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第四話
しおりを挟む翌朝。
俺は約束通りアルトリアの屋敷を訪れていた。
カイル・アルトリアは俺に、実力を示すためのチャンスを与えると言っていた。
一体どのような方法で俺の実力を測るのだろうか。
「アルト様、ですね。お待ちしておりました。すでにカイル様とニーナ様の2人が中庭で待機しています」
門の前で待っていた従者に導かれ、俺は屋敷の中庭へとやってきていた。
「あっ、アルト様!」
「きたか、アルト」
そこにはニーナとあるとの他に、見覚えのある顔が一つあった。
「よお、アルト。待ってたぜ」
「お前は…緋色の剣士のミリアか」
そこにいたのは、顔見知りの冒険者…ギルド『緋色の剣士』所属の戦士ミリアだった。
可愛らしい容姿に似合わぬ高い戦闘力から、冒険者界隈では彼女を知っているものは多い。
…なぜ彼女がここに?
「紹介しようと思ったのだが、なんだ2人は知り合いか」
カイルが俺とミリアを交互に見比べていった。
「どうしてミリアがここに?」
俺はカイルに尋ねる。
「彼女は君の腕試しのために呼び寄せた。今からアルト、君にはこのミリアと戦ってもらう。勝てば我が屋敷の騎士になることを認めよう」
「…なるほど」
俺の実力を測るためにミリアを一日限り雇ったのか。
「へっへっへ。そう言うわけだ、アルト。あたしとガチンコ勝負、しようぜ」
ミリアが両手で括りナイフを振り回しながらそんなことを言ってくる。
好戦的な性格のミリアはやる気十分といった感じだった。
「わかりました。やりましょう。確認しますが…彼女に勝てば、俺は騎士として雇ってもらえるんですよね?」
「そう言うことだ」
カイルが深く頷いた。
言質はとった。
こいつに勝って、俺は貴族家の騎士となる。
そうすれば、待っているのは毎月高い給料の支払われる安定した生活だ。
「うし…やるか…」
腰の剣を抜いて、軽く振り回す。
「頑張ってください!アルト様!」
ニーナがぐっと拳を握って応援してくる。
俺は彼女に向かって頷いてから、ミリアに向き直った。
「悪いが、手加減はしないぞ、ミリア」
「当たり前だ!!へへっ。あたし、いつかあんたと戦ってみたいと思ってたんだよ!願いが叶った上に報酬までもらえるなんて…今日はついてる!!」
俺たちは互いに10メートルほどの距離で向かい合った。
互いに武器を構えて睨み合う。
「合図は私が出そう…よーい…始め!!」
カイルが自ら戦いの火蓋を切って落とす。
「うりゃああああああ!!!」
覇気のある声を上げながら、戦士ミリアがククリナイフと共に突進してきた。
それから5分が経過した頃。
「ま、まさか…ここまで強いとは…お見それしたぜ…」
「すまんな。こっちも生活がかかってるもんで」
そこにはククリナイフを失って膝をつくミリアと、無傷で剣の刃をその首筋に当てる俺がいた。
勝負は俺の勝ちだ。
果敢に攻めてきたミリアの攻撃を俺は全て捌いて、ほぼ無傷で完勝した。
確かにミリアは強かったが、しかし、年齢もまだ若く、経験も足りていないため、攻撃には隙があった。
その隙をつく形で俺はミリアの両手のククリナイフを二つとも叩き落として、戦闘不能に陥らせた。
先輩冒険者として、ちょっと大人気ないかも知れなかったが、こっちも生活がかかってるんでな。
悪いなミリア。
「あんたの勝ちだ、アルト。おめでとう」
「きゃあ!!やりました、アルト様!!」
ミリアが敗北宣言をし、ニーナが興奮したように飛び跳ねる。
俺は剣を納めてから、カイルを見やる。
「勝ちました。約束通り、俺を騎士として雇ってくれますね?」
「ぐぬぬぬぬ…」
まさか勝てるとは思っていなかったのだろうか。
カイルが悔しげな表情で唸り声を上げた。
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