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第三話

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「だめだ。こんな誰とも知らない奴を雇うわけにはいかん」

「そんな…!お父様、どうして…?」

貴族の屋敷。

その応接室。

豪奢な服に身を包んだ男…この屋敷の主人、カイル・アルトリアが俺を睨みながら首を横に振った。

「お父様、お願いします!このかたは…アルト様は私の命の恩人なのですよ!?」

そう懇願しているのが、先ほど俺が助けた少女、ニーナ・アルトリア。

彼女曰く、父上ならきっと俺を騎士として雇ってくれるだろうと言うことだったが、反応は芳しくない。

さっきから俺に疑るような視線を向けてきている。

「命の恩人か…ふん、どうだか」

「私の言葉が信じられないと言うのですか、お父様」

「…本当にその男に助けられたのか?」

「はい。間違いなく」

「そうか…」

ジロジロと俺を観察するカイル・アルトリア。
やがて小馬鹿にするようにはっと短く息を吐いた。

「まぁいい。そう言うことなら、一応お礼はする。おい、金をいくらか持ってこい」

命じられた従者が金の入った袋を持ってくる。

カイル・アルトリアは俺にそれを投げてよこした。

「娘を助けてくれて感謝するぞ。ほら、取っておけ」

袋はそれなりに重たかった。

貴族にしては少額の報酬だが、しかし、俺に取ってはかなりの金額。

これだけもらえたら十分だろうと、俺は立ち去ろうとする。

「ありがとうございます。じゃあ、俺はこれで」

「待ってください、アルト様!!」

そんな俺をニーナが引き止めた。

「お父様!どうしてそこまでアルト様に冷たくするのですか!この方の実力は本物です!!2人を…ほんの一瞬で倒してしまったのですよ!?お父様もあの瞬間を見れば、絶対にアルト様を騎士としてお雇いになると思います」

「2人を一瞬で、か…本当ならすごいかもしれんが、その2人とそいつがグルとも限らんだろう?金を渡したのだし、それでいいじゃないか」

「お父様は、これが私の命の値段だとおっしゃるのですか!!」

ニーナが俺から金の入った袋を奪い取って、ジャラジャラと振る。

この子、お淑やかな雰囲気の割に案外強情だな。

「そ、そう言うわけではないが…」

そして貴族家の当主といえど、娘の言葉には弱いのか、ちょっとたじろぐカイル・アルトリア。

俺とニーナを交互に見て、少し悩むような仕草を見せた後…

「わかった…わかったよニーナ。では、その男にチャンスを与えるとしよう。私に実力を示すチャンスを」

「お父様…!」

ニーナが瞳を輝かせる。

カイルが俺に近づいてきて、言った。

「アルト、だったか。もしこの屋敷の騎士になりたいのなら、明朝にもう一度ここを訪れろ。お前の実力を試す機会を与える」

「はい。是非伺います。ありがとうございます」

貴族に取り入るチャンスを無駄にはすまいと、俺は即決する。

「よし。では今日のところは去るがいい」

「失礼します」

俺はお辞儀をして部屋を出る。

「あっ、お見送りします!」

ニーナが後からついてきて、門のところまで見送ってくれた。





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