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第百十六話
しおりを挟む「ん~ん~♪」
「はぁ…」
上機嫌そうなアンジェラと共に俺はダンジョン三十階層安全地帯の街を歩く。
本来は単独で行動する予定が、アンジェラに押し切られ同行を許可してしまった。
推しに弱い自分の性格をどうにかして直す必要性を俺はひしひしと感じていた。
「同行するからには色々と手伝ってもらうからな」
「おうよ」
せめてもの抵抗としてアンジェラをとことんまで使い潰してやろう。
そう思い、俺はアンジェラに色々と街のことを尋ねる。
「教えてほしいのは、この街の大方の地形、規模、統括組織、それから……どこか情報の集まる場所だな。答えられるか?」
「もちろんだぜ。この街に来たことは何度もあるからな。何でも聞いてくれよアリウス」
アンジェラは俺の質問にすらすらと答えていく。
俺はアンジェラからもたらされる情報を頭の中に叩き込んだ。
一見無駄とも思える情報も何かの役に立つかもしれないからな。
「まぁこの街の基本情報に関してはこんなところだな。他には聞きたいことはあるか?」
一通りこの街のことをしゃべったアンジェラが、そう尋ねてくる。
「そうだな……この街のことなら何でも知ってる都合のいい情報屋、なんてのはいないか?」
この街のどこかに逃げ込んだターゲット。
そいつの居場所を、俺はほとんど無情報の状態から突き止めなくてはならない。
手っ取り早く思いつく方法といったら、情報屋から情報を買うことだった。
「そうだなぁ…確か、この街だと情報屋ロッペルってやつがいたかな」
「ロッペル?そいつは優秀な情報屋か?」
「わからん。けどあたしが名前を知ってるぐらいだから、やっぱり有名なんじゃないのか?」
「そうか…他に思いつく情報屋の名前は?」
「この街のだろ?うーん…特には思いつかないな」
「よし、ならそいつに会いに行ってみるか。居場所は?」
「さあ?適当に酒場に入って冒険者にでも聞いてみようぜ」
「そうだな」
アンジェラの案を採用し、俺たち二人は手近にある酒場に入った。
この街を訪れる人間のほとんどが冒険者のためか、無作為に選んだ酒場の中は冒険者で溢れかえっていた。
騒がしく賑わっている店内を俺たちは縫うようにして進み、カウンター席に座る。
「さて…どっちがやる?」
「頼んでいいか?冒険者との付き合い方はお前の方が心得てるだろ?」
「了解。任せときな」
酒を注文し、しばらくチビチビと飲んで時間を稼ぎ、店の中の客として馴染んだ後、俺はアンジェラに他の冒険者から情報を聞き出すよう頼んだ。
アンジェラは喜び勇んで、他の冒険者に話しかけていく。
「おぉ…上手いな…」
俺は冒険者たちに次々話しかけていくアンジェラを観察する。
アンジェラは持ち前の気さくさと淡麗な容姿で、簡単に初対面と思われる冒険者に接近し、笑顔で酒を酌み交わして情報を訪ねて回っていた。
「お…あれは手応えあったな…」
近くのテーブルから順繰りに情報を探っていき、ちょうど四つ目のテーブルがビンゴだったらしい。
アンジェラが満足顔でこちらに歩いてきた。
「褒めてくれよ、アリウス。あたしやったぜ」
「ロッペルの情報を手に入れたのか?」
「ああ。町外れで表向き武具屋を営みながら情報を売り捌いているらしい」
「よし、よくやった」
俺一人で情報集めをやれば、少なくとも二倍以上の時間がかかっただろう。
俺はアンジェラの手腕に素直に感心していた。
「へへっ。あたしも案外役に立つだろ?」
アンジェラがニカっと笑う。
「そうだな…さっきは無碍にして悪かったよ」
「わかればいいんだ」
俺は勘定を済ませてアンジェラと共に酒場を後にした。
「ロッペルから情報を買うのか?アリウス」
「ああ、そのつもりだ」
酒場を後にした俺は、アンジェラと共に情報屋ロッペルが営んでいるという町外れの武具店を目指した。
地上では時刻は深夜だろうが、ダンジョン内に存在するこの街に昼や夜の概念は存在しない。
本来ならば一日中暗い闇に包まれているのだろうが、あちこちに設置された魔石灯が街全体を明るく照らし出している。
「金はあるのか?情報屋から買う情報ってのは総じて高いものだぜ?」
「帝国魔道士団から費用は支給されている。それで足りるだろう…それよりもアンジェラ。一つあらかじめ伝えておかないと行けないことがある」
「ん?なんだ?」
「俺が今からロッペルの店へ行って、ロッペルに何をしようと、絶対に騒ぐな。驚くな。いいか?」
「…どう言うことだ?アリウス。お前、ロッペルに何するつもりだよ?」
「誘拐。それから…最悪拷問?」
「はぁ…?」
アンジェラがポカンと口を開け、俺をまじまじと見つめた。
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