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クウガ 近づく期限
しおりを挟む俺が修行を再開してから、早いもんでもう何ヶ月も経っている。
その間に俺が強くなっているかと聞かれると、微妙なところだ。
その日、いつもの剣の修行を終えた後のこと。
ダグマルが渋い顔をして俺に伝えた。
「魔の森に向かう日が1ヶ月後に決まった」
マジかー・・・・・・。いや、わかってたけどね。1年後に魔王がやってくるってことは、その前に出発しないといけないということが。わかってたけども、時間が経つのって早いなぁ。こうやって人は年をとっていくんだなぁ。
「徒歩、ではないですよね?」
「それは絶対にないから安心しろ。ちゃんと兄貴と話をつけてある」
「あ、リグマルさんと会ったんですね」
それなら問題なさそうだな。あの人ならいろいろと工面してくれるだろう。リグマルを信頼するほどの面識はないが、ダグマルを連れて行くと言い出したのはあの人だ。兄弟を送り込むのに何の対策もしないというのはないだろう。兄弟仲が悪ければ話は別だが、ダグマルのことで会話したときのことを思えばそれはないだろう。ダグマルに対して嫌悪している様子はなかったし、むしろ俺を警戒していたくらいだ。
だが俺がリグマルの名を言った途端、ダグマルが片手で頭を抱えた。
「どうしました、ダグマルさん」
「いや、大丈夫だ。話を進めるぞ」
頭痛を耐えているようなダグマルだったが、そのまま説明がされた。
俺が魔の森に向かう際の乗り物や食料だけでなく、武器から防具まですべてリッセン公爵家が用意してくれるようだ。
「豪勢にする必要はねぇから、一般的な荷馬車を使うことになる。これは森に入るまでで、森に入った後はどうしても徒歩で魔王のところに向かうだろうけどな。それで言い辛いんだが」
そう言ってダグマルは渋い顔をした。
「クウガと共に向かう人数がほぼいないと言っていい」
「え、ダグマルさん来てくれるんじゃないんですか?」
俺が思わず尋ねると、ダグマルが目を見張った。
ちょっと待って、来てくれないの!? 俺リグマルからそう聞いてたんですけど!? 手違いか、手違いなのか。ダグマルがいるのといないのとじゃ戦闘面でもメンタル面でも大きく違うんですけど!
だが俺の心配とはうらはらにダグマルは口端を上げた。
「ああ、その通りだ。俺もクウガと行くぞ」
だがすぐに苦笑いになり、顎をかく。
「だがそれだけだ。魔王相手なんだから騎士全員で行ってもいいくらいなんだがな。それ以上の人員を割くことができない」
ああ、そういうこと。確かに言われてみたら少数精鋭で行くのは自殺行為ではあるよな。大人数だからいいってわけでもないけれど。
でもファンタジー小説とかRPGのイメージで、勝手に魔王のところに行くにはパーティーだって固定概念があったわ。
「理由を聞いてもいいですか?」
「まず魔の森に入ることは基本的に禁じられている。これは俺だけでなく、人間界では暗黙の了解といってもいい。魔の森で人間が食われた際、魔物が凶暴化するのがわかっているからだ。実際、10年前に魔物が暴走するようになったのもヘテロイヤル帝国のやつらが魔の森に入ったからだ。今回も人数を集めて森に入って死ねば、その被害はこの国にやってくる。だから必要最低限しか連れていけない。今のところ、クウガと俺と・・・・・・ステンのやつも着いてくるんだっけか?」
そう問われたのでうなずいた。それを確認し、ダグマルはまた話し出す。
「ステンが来てくれるのは正直ありがたいな。あいつなら荷馬車の運転も出来るだろうし、俺と交代で休憩しながら移動出来る。それに魔物に対抗する力もあるからな。魔力封じの石は、魔王相手にも有効のはずだ。だが他に連れて行けるやつがいねぇ」
「俺は行っちゃダメなんですか?」
ダグマルの言葉を遮って言ったのはロッドだ。本日の回復としての役目を終えてもロッドはまだここに止まって話を聞いていた。それまでは黙っていたロッドだったが、ここに来て口を開いた。
だがダグマルは首を横に振る。
「お前には家族がいるだろうが。そばにいてやれよ」
「隊長だってそうじゃないですか」
「死ぬ可能性の方が高い。さすがに俺もお前を庇って戦えないぞ」
「庇われるつもりはありませんが」
「これは上司命令だ。ただでさえ俺が離れるんだ。副隊長にいらない苦労かけるな」
ロッドは未だ不満げではあるが、口を噤み頭を下げた。
ダグマルはそれを見て、俺に視線を戻す。
「人を集められない理由はそれだけじゃない。あまりこの国の戦力を落としたくないんだ。帝国がその隙を狙って戦いを仕掛ける可能性も0だと言い切れない。だがそれよりもこの国の混乱を防ぐのが目的だ」
「混乱?」
「国を守る騎士たちの多くが国外に出てみろ。市民たちが暴動を起こしたときに対処が出来なくなる。そういうのを抑えつけるためにも騎士を動かすことは無理だ」
あ、そういう役割も果たしてるのか。
確かに騎士が急にいなくなれば不安が押し寄せてしまうのも仕方ないだろう。
そしてダグマルは「それと・・・・・・」と言葉を続ける。
「出来れば短期で決着をつけたい。用意するとはいえ、食料が足りなくなる」
凄い現実的な問題だった。ダグマルも眉間にしわを寄せている。
「準備はする。兄貴としっかり話し合った。だが魔の森じゃどうしたって食料を調達出来ないんだ」
「え、どういうことですか?」
「魔の森では獣がいない。魔獣もだ。さらに言うならば水もない」
「は? 水がなくて森が育つんですか?」
「俺も意味はわからねぇがな。ってか俺も魔の森に行ったことはないから、そこら辺の詳細はアトランに聞いてくれ。なんでも魔導師のところには捕獲した魔物が飼育してあるんだろ? 魔導師たちの報告資料ってのが騎士のところにもあがってんだよ」
あ、ココのことかな? あいつ、今何してるんだろうな。
あいつのことだから図太く生きているだろう。うん、問題ない。
「つまり食料が枯渇する前に帰れと・・・・・・。それも3人で・・・・・・」
思わずその場が沈黙した。ダグマルに関しては目をきつく閉じてうなだれている。
え、大丈夫。それ。
俺の不安に対してダグマルは言った。
「いや、食料に関してだけなら問題はない。満腹にはならないが、小型の携帯食料があればとりあえず餓死することはない。ただ水がないのがな。クウガが水魔法で水を出せばそれでいいっちゃいいんだが。正直なところ、魔法を使えるやつが1人欲しい」
そしてダグマルはギロリとにらみつける。俺にではない、ロッドにだ。
「ーー言っておくが、ロッド。お前はダメだからな。そもそもお前の唯一苦手な魔法が水だろうが」
言われたロッドは「グッ」と小さくうめき、視線をそらす。
ダグマルはハァとため息を吐いた。
「気は進まないが、魔導師か神官に頭を下げて人を寄越してもらうか」
「それって、サッヴァさんやアトランさんじゃダメなんですか?」
「無理だな。あの2人の立場がある。俺は隊長とはいえ立場的には比較的自由なんだ。王都ではなく街側の隊だしな。公爵と血の繋がりだってあってないようなもんだ。団長になるということもあり得ない。だがあいつらは違う。アトランは次の魔導師長になるのはほぼ確定だというし。サッヴァに関してはこの国の魔力を少なからず賄っている存在だ。それを世界の危機だとはいえ、国外に出すのは難しいだろ。
確かにサッヴァがいてくれたなら、クウガの支えにはなっただろうけどな。アトランは何考えているのかわからねぇが」
そうか。サッヴァとアトランは一緒は無理なのか。
いや、死ぬかもしれない。というより死ぬ可能性の方が高いところに着いてきてほしいって思うのがおかしいんだ。むしろ俺1人だったのが、ダグマルやステンがいてくれただけでも贅沢なんだろう。
「あの、ダグマルさん・・・・・・」
だが俺は心配なので、ダグマルに酷なことを尋ねたくなった。
「俺たちに、勝機ってあるんですか?」
その質問にダグマルは真顔になり、しばし考えてから口を開く。
「高くはないが、0ではない」
そしてそうはっきりと言った。その声には俺に対して嘘や誤魔化しの雰囲気はない。
「単純な力関係なら無理だ。力の差がはっきりしている。俺の持っている魔力をすべて防御に回したとしても長くは保たない。普通に戦えばまず無理だ。ーーだが、俺以外のメンツなら勝機が0でなくなる」
ダグマルは俺の目を凝視する。
「ステンは魔力封じの石を使える。あれは魔法で壊すことも吹き飛ばすこともできない。飛んでくる矢を武器で弾くぐらいだ。魔物に当たれば弱体化できる。だから俺が盾になって、ステンが攻撃しやすいようにさせる。
それにクウガの能力ならどんな命令だって可能だ」
そして俺の肩に手を置いて、ダグマルはそれに力を込めた。
「いいか。魔王と目が合ったら『死ね』って言えよ」
告げられた言葉にゾクッと寒気が走った。
予想していなかったわけではないが、いざ言われると緊張が走る。
「クウガ。相手は魔物だ。それも人を殺すことに躊躇が一切ないやつだ。いいか、人間だと思うなよ。少しでも戸惑ったら死ぬと思え」
「隊長」
俺が言葉をなくしていると、ロッドが強めの口調でダグマルに声をかける。ダグマルはハッとした顔で手を離して一歩後退する。そして苛立ちながら自身の頭を乱暴に片手でかいた。
「悪ぃな。勝機がなくはないとはいえ、余裕がないのが現実なんだ。死にたくなけりゃ、それだけ気を張っておけ」
俺はとりあえず何度か首を縦に振った。
ダグマルは困ったような表情で口を開きかけたが、すぐ閉じてまた頭をかいていた。
「クウガー」
ふと離れた場所から俺を呼ぶ声が聞こえた。その方に顔を向ければシャンケがこっちへと歩いて来ているのが見えた。ロッドも「何でここに来たんだ、あいつ」と目を丸くしている。
そして近寄ってきたシャンケは俺に伝言があると言った。
「今日はリーダーが街まで出られないから、オラがその旨を伝えるように言われたっぺよ。だからこっちに寄らずにそのままサヴェルナちゃん家に向かっていいっぺ」
「あ、わかった。わざわざありがとな」
「いや、別にいいっぺよ。ついでだからパンでも買って帰るっぺ。王都のパンって無駄に高値なのばっかだから」
そしてシャンケは視線を俺からロッドに移す。そして気安い様子で「よ」と手を挙げた。
「久しぶりっぺね。クウガが街に戻ってきたとき以来っぺか。あれ? もっと前だったっけ? あ、戦争が起こりそうになったときだったっぺか。そう考えると大分昔になるっぺな。元気にしてたっぺか? なんか出世する話も出てるとか出てないとか。良かったっぺなぁ。オラはこの前、サヴェルナちゃんに会って・・・・・・」
シャンケの目が下がっていた。サヴェルナのことを思い出したのだろう。今にもゲヘゲヘ言い出しそうな様子である。実際には言っていないが。
機嫌良くしゃべっているシャンケに、ロッドは真顔で近づく。
ドゴッ
「いたあああっ!?」
ロッドがシャンケに肩パンを食らわせた。どう見ても本気で殴ってはいないだろうけど、地味に痛そうだ。ってか痛いってシャンケが言ってる。
ロッドは青筋をたてながら、その後もシャンケの肩や腹や脚などを狙ってヒットを打ち続けた。シャンケが「痛いっ、痛いっ」と若干涙目で叫んでいるが、騎士であるロッドが本気で殴ったら叫べないくらいの大事だろうから手加減している・・・・・・と思う。
「テメェ、は、ふざ、けんじゃ、ねぇ、ぞ、ボケがあああああ」
ロッドが叫ぶ。それこそ怒りをふんだんに込めて。・・・・・・本気で殴ってないよな?
「何がっぺ! むしろふざけんなはこっちの方っぺ!? 暴力は何も生み出さないっぺよ! ちょっ、本当に痛い! 一撃一撃が凄く軽く打ってくる割に、スパンが早いし、どこに当ててくるのかわかんないから!」
「わかんねぇだ!? こっちはテメェもサヴェルナもクウガも死んだと思ったんだぞ!! 俺がどんな気持ちでいたかわかってんのか!? あ”あ? だというのにテメェもサヴェルナも今まで碌に連絡もとらず、久しぶりに会ったと思いきやヘラヘラしやがって!」
「そ、そんな! じゃあロッドから会いにくれば良かったっぺ!? オラがリーダーと街に出てるのはクウガから聞いてるはずっぺ!? サヴェルナちゃんだって家か神殿に行けば会えるじゃないっぺか!!」
「何で俺からテメェらに会いに行かなきゃなんねぇんだ!!」
「あ、理不尽! もの凄い理不尽が打撃と共にオラを襲う!!」
そんな打撃と言葉の応酬が繰り広げられていた。いや、打撃はロッドからシャンケに一方的だったが。
呆れていたダグマルがロッドを止めたことで、とりあえずロッドの暴走は収まったが怒りはまだ収まっていないようだ。ダグマルがロッドを叱りつけても、ロッドは強く言い返していた。
「酷い。オラ、魔法を使わなかったらひ弱な方なのに・・・・・・」
シクシクと泣き真似をするシャンケ。だが俺は知っている。魔力が強いやつはそれなりに体がしっかりしているということを。裸体を見たことはないが、太っているわけでもないし体格はそこまで悪くないはずだ。くそう、俺も筋肉欲しい。
だが俺はシャンケに近づいてコソリと話しかける。
「なあ、シャンケ。ロッドに一度も会わなかったのか?」
「・・・・・・だって魔導師と騎士っぺよ。友達ってわけでもないし、わざわざ会いに行くってのもおかしいじゃないっぺか。そりゃ、まったく時間がとれないわけではなかったっぺよ。でもまさかあんなに怒鳴られるとは思わなかったっぺ」
シャンケは不満そうだ。だが申し訳なさそうでもある。
俺も気持ちがわからないでもない。ロッドには前に怒鳴られている。
「ロッドは怒りの沸点が低いけど、非情なやつではないだろ。心配かけちゃったんだよな。俺も含めて。結果的には全員生きてるけど、ロッドからしたら全員死んだと思ったんだろうし」
「あー・・・・・・オラたち、愛されちゃってるっぺねぇ」
「愛されちゃってるよねぇ。俺、ロッドに性的欲求抱かないけど」
「そんなこと言ったら、オラだってサヴェルナちゃんに愛されたい」
「おい、コラ!! 何言ってんのかわかんねぇが、俺が怒るようなこと言ってんのはわかってんだぞ、ふざけんなゴラアアアア」
お前はヤのつくあの方々か。
ロッドがこっちを向いて怒鳴ってきたが、その頭をダグマルが思いっきり殴りつけた。ロッドは頭を押さえてうずくまる。ちなみに本日もついてきている子供たちはそんなロッドを恐る恐るツンツンしようとしていた。怖いもの知らずだな、おい。
シャンケがそんなロッドに近寄っていく。真剣な表情を努めているようだが、口元が笑いを堪えて歪んでいるのが丸わかりだ。
子供たちが急いでロッドから離れ、ロッドは苛ついた顔でシャンケを見上げた。
「悪かったっぺよー。でもオラも行かなかったけど、ロッドだって来なかったんだからお互い様っぺ?」
「うるっせぇんだよ。くそっ、自分自身がバカに思えるぜ。こんなやつらを気にかけるなんざ」
「そんなこと言ってー。心配してくれたっぺー?」
「・・・・・・お前、本気でぶん殴られたいみてぇだな」
「ちょっ、まっ、照れ隠しにも限度ってもんが」
「照れてねぇよ。テメェのそのふやけた顔面を矯正するだけだ」
ロッドが手をボキボキ鳴らしながら立ち上がると、シャンケに拳を振るう。シャンケは悲鳴をあげながら右手をロッドに翳した。ヴォンという音と共にロッドの拳が弾かれるも、ロッドは気にせず再度殴ろうとする。だがそのスピードが急激に緩やかになりシャンケはその隙に逃げる。ロッドはさらに追撃を続けていった。
俺がそれを唖然と見つめていると、そばまで来たダグマルが2人を見て感心する。
「あのシャンケって魔導師、魔法の使い方が器用だな。風魔法で瞬時に壁を作りつつ、能力変化で相手のスピードを遅くしてる。それも寸でのところでスピードを落とされると、最初から速さが遅くされるより戦いにくい」
「何でギリギリにかけた方がいいんですか? 最初から遅い方が戦いにくいんじゃ?」
「最初からスピードやパワーが弱体されたなら、それに合わせて戦闘スタイルを変えればいい。だが攻撃側が当たると予測して打ち込んだ拳が、予想以上に遅ければ感覚が狂う。それにストレスが溜まるしな。あの魔導師は器用なことに遅くするだけじゃなくて速めたりもしているから、ロッドは予想がつけにくいんだろう」
ダグマルが2人の喧嘩(ロッドがシャンケに一方的なだけだが)を指して説明する。
言われて見てみれば、ロッドの腕の振りや走るスピードが緩やかになったり鋭くなったりしている。シャンケ自身は焦った様子だが、冷静に魔法をかけているのだろう。まったくそう見えないが。
しばらく観察していたダグマルがボソリとつぶやいた。
「あの魔導師なら、一緒に魔の森に来てくれるんじゃないか?」
俺は驚いてダグマルを見た。
「シャンケをですか?」
「魔導師なら水魔法も問題なく使えるだろ。それだけじゃなく戦闘時でもサポートとして優秀だと見た。何よりクウガを憎んでいる様子がない」
ダグマルの言いたいことはわかった。確かにシャンケなら気が置けない間柄に成りつつある。魔法を使えるやつが1人は欲しいと言っていたし、シャンケでも問題ないのだろう。だが。
「ーーロッドに恨まれますよ」
俺は一言そう伝えた。
ダグマルはため息をひとつだけ吐いて口を開く。
「そうだな。これ以上恨まれたら隊長失格だな。もしものときは公爵の権限使ってなんとか人材を用意してもらうさ。最終手段ではあるが」
ダグマルの言葉を聞いて、俺はホッとする。
そんな俺にダグマルも歯を見せて笑い、俺の肩に手を置いてきた。
「アトランのところに行かないなら時間あるんだろ? 久々に奢ってやろうか?」
「あー・・・・・・いや、やめときます。街の人たちが優しすぎて逆に怖いんですよ」
「勇者として召還されたんだから、今みたいな状態が本来の形だと思うけどな」
ダグマルはそう言うが、俺はそう簡単に受け入れられない。
俺が修行再開するに当たって、街の人たちが妙に優しすぎるのだ。「魔王を倒してくれよ」と気軽に話しかけてくると、気が滅入ってきてしまうのも仕方ないだろう。特に俺の場合は始まりが始まりだったため、急に優しくされても不信を抱いてしまうのだ。
そんな事情に気付いているのかはわからないが、ダグマルはそれに関して話を広げることはしなかった。
その代わり、コソリと話しかけてくる。
「で、まだその気にならないのか?」
「何がでしょうか」
「魔王を倒したら付き合おうかってやつ」
しばし無言になってしまうのは仕方ないだろう。
まだその死亡フラグ折れてないんかい。
「・・・・・・あのですね。俺は男であって女の代わりはできないって何度言えば」
「ーーそうか。わかった。とりあえず今は引いておく」
ダグマルが俺の言葉を遮って言う。
そして耳元にささやいた。
「全部終わったら覚悟しとけよ」
俺はダグマルから飛び退くように距離をとり向かい合った。
ダグマルは不敵な笑みを向けていた。
あ、マズい。説得できる気がしない。
相手が魔王じゃなくてリグマルからの死亡フラグに変わっただけだ。
魔王倒したとして、その後も俺生きてられるかなぁ(遠い目)。
応援ありがとうございます!
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