6 / 12
祝祭の影
犠牲
しおりを挟む
夜の王都は、静かだった。
あまりにも静かで――
かえって、嫌な予感がした。
シンは、屋根の縁に立っていた。
下を見下ろせば、石畳の路地。
人影はない。
だが。
(……遅い)
影裁との接触を求める者がいる。
騎士団の内部関係者。
それが、事前に共有されていた情報だった。
時間は、すでに過ぎている。
「シン」
低い声。
ミオが、隣に降り立った。
「来ないな」
「ああ」
サラとローレンスは、別ルートを警戒している。
逃走経路。
もしくは――口封じ。
その可能性を、シンは最初から捨てていなかった。
騎士団。
正義の仮面を被った、組織。
(……信用する理由が、ない)
⸻
路地の奥。
血の匂いが、先に来た。
かすかだが、確実に。
シンは、足を止める。
「……ここだ」
闇の中に、倒れている人影。
駆け寄るまでもない。
見た瞬間に、分かった。
セバスチャン・ディン。
胸を、鋭利な刃物で一突き。
致命傷。
「……」
シンは、しゃがみ込む。
顔は穏やかだった。
抵抗した形跡は、ない。
――不意打ち。
もしくは、信じた相手にやられた。
「……やっぱり、か」
ローレンスが、遅れて現れる。
「接触しようとした人間は、だいたいこうなる」
サラは、何も言わずに目を伏せた。
ミオは、周囲を睨みつける。
「……まだ近くにいる可能性は?」
「ない」
シンは即答した。
「殺しは済んでる。
目的は“止めること”だ。
見せしめでも、ごまかしでもない」
ただ、黙らせるため。
それだけの殺し。
シンは、セバスチャンの手元を見る。
指は、強く握られていた。
(……何かを、つかんで死んだ)
だが、それはもう――
彼の口から語られることはない。
⸻
翌朝。
騎士団施設。
「……そんな」
リア・トルー・トゥゼンは、愕然とした表情を浮かべた。
「セバスチャンが……?」
演技か。
本心か。
シンは、判断しない。
感情を読む必要はない。
必要なのは、事実だけだ。
「影裁との接触を試みた直後に殺害された」
ローレンスが淡々と報告する。
「偶然とは思えません」
「……私の、責任です」
リアは、うつむいた。
「彼を守れなかった。
それに……疑っていたのは、私自身だった」
苦悩。
後悔。
整った筋書き。
(……綺麗すぎる)
シンは、内心で吐き捨てた。
「魔道具の出所について、何か分かったか?」
核心を突く。
リアは、一瞬だけ間を置いてから答えた。
「旧軍の廃棄倉庫です」
「騎士団が管理していた?」
「はい。ですが、紛争時代のものです。
記録は不完全で……」
「つまり、誰でも盗めたと」
「……そうなります」
ローレンスが、眉をひそめる。
「都合がいいな」
「疑われるのは、承知しています」
リアは、まっすぐに言った。
「ですが、私たちは真実を――」
「信じろ、と?」
シンが、言葉を切った。
場の空気が、凍りつく。
「俺は、騎士団を信じない」
静かな声。
だが、揺れはない。
「俺の家族は、騎士団に殺された」
リアの瞳が、わずかに揺れる。
「あなたが直接やったとは言わない。
だが――
同じ組織だ」
剣を持つ者。
命令を出す者。
見て見ぬふりをする者。
全員、同罪だ。
「だから、話は聞く。
だが、信じはしない」
それが、シンの選択だった。
⸻
施設を出た後。
「……強く出すぎたか?」
サラが、小さく聞く。
「いい」
シンは、短く答えた。
「疑うべき時に疑わないのは、死ぬより悪い」
ミオが、うなずく。
「リアの情報、どこか引っかかる」
「俺もだ」
ローレンスが続ける。
「廃棄倉庫の線、薄すぎる。
誰かに用意された“答え”だ」
セバスチャンの死。
差し出された情報。
そして、消えた真実。
(……急いでる)
敵は、焦っている。
だから――
殺した。
だから――
嘘を重ねた。
シンは、刀の柄に手を置く。
憎しみは、消えない。
だが、それに呑まれることもない。
信じない。
だからこそ、見えるものがある。
影は、まだ――
騎士団の中にある。
それを断ち切るために、
この剣はある。
あまりにも静かで――
かえって、嫌な予感がした。
シンは、屋根の縁に立っていた。
下を見下ろせば、石畳の路地。
人影はない。
だが。
(……遅い)
影裁との接触を求める者がいる。
騎士団の内部関係者。
それが、事前に共有されていた情報だった。
時間は、すでに過ぎている。
「シン」
低い声。
ミオが、隣に降り立った。
「来ないな」
「ああ」
サラとローレンスは、別ルートを警戒している。
逃走経路。
もしくは――口封じ。
その可能性を、シンは最初から捨てていなかった。
騎士団。
正義の仮面を被った、組織。
(……信用する理由が、ない)
⸻
路地の奥。
血の匂いが、先に来た。
かすかだが、確実に。
シンは、足を止める。
「……ここだ」
闇の中に、倒れている人影。
駆け寄るまでもない。
見た瞬間に、分かった。
セバスチャン・ディン。
胸を、鋭利な刃物で一突き。
致命傷。
「……」
シンは、しゃがみ込む。
顔は穏やかだった。
抵抗した形跡は、ない。
――不意打ち。
もしくは、信じた相手にやられた。
「……やっぱり、か」
ローレンスが、遅れて現れる。
「接触しようとした人間は、だいたいこうなる」
サラは、何も言わずに目を伏せた。
ミオは、周囲を睨みつける。
「……まだ近くにいる可能性は?」
「ない」
シンは即答した。
「殺しは済んでる。
目的は“止めること”だ。
見せしめでも、ごまかしでもない」
ただ、黙らせるため。
それだけの殺し。
シンは、セバスチャンの手元を見る。
指は、強く握られていた。
(……何かを、つかんで死んだ)
だが、それはもう――
彼の口から語られることはない。
⸻
翌朝。
騎士団施設。
「……そんな」
リア・トルー・トゥゼンは、愕然とした表情を浮かべた。
「セバスチャンが……?」
演技か。
本心か。
シンは、判断しない。
感情を読む必要はない。
必要なのは、事実だけだ。
「影裁との接触を試みた直後に殺害された」
ローレンスが淡々と報告する。
「偶然とは思えません」
「……私の、責任です」
リアは、うつむいた。
「彼を守れなかった。
それに……疑っていたのは、私自身だった」
苦悩。
後悔。
整った筋書き。
(……綺麗すぎる)
シンは、内心で吐き捨てた。
「魔道具の出所について、何か分かったか?」
核心を突く。
リアは、一瞬だけ間を置いてから答えた。
「旧軍の廃棄倉庫です」
「騎士団が管理していた?」
「はい。ですが、紛争時代のものです。
記録は不完全で……」
「つまり、誰でも盗めたと」
「……そうなります」
ローレンスが、眉をひそめる。
「都合がいいな」
「疑われるのは、承知しています」
リアは、まっすぐに言った。
「ですが、私たちは真実を――」
「信じろ、と?」
シンが、言葉を切った。
場の空気が、凍りつく。
「俺は、騎士団を信じない」
静かな声。
だが、揺れはない。
「俺の家族は、騎士団に殺された」
リアの瞳が、わずかに揺れる。
「あなたが直接やったとは言わない。
だが――
同じ組織だ」
剣を持つ者。
命令を出す者。
見て見ぬふりをする者。
全員、同罪だ。
「だから、話は聞く。
だが、信じはしない」
それが、シンの選択だった。
⸻
施設を出た後。
「……強く出すぎたか?」
サラが、小さく聞く。
「いい」
シンは、短く答えた。
「疑うべき時に疑わないのは、死ぬより悪い」
ミオが、うなずく。
「リアの情報、どこか引っかかる」
「俺もだ」
ローレンスが続ける。
「廃棄倉庫の線、薄すぎる。
誰かに用意された“答え”だ」
セバスチャンの死。
差し出された情報。
そして、消えた真実。
(……急いでる)
敵は、焦っている。
だから――
殺した。
だから――
嘘を重ねた。
シンは、刀の柄に手を置く。
憎しみは、消えない。
だが、それに呑まれることもない。
信じない。
だからこそ、見えるものがある。
影は、まだ――
騎士団の中にある。
それを断ち切るために、
この剣はある。
0
あなたにおすすめの小説
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
冴えない建築家いずれ巨匠へと至る
木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」
かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。
安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。
現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。
異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
追放された最強令嬢は、新たな人生を自由に生きる
灯乃
ファンタジー
旧題:魔眼の守護者 ~用なし令嬢は踊らない~
幼い頃から、スウィングラー辺境伯家の後継者として厳しい教育を受けてきたアレクシア。だがある日、両親の離縁と再婚により、後継者の地位を腹違いの兄に奪われる。彼女は、たったひとりの従者とともに、追い出されるように家を出た。
「……っ、自由だーーーーーーっっ!!」
「そうですね、アレクシアさま。とりあえずあなたは、世間の一般常識を身につけるところからはじめましょうか」
最高の淑女教育と最強の兵士教育を施されたアレクシアと、そんな彼女の従者兼護衛として育てられたウィルフレッド。ふたりにとって、『学校』というのは思いもよらない刺激に満ちた場所のようで……?
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。
リョウ
ファンタジー
何者かになりたかった。
だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。
そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。
導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。
冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。
目指すのは、ただ生き延びることではない。
一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。
渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。
使い捨て聖女の反乱
あんど もあ
ファンタジー
聖女のアネットは、王子の婚約者となり、瘴気の浄化に忙しい日々だ。 やっと浄化を終えると、案の定アネットは聖女の地位をはく奪されて王都から出ていくよう命じられるが…。 ※タイトルが大げさですがコメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる