめんなさいですわ!!」

抱き合って泣きべそをかいている二人。

完全に戦意を喪失していて、とてもじゃないが戦力として数えられそうにない。

仕方ない。

俺一人でやるしかないようだ。

「確認なんだが…」

近づいてくるモンスターを見据えながら、俺は背後の二人に尋ねる。

「こいつらを全部倒せばここから出られるんだよな?」

「そうだけど…もう無理だよこんな数っ!!」

「私のせいで…三人ともここで死ぬんですわぁあああ!!!」

「おーけー。それが分かれば…」

不覚にもニヤリと笑ってしまった。

もしかしたらようやく思う存分力を震える機会がやってきて内心俺はこの状況を楽しんでいるのかもしれなかった。

『グルルルル…』

『ブモォオオ…』

『オガァアアア…』

『キシェェエエエエ…』

ダンジョンの壁から生み出されたモンスターの中には、上級モンスターも何体も混じっているようなので、相手にとって不足はないだろう。

「やるか」

俺はまず前方のモンスターを殲滅すべく、群れの中に突撃していった。
 

十分後。


「ふぅ…こんなもんかな」

俺は額の汗を拭った。

「そ、そんな…」

「嘘ですわ…こんなのあり得ないですわ…」

座り込んで抱き合っているシスティとヴィクトリアが、唖然としている。

俺たちの周囲には……モンスターの死体が無数に転がっていた。

全部で百匹はいただろうか。

上級も多数混じっていたために、十分程度の時間がかかってしまったが、結果としてシスティとヴィクトリアに全くの怪我をさせずに全てのモンスターを殲滅することに成功した。

「気持ちいいな…」

久々にいい汗をかいた。

学院生活が始まってから、なかなか全力を出す機会がなかったからな。

俺は気持ちのいい疲労感にしばらくの間身を委ねる。

「お…あれは…?」

気づけば、正方形の空間の一角に扉のようなものが現れていた。

モンスターを全て倒せば部屋から出られるというのは本当だったようだ。

俺は座り込んでいる二人にもとへと歩いていく。

「出口ができたみたいだ。出ようぜ」

「「…」」

手を差し伸べたのだが、二人からの反応がない。

まるべ化け物を見るような目で俺を見ている。

「あー…なんつーか…」

俺は頬をポリポリとかきながら言った。

「ここで見たことはみんなには内緒にしておいてほしいんだ。学院の誰にも言わないと約束してほしい…ダメだろうか?」

あまり本当の実力を知られたくない。

知れ渡ると絶対に面倒ごとになると俺の予感が告げているからだ。

ゆえに、二人にはここで起きたことをあまり他言してほしくなかった。

「わ、わかった…」

しばらくして我に帰ったようにシスティが言った。

「りょ、了解ですわ…でも…言っても誰も信じませんわよ…こんなの…」

ヴィクトリアも、未だ信じられないと言った表情ながらも俺の頼みを了承してくれたのだった。
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