影裁の王国〜守護〜 裏切りの刃が切り裂くとき

獅子神

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祝祭の影

疑惑の目

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臨時詰所は、騎士団の施設を借り受けたものだった。

 白い石壁。
 磨き上げられた床。
 どこまでも整然としている。

 だが――

 シンは、落ち着かなかった。

「影裁の皆さん、改めて感謝します」

 リア・トルー・トゥゼンは、深く頭を下げた。

 部隊長用の白銀鎧。
 装飾は最小限。
 その姿勢は、終始ぶれていない。

「今回の被害を最小限に抑えられたのは、
 あなた方の迅速な判断のおかげです」

「仕事だからな」

 ローレンスは肩をすくめる。

「だが……正直に言えば、後味は悪い」

「同感だ」

 ミオも短くうなずいた。

 リアは、真っ直ぐ二人を見る。

「疑われているのは承知しています。
 騎士団が、内部情報を漏らした可能性がある以上」

 逃げない。
 言い訳もしない。

 その態度に、サラは少しだけ目を細めた。

「……リアさんは、どう思っているんですか?」

「騎士団の名を、信じたい」

 即答だった。

「ですが、事実から目をそらすつもりはありません。
 たとえ――身内であっても」

 その言葉には、覚悟があった。

 シンは思う。

 この人は、本気だ。



 調査は続いていた。

 押収された魔道具。
 犯行ルート。
 逃走経路。

 そのすべてを――

「こちらで整理しておきました」

 セバスチャン・ディンが、書類を差し出す。

 無駄のない動き。
 整ったオールバック。
 参謀然とした佇まい。

「騎士団側の巡回記録と照合しています。
 時間のロスはありません」

「……仕事が早いな」

 ローレンスが感心半分で言う。

「当然です」

 セバスチャンは眼鏡を押し上げた。

「影裁の皆さんに、余計な負担をかけるわけには」

 その言葉に、違和感はない。
 だが――

(……早すぎる)

 シンは、書類に視線を落とす。

 事件発生から、まだ半日も経っていない。
 にもかかわらず、情報が揃いすぎている。

 偶然か。
 有能だからか。

 それとも――

「セバスチャン」

 リアが声をかける。

「無効化魔道具の搬入経路は?」

「不明です」

 即答。

「記録はありませんでした。
 倉庫、輸送、設置――どこにも」

「……そう」

 リアは一瞬、唇を噛んだ。

「だからこそ、徹底的に洗い出す。
 私の権限で、全記録を開示する」

 騎士団の中が、ざわめいた。

 前代未聞だ。
 部隊長自ら、内部を疑う宣言。

「リア隊長、それは――」

「止めないで」

 彼女は、振り返らない。

「王都を守る剣が、
 民を裏切っていたとしたら――
 それは、騎士団の敗北です」

 その言葉に、嘘はなかった。



 詰所の外。

 短い休憩時間。

「……どう思う?」

 ミオが、シンにだけ聞く。

「セバスチャンのこと」

「わからない」

 正直な答え。

「有能だ。だが――」

「違和感がある」

 ミオは、同意した。

「情報の整い方が、尋常じゃない。
 まるで、事前に用意されていたみたい」

 サラは、少し迷ってから口を開く。

「でも……セバスチャンさん、
 騎士団を守ろうとしてるようにも見える」

「それが一番、厄介だ」

 ローレンスが低く言う。

「守るために、何を切るかは分からない」



 その夜。

 騎士団施設の廊下。

 セバスチャンは、一人で立ち止まっていた。

 灯りの下。
 床に残る、かすかな――

(……残っていない)

 足跡が、ない。

 あれだけの混乱。
 血と人の流れ。

 それなのに――
 “あるはずのもの”が、ない。

 彼は、眼鏡を外し、静かに息を吐いた。

「……まさか」

 誰にも聞かれない、小さな声。

 白銀の正義の裏で、
 何かが、確実に狂っている。

 そして――

 その違和感は、影裁よりも先に、
 彼の目に映ってしまった。
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