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侵入者編

クウガ ドッペルさんに会う

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 チャラチャーラー、チャラチャーラーチャラー(コ○ンBGM)

 俺は同性愛者ゲイ高校生、空閑くが海斗かいと!!
 ぼっちで公園を歩いていた俺は足下に広がる大きな穴に気づかなかった。
 俺はその穴に飲み込まれて、目が覚めたら・・・・・・

 異世界に召還されていた!!

 サッヴァ・ダグマル・ステン・アトランらと勇者として訓練することになった俺は、サッヴァに名前を聞かれ本名を名乗ったら通称クウガとなり、魔王を倒すためにエロ妄想を挟みながらもがんばった・・・・・・。
 そして前の勇者である魔王を倒した俺は、また新たなステージへと立つことになる。

 能力あってもチートはなし! 未だ童貞卒業できない元勇者!!
 真実はいつもひとつ!!


 ・・・・・・まったくもってかっこつかねぇええええええええええ。
 ちなみに最後別パターンの場合は、見た目はポーカーフェイス、頭脳で妄想、その名はゲイ元勇者クウガ!! だからね。最後のゴロ悪すぎだからね。ポーカーフェイスだけならかっこよかったかもね。
 ちなみに弓長警○や黒田○衛が好きです。もちろん初期からいる○暮警部や小○郎のおっちゃんも。というよりあの作品、なかなかに良い親父が多いんだよね。本当にありがとう。


 それにしても過去のことを思うと情けなくなるぜ。しかも前の魔王に関して俺のしたことって処女奪われただけだもん。アーーーーッってなっただけだもん。あのときマジでケツ割れたわ。ケツワレとかそういうことじゃねぇぞ。
 なんかここ最近、俺まったくしゃべってない感じするし。俺のいないところで話が動いてるし。主人公(笑)みたいな感じになってるし。

 それでさー、久しぶりに登場したと思ったらさー。




 何で兄ちゃんがここにいるんだよ。




 俺は街で立つ少年の顔を呆然と見つめるのだった。



+++

 時は遡り、その数刻前の話である。


 俺は今住まわせてもらっている家で、机に拳を叩きつけた。

「鳥○明をバカにするとか、正気か!?」

 しかし向かい合う女の子シャリイは全力で首を横に振った。

「バカにはしてないっぺ! ドラゴン○ールは無理だって言ったっぺ!」
「何で!?」
「クウガさんの言う、キカイってのが存在しない! 拳で戦うということが、この世界じゃかっこいいことじゃない! そもそもかめ○め波なんて、風魔法を使える人からしたら簡単にできる技っぺよ!」
「そうじゃない! そういう問題じゃないんだ! ロマンが、ロマンってもんがあるだろうが! 拳じゃなくて剣で戦う○悟空とか見たくないから! それにか○はめ波がただの風魔法なんて寂しすぎるだろ!!」
「ロマンなんかより、世界観に合ったものをやらないとダメに決まってるっぺ!」

 ぐぬぬぬぬ。俺は歯を食いしばった。
 何をしているかといえばネタの話し合いである。さらに詳しく言うのならば、俺のいた世界の話を本にするため話し合っているのだ。



 シャリイはある日突然ギダンと一緒にやってきたかと思えば、俺に仕事の話を持ちかけてきた。異世界の話をこの世界で披露しませんか、と。
 まさかココに聞かせていた話がシャンケに伝わり、それが従妹であるシャリイにまで伝わっていたとは思わなかった。何気なく話していたことが、こんな展開になるなんて想像もしていなかった。
 話を持ちかけられた当初、俺はその話を拒否した。何故かって? んなもん俺の功績でも何でもないからだ。偉大なる先生方が汗水流した作品なのだ。俺が簡単にネタだけ出して利益を得るということは、異世界とはいえ盗作に当たる。何より作者の努力を踏みにじることが申し訳なさすぎる。
 だがシャリイも引かなかった。おもしろい話だった、だからこの世界でも広めるべきだと説得した。ギダンも話に乗るべきだと言ってきた。せっかく仕事が舞いこんできたんだから、チャンスには乗っかるべきだと。
 俺は苦渋の選択として「原作○○ 著者クウガ&シャリイ」と明記することで了承することにした。作者がわからない、あるいは俺が作者名を忘れたものは竹取物語の例をあげて「作者不明」とすることにした。その作品の関係者が異世界召還あるいは異世界転生する可能性も0ではない。そのときに盗作だと訴えられることを危惧したからだ。

 俺としては手○治虫先生や藤子○不二雄先生や赤塚不二○先生などが転生してくれたらめちゃくちゃ嬉しいし、そのお姿にひれ伏したいと思ってる。そしてこの世界にいるのが魔物でなくて妖怪だったら水木し○る先生が転生してもおかしくなかったと考えている。

 まぁそんな感じで手を組むことに同意したのだが、それからも大変だった。
 何せ世界が違うのだ。世界観が違うから、伝わる話と伝わらない話がある。
 俺の世界じゃ魔法がなく、機械が発達していた。逆にこの世界は魔法が普通にある代わり機械が存在しない。それだけでも大分齟齬が生じるというのに、そもそもこの世界にはフィクションというのが存在しないようなのだ。つまり本当にあったことしか本にされないということだ。
 ・・・・・・だけどこの世界の本を読ませてもらったが、さすが魔法が使えるファンタジーの世界だ。ノンフィクションとは思えないほどにワクワクドキドキする話も多かったんだよな。そりゃわざわざ嘘の話を作る気にはならないだろう。

 ということで、俺に課せられたのはとにかくネタ出しである。
 そして使える話、保留の話、無理な話という形で分けられることになった。これがまた難しいのだ。
 素手で戦う(小競り合いの喧嘩ならOK)話、スポーツ物、機械を扱う物はほとんど却下されてしまう。さらに言うならばケモが二足歩行で動いて人語を話せるものも、この世界の人間がまだ理解し難いということで今は無理。それと幽霊って概念もないようなのでお化けやホラー物も無理。地獄先生ぬ○べ~もダメだったよ。
 それだけで元の世界で既存している話の多くがボツになってしまうのだ。
 ということで、シャリイとはその話で口論になることが多かった。



 俺は深いため息を吐きながら冷静になるよう努めた。

「ーーわかったよ。しばらくは童話中心で話出すよ」

 童話は作者が曖昧なんだよ。アンゼルセン、グリム兄弟、イソップ・・・・・・どれがどれだかわかんねぇんだよ。不思議の国のアリスとか作者誰だったっけか・・・・・・。漫画の作者なら多少はっきり言えるから、できれば漫画が良かったんだよ。くそっ。

 するとシャリイがポンと手を叩いて何かを思いついたようだった。

「そうだ。クウガさんの世界に実在する人物を本にするのはどうっぺか」
「実在する人? でもそれだとシャリイが言う物語とは違わないか?」
「違わないことないっぺよ。だってクウガさんの世界の人はこの世界に存在しないっぺ。それなら創作というのとそう変わらないっぺよ。もし世界観が合わないときは、いっそその人物をこっちの世界に寄せてしまえばいいっぺ」

 それならなんとかなるか? 細かい歴史を空で言うのは無理だが、なんとなくならできなくはない。それに歴史とかは史実を曲解して漫画やゲームで扱われることも多かった。戦国大名が女体化することも普通にあったしな。

「じゃあ童話と一緒に、偉人の何人かあげておくから。5日待ってーー」
「明日でお願いするっぺ」
「おいコラ、寝かせないつもりか。せめて4日」
「明後日でどうっぺ?」
「・・・・・・わかった。じゃあ間をとって3日で」

 俺は再度ため息をついた。シャリイは逆に嬉しそうに笑ってから、ドラゴ○ボールについてまとめていた資料を興味深く眺めていた。さっきダメって言ったくせに、楽しんでるんじゃねぇか。
 それにしても実在の人物ねぇ。メジャーどころだと織田信長とか義経とかかな。あ、ジャンヌダルクとかも受けが良さそうだな。大雑把にまとめるだけなら3日でもいけるか・・・・・・?
 俺が頭を悩ませていると、別の人物が近づいてきてシャリイの持っている紙の束を覗き込んだ。


「それにしてもクウガくんの世界ってのは不思議な思考してるぜぃ。実在しない話でこうも話の筋を作っちまうんだからなぁ」

 そう独特な口調で話すのはエマだ。
 そしてもう1人が俺の横に立って、顔を覗き込んでくる。

「だがそういう話を筋道通してまとめてくるクウガくんも、凄いと私は思うがね」

 めちゃくちゃ良い声で褒めてくれたのは元騎士団の団長、ルレイドである。
 ダグマルよりもさらに年上の彼は俺の性的対象内であるため、彼から少し距離をとった。それをルレイドとエマはおもしろそうに笑うのだ。

「おいおーい。クウガくん、頼むぜぃ。ウチの旦那とらないでくれよぅ」
「はっはっは、それはどうなるかわからないな。何せこの子は反応がおもしろい」

 この夫婦はニヤニヤと、それはもう楽しそうに笑っていた。

 何故この2人がいるかというと、俺の警護兼監視役だそうだ。
 ルレイドは前王が前魔王に殺された責任をとり、騎士団を辞任し、その流れでエマも騎士を辞めることになったという(この辺の詳細はよく知らない)。ちなみにこれは騎士だけではなく魔導師もだ。そのためアトランも魔導師長になったとギダンから聞いている。
 そこに目をつけたリッセン公爵が2人に打診したのだ。何せ俺は勇者ではなくなったが、未だ立ち位置が曖昧だ。前の勇者の恨みを持つ者や、俺の能力を狙うやつがいないわけでもないのだ(多分)。あとは俺が変なことをしたときにすぐ粛正できるようにだろう。元とはいえ騎士団の団長と副隊長だ。戦力としてこれ以上のものはないはずだ。俺に対して気軽に接する2人だが、その目の配らせ方は尋常じゃない。2人が同時に俺を見ることはなく、そして俺が下手な命令をしても気づけるよう常に2人1組で動いてる。
 会った初日に言われたのが「君を信用するために、私たちは常に君を疑う」である。
 その信用を裏切らないよう俺も強く誓った。死にたくないからね!!

「それにしても興味深いのは、戦いとはあまり縁のない世界だと聞いていたが、作品は戦いを扱うものが多いということだね。それと魔法に似通っている力を使うことも。この前見せてもらった話も不思議な話だったね。主人公の腕が伸びて敵を倒すなんて考えつかないよ」

 ああ、モンキーでDな彼のことですね。当然のごとく話はシャリイに却下されましたよ。王国には海がないということもそうだが、そもそもゴムが存在しないんだよね。大雑把に説明したら「何それ欲しい」って言われちゃったよ。
 そしてルレイドは、エマから渡されたドラゴン○ールの話を書いた紙を渡され目を通していた。

「それと、こうも素手での戦いが多いことも不思議だな。武器がないわけではないのに、わざわざ危険を負うように拳で戦うとは」
「ルレイドさんは素手で戦えないんですか?」
「いや戦えるさ。無傷で相手を捕らえる場合や、相手の力量が明らかに己よりも下回っている場合は素手で押さえつける。だが回復魔法の準備ができているのならば、相手の脚に大火傷を負わせてしまった方が効率がいい」

 うわ、エグッ。
 すぐ回復できる環境だと、怪我することや怪我させることに戸惑いがないのか。あ、でもバトル物でも怪我を負うことに躊躇いのないキャラもいるし、騎士という立場上そうなるものなんだろうか。

 それにしても素手で戦う理由ねぇ。俺は武道とかやってたわけじゃないからな。拳でのやりとりってのは漫画とかアニメとかで普通に見てたけど、ロマン以外の理由が思い浮かばない。空手とか柔道とか、普通にかっこいいと思うんだけどなぁ。
 ・・・・・・いや、邪な考えとかはないぞ。はだけた肌がめっちゃ股間にくるとかそんなの・・・・・・なくはないけどさぁ。あの男くさい臭い、好きだけどさぁ! ゲイだからかは知らないけど、あのムワッとした臭い好きなんだよね! くっせぇって思うのにね! 
 おっとっと、俺の嗜好の話になってしまった。

「最初は俺の世界での伝記や、童話中心になりそうだな。それとバトル物を考えるのなら、やっぱり剣とか魔法の話に限定されることになるんだろうな」
「ウラの書いた本が売れれば、将来的にはどんな話でも受け入れてくれると思うっぺ。・・・・・・それを考えると、ウラの責任重大っぺけど」

 途端にシャリイの表情が暗くなる。
 考えてみれば俺よりもシャリイの労力の方が大きいだろう。何せ俺はネタを出すだけで実際に書くのはシャリイだ。しかもネタ出しといっても、俺は前の世界の話を思い出してまとめるだけ。俺が泣き言いったらダメだろ。

「とりあえず、やれるだけやるから。お互いにがんばれるだけがんばってみよう。俺だって、俺がおもしろいと思ったものが、他の人にもおもしろいって思ってもらえるのは嬉しいし」
「うぅ~、ウラもクウガさんにだけ無理させて申し訳ないって思ってるっぺ・・・・・・。絶対に良い物作りましょうっぺ~!」

 シャリイは目を潤ませながら、俺を見つめてくる。
 シャリイは美少女だ。サヴェルナも可愛いとは思うがそれとはまた違う。例えて言うならば、同じクラスにいると「可愛いな」と思われるのがサヴェルナ。他のクラスや他校からでも目を引くのがシャリイだ。ちなみに俺は女も、俺と近い年齢の男も興味がない。老けてる方が好きだ好きだ大好きだ。
 以前俺が女装させられたとき(思い出したくはないが)、俺の女装を見たシャンケがノンケルシィ王国とヘテロイヤル帝国の男なら落とせると言ってきたが、ノーマリル出身のシャリイを見るとその意味が理解できる。ノーマリルは王国や帝国よりも魔力量が少ないため儚げ美人が多いようだ。
 ちなみにロッドの親友であるブレッドは、シャリイに一目惚れしてしまったらしい。ギダンからそう説明された。ギダンからの言伝で、シャリイのことをどう思っているのかよく聞かれる。その度に「俺はオッサンが好きだと何度説明すればいい」とギダンに言伝を頼んでいる。美少女に興味はないんだよ。オッサンとかジジイが好きなんだよ、言わせんな。

 俺はシャリイに笑いかける。
 以前はゲイだとバレたくなくてポーカーフェイスを気取っていたが、もうバレてしまって勇者ですらなくなった今は、できる限り表情を出そうと思っている。妄想してるときなんかは顔に出さないようにしているが、日常では普通にしようと心がけている。
 ギダン以外の顔馴染みのメンバーとは会っていないが、今の俺を見たら驚くんじゃないだろうか。それとも急に表情を出すようになって気持ち悪がられるだろうか。・・・・・・ゲイだって知っても接してくれた人たちだし大丈夫だろ、うん。


 そして俺がペンを持って、新しいネタを出そうとしたときだった。
 急にそばにいたルレイドに座っていたイスを蹴り飛ばされたのだ。勢いのついたそれに耐えられず、俺はイスから転げ落ちた。
 何だと思って顔を上げれば、ルレイドの手から炎の大剣が出現していた。普段使う剣よりも何倍も太い剣に擬態している炎を、ルレイドは顔を歪めながら床に突き刺した。
 ギョッとする俺だったが、ルレイドは荒い呼吸を整えながらその剣を消した。何が起きたのかわからず呆然しながら他に目をやると、エマも同様に顔を歪めて地面に拳を繰り出していた。床に大きな穴が空いている。

「ク、クウガさん。ごめんなさいっぺ」

 シャリイが泣きそうにつぶやき、その手にあった紙は灰になって燃え尽きている。
 さらに俺は気づいた。俺が握っていたペンが俺の手の中で砕けていることを。普段の俺の力でペンが砕けることはまずない。魔法でも使わない限り。

「済まなかった、クウガくん。そばにいたら火傷を負わせてしまう可能性があったのでね」
「いや、まぁ驚きましたけど。一体何が?」

 そう問えば、ルレイドは疲れた表情を隠さず右手を握ったり閉じたりした。

「突然魔力が放出された。私は炎魔法が得意だからね。瞬時に剣に形作れたから、火事にならずに済んだけれど」
「ウチは魔法が苦手だからねぇ。腕力強化で済んで良かったよぅ。・・・・・・後で公爵から被害請求が来そうだけどなぁ」

 エマも疲れた顔で床を見つめている。床の穴はそれほど広くはないが、奥深くまで削れていた。腹で受けたら拳が体を貫通しているであろう威力だ。

「クウガくんもシャリイちゃんも魔法が暴発してるみたいさぁ。魔力量が少ないからか規模は小さいみたいだがなぁ。なぁ、アンタ。もし王都や街でも同じことが起きたらマズいじゃねぇかぃ。様子を見に行くかぃ?」

 エマがルレイドに尋ねるも、ルレイドは首を横に振った。

「だったら尚更クウガくんのそばを離れるのはマズい。これが帝国や悪意を持つ誰かの仕業であるのなら、警護が手薄になった隙をつく可能性がある。だがエマの言う通り、外の様子も気になるのは確かだ。ーーーーそうだな」

 そしてルレイドは俺の顔を見た。


「一緒に連れ出してしまおうか」



+++

 そして俺は、馬に跨がるルレイドの背中に乗せてもらって外に出たのだ。
 町並みは荒れていた。どうやら魔法の暴発は俺たちだけじゃなかったようだ。
 家が崩れて人々が怪我を負っている。

「これは、想像以上だぜぃ」

 エマが馬に乗りながらつぶやいた。その背中にはシャリイがいる。

「王国は魔の森に近いため、魔力が高い者が平民でもそれなりにいる。だが比較的のどかなこの辺りでこれだけの被害を考えると王都は悲惨だな。瞬時に上手く調整できていればいいのだが」

 ルレイドが馬から降りると俺の方を向く。俺の目を直視しないようにしているのがわかる。親しくはしているが、ちゃんと線引きはしているのだろう。ルレイドが手を差し伸べて俺を馬から下ろしてくれた。

「私は今からこの辺りの救助を行う。君にもそばで手伝ってほしい。混乱状態に陥っている人間は能力を使って眠らせてくれ」
「ちょっ、能力使っていいんですか!?」
「混乱している人間は手がつけられない。力尽くで抑えこんでもいいが、それだと怪我をさせてしまうことがあるからね。二次被害を出さずかつ効率の良い方法をとるのは当然だ。だが悪用するようなことがあれば、その目を修復不可能なほどに燃やすことになるけれど」

 そう言われ、俺は怯えながら返事をした。
 この人、どんなに親しい間柄でもスパッと殺せるタイプの人間だわ。
 そしてルレイドやエマたちが救助活動を行っている間、俺やシャリイはその手伝いをしていた。言われた通り、パニック状態の人は能力使って眠らせた。でもパニックの人って中々目を合わせてくれないから大変だったわ。


「団長! ・・・・・・いや、間違えました。ルレイド、さん!」

 そこに騎士が馬で駆けながらやって来た。同時に俺の顔を凝視する。
 ルレイドが状況を尋ねると、騎士はやはり俺を訝しみながら口にする。

「不審な男が王都や街を暴れ回り、武器を持たずに騎士を倒しているそうです。そしてその男の顔が、勇者とそっくりだということです」

 俺はそれを聞いてギョッとする。待て待て待て、俺疑われてんの!? さっきからこの騎士ににらまれてると思っていたけども。

「彼は常に私のそばを離れていない。それは私が証明しよう」

 ルレイドは表情を変えずに騎士に言ってくれた。すると騎士は何も言わずに頭を下げた。そして次にルレイドは俺を見下ろす。

「君とそっくりさんということだが、前に君の話の中でドッペルゲンガーというのがあったね」
「ああ、まぁ似てますよね。自分とそっくりであるドッペルゲンガーを見たら死ぬってやつと。却下された話なのによく覚えてましたね」

 そう返せばルレイドはニッコリと微笑んだ。
 嫌な予感がして後退するが、ルレイドはそんな俺の肩を掴んだ。


「待ってください。俺のドッペルゲンガーがいるってわかってる場所に行きたくないんですけど」
「ドッペルゲンガーなどこの世界には存在しないから大丈夫さ。それに君が悪事を行っただなんて思われたくないだろう? それなら行こうじゃないか」


 行こうって言葉が逝こうって聞こえたのは気のせいじゃないはずだ。




+++



 そして冒頭の話に戻るのだった。
 まさか俺のドッペルゲンガーかと思ったら、兄ちゃんのドッペルゲンガーだとは思わなかった。

「ちょっと待て。兄ちゃんって何だ? あいつクウガの兄貴なのか?」
「あれ、ロッドいたの?」
「いたわ! 最初からいたわ! テメェ、久しぶりに会ったのに俺の存在無視かよ!」
「ごめん、ロッド。久しぶり!」
「遅ぇよ!!」

 ロッドに怒鳴られた。久々に会ったけど、怒りの沸点低いの変わってねぇな。
 俺とロッドがそんなやりとりをしていると、ステンが会話に入ってきた。

「あー・・・・・・、クウガ。久しぶり」
「あ、はい。久しぶりです、ステンさん」

 ステンがちょっと躊躇いながら話しかけてくる。何だよ、その態度。こっちまでドキドキしちゃうじゃんか。

「いろいろと言いたいことはあるが、とりあえずは後にするか。それよりもあいつのことが先だ」

 ステンは兄ちゃんのドッペルゲンガーを顎で指した。

「クウガに兄がいるのは聞いたことはあるが、聞いていた話とは逆だぞ。あいつ素手で騎士相手に喧嘩売ってやがる。戦いにも慣れてそうだ」
「あー、じゃあ兄ちゃんじゃないです。兄ちゃんポヤポヤしてるから。知らない人に着いてっちゃうくらいポヤポヤしてるから。蚊すら殺すとショボンとする人だから。戦いとか無理無理。おそらく兄ちゃんのドッペルゲンガーっぽい何かじゃないかと」

「誰がドッペルゲンガーだよ」

 俺の言葉が聞こえたのか、兄ちゃんのドッペルさんは不満そうな顔をしている。
 だが構えの姿勢をとると挑発し始めた。

「つーか、そんなんいいからさっさと続きやろうぜ。特にそこの一発殴ったやつ。俺の拳食らってすぐ起きあがれるやつなんて、なかなかいねぇからな。何発殴れば倒れるか試してみようぜ」

 ドッペルさんに喧嘩をふっかけられたロッドは剣を構える。
 つーか、この兄ちゃんドッペル口悪すぎるだろ。そう考えている内にドッペルが動き出した。1歩でいきなり間合いを詰められたロッドは剣を振るも、握った手を掴まれ止められる。そしてその横っ面を殴られた。だがロッドはすぐにドッペルをにらみつける。ドッペルは楽しそうに笑って、ロッドから手を離してその腹を蹴り飛ばした。吹っ飛んだロッドが俺のすぐそばまで転がった。

「ロッド!?」
「大丈夫だ。回復魔法使ってる」

 ロッドは痛みなど感じないように立ち上がった。
 それがドッペルにとってお気に召したようで、再度ロッドに突っ込んでいく。
 俺は咄嗟にロッドの前に立って叫んだ。

「止まれ!」

 目が合った瞬間にそう叫ぶ。だが、ドッペルの動きは

「へ?」
「クウガ、どいてろ!」

 ロッドが叫ぶも間に合わない。ドッペルに距離を詰められた。

「クウガ!」

 ステンが叫びながらナイフをドッペルに放つ。ドッペルが足を止めそれを避けた瞬間に、ステンがドッペルに飛びかかり拳を放つ。だがドッペルはそれをすぐさま払い除けると、その腹部に一発食らわせる。ステンは体を捻って直撃を避けようとしたが、それでも威力は殺せなかった。地面を転がり、腹を押さえて痛みに耐えている。
 ステンの方に意識を移してしまった俺は、ドッペルが既にこっちに標準を向けていることに気づかなかった。あ、と思ったときには首根っこを掴まれて持ち上げられていた。

「邪魔すんじゃねぇよ。せっかく面白いとこだったのによ」

 力を込められて、息が上手くできない。ロッドが動こうとするも、ドッペルが掴む力を強めたため止まらざるをえなかった。ドッペルはしばし首を絞めながら、俺の顔を凝視したかと思えば口を開けて「あ」とつぶやいた。その瞬間、首から手が離されて俺はその場に尻餅をついた。
 ロッドが動き出し剣を振るうも、ドッペルは後ろに飛び退いて難なく避ける。

「なぁ、あんたってさ。もしかして?」

 そしてドッペルの言葉に俺は目を見開いた。
 だってその名を俺が名乗ったのは召還されてすぐ後、サッヴァとサヴェルナの前で1度だけだ。それ以降、俺がそれを名乗ったことはない。現にロッドも、未だ痛みで起きあがれていないステンも、聞き慣れない言葉に疑問を抱いている。

 何なんだよ、こいつは。本当に兄ちゃんのドッペルゲンガーかよ。

 俺の疑問は目の前の男によって解決されることとなった。



「しょうがねぇから、俺も名乗ってやるよ。俺の名前は空閑 大地ダイチ。親父の名前は空閑 陸斗リクト



 男、ダイチはそう言って「カハハッ」と笑った。





「初めましてだな、おじさん」




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