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第百十一話

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「ここだよ」

「ありがとう。恩に切るよ」

半時間後。

俺は現地人の少年の案内で近くの冒険者ギルドへと辿り着いた。

「さて…」

ここへきた目的をもう一度頭の中で反芻する。

「探すのは案内人だ。この街のダンジョンを、よく知っている、な」

ここへきた理由は、ダンジョンの案内人を探すためだった。

モンスターの坩堝、ダンジョンは多くの場合、入り組んでいてさまざまな分岐が存在する。

そのため、目的地である三十階層の安全地帯にたどり着くには、この街のダンジョンに精通した案内人の存在が必要不可欠だった。

冒険者の集まるギルドを訪れ、冒険者を雇う。

金は、かなりの額が任務遂行のための費用として帝国魔道士団から支給されている。

「よし」

すべきことを確認した俺は、両開きの扉から冒険者ギルドの中へと足を踏み入れた。

「あぁん?」

「おぉん?」

中へ入ると、そこは酒場のようなスペースで、昼間から酒を飲み、顔を赤くしている冒険者がこちらへ視線を飛ばしてきた。

中には俺をジロジロ見たり、睨みつけているものもいて、隙あらば突っかかってきそうな雰囲気を感じる。

彼らと揉め事を起こして目立ちたくなかった俺は、なるべく目を合わせないようにして歩きながら、奥にある受付スペースを目指した。

「ふぅ…」

なんとか酒場のスペースを抜けて受付に到着。

「今日はどのようなご用件でしょうか」

俺がため息をついていると、受付嬢がにこやかに話しかけてきた。

「実は…この街のダンジョンに精通している冒険者を探していて…」

「案内人、ということでしょうか?」

「まぁ、そうだ。募集できるか?」

「はい。もちろんです。募集要項をお聞かせ願えるでしょうか」

俺は受付嬢にさまざまな募集要項を伝え、仲介料を払い、案内人募集の張り紙を掲示板に貼り付けてもらった。

「それでは、ギルド内でお待ちください。冒険者が募集してきたら、お知らせしますので」

「よろしく頼む」

俺は酒場スペースの端っこのなるべく目立たない場所に座り、冒険者に絡まれないことを祈りながら注文した酒をちびちびと飲んでいた。

しばらくして、俺の肩をぽんぽんと叩く者があった。

「あんたがこれの募集主か?」

「ん?」

振り返ると、そこに立っていたのはすらりと背の高い女だった。

黒髪の美人。

筋肉質な体つきで、腰には長剣をぶら下げている。
手に掲げているのは、俺が出した募集の張り紙だった。

「そうだが?」

「あたしでどうだ?案内するぜ?」

女冒険者はニヤリと笑いながら言った。

「それとも女じゃ不安か?」

「別にそういうことはない」

今回俺が求めているのはあくまで案内人だ。

戦闘力は、そこまで求めていない。

危険になれば戦闘は俺が担当すればいいのだから。

「ここまで金払いがいい募集は久々に見たぜ。三十階層の安全地帯までの案内だろ?あたしに任せな」

「あんた、冒険者なのか?」

「おうともよ」

「何年になる?」

「十五年のベテランだ。私は十歳の頃から冒険者をやってるんだぜ?」

「…なるほど」

嘘を言っているようには見えない。

俺はこの女冒険者を雇うことにした。

「わかった。あんたを雇いたい」

「よし」

俺は女冒険者と握手を交わす。

「俺はマグナスだ。あんたは?」

「あたしはアンジェラってんだ」

俺はあらかじめ決めていた偽名を使った。

女冒険者……アンジェラは俺を真っ直ぐに見つめながら自信げにいった。

「金を先払いでもらおうか。その代わり、あんたを無傷で安全地帯まで送り届けてやるよ」



「おい、マグナス。あんた、何でこの街に来たんだ?どうして安全地帯を目指す?」

それから二時間後。

俺は案内役として雇ったアンジェラと共に薄暗い通路の中を進んでいた。

ここは既に地下迷宮、ダンジョンの中だ。

足を踏み入れて一時間。

現在俺たちは十階層の近辺を進んでいる。

出発の前に自信げな態度を見せていただけあって、アンジェラの実力は相当のものだった。

ダンジョンに精通しているというのもどうやら本当のようで、ここまで少しも迷うことなく、完璧に俺を先導して入り組んだダンジョンの中を進んでいる。

アンジェラの索敵能力は大したもので、罠を事前に回避したり、モンスターの気配を察知すると、道を変えて銭湯をやり過ごしたりしている。

おかげで俺たちは大した足止めを喰らうこともなく、ここまで驚くべきスピードで進んでいた。

「答えないとダメか?」

「無理にとは言わないけどな。でも気になるだろ?見知った道をただ歩くのみ暇だしよ」

そんな中、前を歩くアンジェラが俺に話を振ってきた。

どうやらダンジョンの案内がアンジェラにはあまりに簡単なミッションで暇を持て余しているらしかった。

「そうだな…実は何年も前に一度このダンジョンの安全地帯を訪れてな。その時にできた知り合いにまた会いに来るっていう約束をしたんだ。せっかくこの街に立ち寄ったから、その時の約束を果たそうと思ってな」

「へぇ…律儀な性格だな」

自分から聞いたくせに、アンジェラは興味なさげな相槌を打った。

理由が普通すぎて、ガッカリしたのかもしれない。

だが、俺にとっては疑われないことこそが重要だった。

「ま、何にせよ雇ったのがあたしでよかったな、マグナス。腕の悪い奴なら二日はかかったかもな。あたしなら半日と経たずに安全地帯についてみせる」
「期待してるぞ」

「おうよ」

アンジェラがこちらを振り返ってニカっと笑った。

「た、助けてくれぇええええええええ!!!」
「「…?」」

前方からそんな声が聞こえてきたのはそんな時だった。
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