影裁の王国〜守護〜 裏切りの刃が切り裂くとき

獅子神

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祝祭の影

影に足を踏み入れた

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王都ラオ・セラフィーの朝は、冷え切っていた。

 石畳に残る祭りの痕跡も、今は踏み荒らされ、形を失っている。

 騎士団施設――資料保管区。

 セバスチャン・ディンは、誰もいない室内で書類を広げていた。

「……妙だな」

 小さく漏れた声。

 彼の前にあるのは、合同調査の記録。
 配置図、巡回報告、被害状況。

 どれも、整いすぎている。

(騒ぎの割に、きれいすぎる)

 違和感は、ずっと前からあった。
 だが、それを口にする者はいない。

 ――いや。

 口にできない空気が、最初からあった。

「……」

 セバスチャンは、眼鏡を外し、指で眉間を押さえた。

 考えすぎだ。
 そう思おうとするほど、頭の奥で警鐘が鳴る。



「セバスチャン」

 背後から、声。

 振り向くと、リア・トルー・トゥゼンが立っていた。

 短い黒髪。
 白銀の鎧を脱ぎ、簡素な執務服に身を包んでいる。

「まだ作業を?」

「ええ。少し、気になる点がありまして」

「無理はしないで」

 柔らかい声。

「あなたは、騎士団にとって必要な人よ」

 その言葉に、胸が僅かに痛んだ。

「……身に余る評価です」

「事実よ」

 リアは迷いなく言った。

「私は剣しか振れない。
 あなたがいなければ、指揮は成り立たない」

 信頼。
 疑いのない、まっすぐな善意。

(……だからこそ)

 セバスチャンは、視線を伏せた。

「部隊長」

「何?」

「……いえ。何でもありません」

 言えなかった。

 自分の中に芽生え始めた“違和感”を。
 それを口にすることが、裏切りになる気がして。



 一方、影裁。

「現場を洗い直す」

 シンは簡潔に言った。

「合同調査が入った後の跡地。
 何か、残ってる可能性がある」

「騎士団が見落としたもの?」

 サラが首を傾げる。

「見落としたか……」

 ミオが静かに続ける。

「あるいは、最初から見なかったか」

 沈黙。

「ローレンスは?」

「街」

 本人が、どこからともなく現れた。

「情報集め。ついでに、女の子とおしゃべり」

「……真面目にやってる?」

「もちろん」

 笑いながらも、その目は冴えている。

「敵の名前が出た。
 《レイヴン・ブレイヴ》」

「……テロ組織」

「元騎士団員が多い。
 内部事情に詳しいのも、納得だ」

 シンはうなずいた。

「俺たちは現場へ行く。
 ローレンスは引き続き街で動け」

「了解」



 夜。

 騎士団施設の裏通路。

 セバスチャンは、フードを深く被って歩いていた。

 向かう先は、決まっている。

 影裁。

(危険だな……)

 それでも、足は止まらない。

 自分が何をしようとしているのか、
 はっきりと言語化できないまま。

 騎士団を守るためか。
 自分自身を守るためか。

 あるいは――
 もっと、別の理由か。

「……リア隊長」

 彼は、誰にも聞こえない声で呟いた。

 信じている。
 だが、信じるだけでは足りない気がした。

 白銀の正義の裏側で、
 何かが確実に動いている。

 その中心に近づこうとする自分が、
 すでに“影”に足を踏み入れていることを――

 セバスチャン・ディンは、
 まだ、自覚していなかった。
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