ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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身代わり花嫁

駄目ですってば!

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 それは、少し前の事だった。

 何とか無事に披露宴を終わらせ、ブライズルームに入った2人は、ひとまずホッとして、ソファーに座っていた。


 そこへ、入って来た原口が2人をねぎらう。

「お疲れ様でした。
 おふたりとも、仲良しの夫婦を見事に演じられていました。

 さあ、後は最後の仕上げです。

 折原さん、ビシッと決めて下さい」


「ふぁい……あっ!はいっ!」

 ぼうっとしていた匠海が、返事をした。


 気の抜けた返事をした新郎を見た軽米は、不安を覚える。

(あっ、新郎は酔っ払っているんだった!
さっき、足がふらついていたけど、大丈夫?

 ホッとした途端、更に酔いが回ったかも)


 コン!コン!

 
「誰か、来ましたねぇ。はーい、どうぞぉ」

 柚花が明るく返事をした。

(丸山さん、絶対、酔ってる!大丈夫かしら?

 後輩の私には、婚礼関係者、全てのゲストに、良い気分で帰ってもらえるまで、スタッフは気を抜いてはいけない!って、日頃から言うのに……)


 そう思いながら、軽米がドアを開ける。


 現れたのは、新郎の友人2人、智也と和希だった。


 柚花が気がつき、直ぐに声を掛ける。

  
「あっ、折原さんのお友達の……ケーキカットの時は、ピンチを救って頂きありがとうございましたー!

 そちらの方も、春菜さんの友人が来た時にイケメンパワーを発揮してくださって、ありがとうございましたー!

 御礼代わりと言ったら、何ですが……」


「あっ!」

 軽米が思わず呟いた。
(あっ、やばい!この台詞を言ったら、アレだ!阻止しないと!)


 柚花は、両手を上に万歳のポーズをとったから、軽米は慌てた!
 

 友人2人は、驚き、思った事は一緒だった!

(アニメに出てくる熊のポーズだ!

 出て行け!ってこと?)


 がしっ!


 柚花が両腕を下ろす直前に、軽米が両の二の腕を掴んで、言う。


「丸山さん、婚礼式は、まだ終わっていませんから、万歳をするには早いです。

いきなり腕を挙げるから、御友人方が驚かれています。

 大変、失礼致しました」


 キョトンとしている友人2人だったが、披露宴が終わっても、まだ、何かあるのだと気がついて、退室しようとした。


「あー、和希、智也、さっきは本当にありがとう、また、二次会で……」


 匠海は、立ち上がってドアまで行こうと2、3歩で、足がもつれて転んでしまった。


 立ち上がろうとしたが、腰が抜けて立てない匠海の片腕ずつを友人2人が掴んで、起こした。


「船が港に到着したら、新郎がゲストの皆様に、本日の謝辞を艦内放送で行う予定ですが、大丈夫ですか?できますか?」


 原口が、酒酔いしているらしい新郎に向かって聞いた。


「あっ、すみません、頭は大丈夫ですが、身体が言う事をきかなくて……支えてもらえれば、行けます」


「あの、よければ私達が、ついて行きますが……」

 智也が申し出た。


「宜しいのですか?

 それでは、今から操舵室に参りますが、一緒にお願いします。


 操舵室に行くにあたり、皆様に守って頂きたい事がございます。

 操舵室というのは、この船の操縦室です。

 只今、港に入るためクルーは、非常に緊張し、集中もしていますから、皆様、お静かに願います。


 船の、皆様の安全を守る為に、必ず お守り下さい。


 新郎アナウンスの後、一番下にあるシャインデッキに出て、新郎新婦がゲストの皆様に手を振って挨拶をしていただき、この婚礼式が終了となります。

 では、ついて来て下さい」


 スタッフ オンリー ドアの鍵を開け、階段を上がって行く。


 そして、私たちは操舵室に向かっているのだった。



 先頭を歩く原口さん、両側を友人2人に支えてもらい歩く新郎、そして、ドレスをたくし上げて歩く私と、そのドレスの後ろ裾を持ち上げてくれている軽米さん。


 私、本当にお姫様になった気分よ。


 原口さんが、若いけど“爺や”で、友人2人は、“家来”で、新郎は“頼りない王子様”で、軽米さんは、“お姫様付きの侍女”って、感じで、面白い劇ができそうだ!

 ついでに、倉田チーフは、“悪魔の魔法使い”で、野村さんと外崎さんは、“その子分、1と2という配役にしちゃう!


 酔っ払いの偽花嫁、丸山 柚花は、妄想の世界にどっぷりと浸かっていた。

 何だか、とってもいい気分。


 トントン!肩を叩かれ、我に返る。


〈もう、着きました〉微かな声で軽米が言った。


 操舵室の後方に広めの空間がある所で、私達は待機している。

 そっか、私は身代わりの花嫁を演じているんだった!


 この後、新郎がアナウンスをして、2人でゲストの見送りをしたら、この舞台は幕を降ろす。


 さあ、気合いを入れて、頑張ろう。


「着岸しました。

  皆さんは、こちらでお待ちください。

 折原さん、いらして下さい」


 原口に支えられ、匠海は艦内放送用マイクを持った。


「えー、新郎の折原 匠海です。

 本日、わたくしどもの為に、皆様の貴重なお時間を頂きましたことを、心より御礼申し上げます。

 ……只今、この船は、着岸し、夢の世界から現実の世界に戻って参りました……。


 どうぞ、お足元にご注意して、ゆっくりと下船して下さい。

 くれぐれも、忘れ物がないようにご注意、願います。


 幸せがいつまでも……いえ、船がいつまでもここには、いませんので、いま一度、持ち物のご確認をお願い致します」

 アナウンスを終え、外に向かって、一礼している匠海。


 匠海を支えていた、原口や事情を知る者たちは、匠海の気持ちを考えると、気の毒過ぎて、掛ける言葉も見つからなかった。


「では、新郎新婦は、ゲストの見送りをして下さい。移動します」


 原口が先頭で歩き、新郎友人2人が再び匠海を支えて、階段を降り、シャインデッキへ出る扉まで来て止まった。

「御友人方、本当にありがとうございました。

ここからは、他のスタッフがおりますから、後は大丈夫です。

 どうぞ、この先の階段を降りて、下船なさって下さい」


 原口は、一礼して、匠海を支え扉を開けて外に出て行った。


 帰ろうとした友人2人は、私の方に向きを変える。


 残った私は、改めて2人の友人の顔を見て、御礼を言う。


「本日は、誠にありがとうございましたっ!

 御礼代わりと言ったら、何ですが……」


「えっ?」軽米が構えた。


「お二人が結婚する時には、是非、カレンダホテルにお越し下さい。

この丸山が、サービス……します」


(あっ、何だ、違ったか!)軽米は、構えを解いた。


 柚花は、そう言いながら、両手を万歳して、振り下ろした手で、2人の男性の肩を同時に引き寄せた!


 があっ!男性の肩と肩がぶつかった。


 ぶちゅう!ぶちゅう!


 男性の正面から、それぞれの口の横に高速チュウをしたのだった。


「 ! 」2人は、口の横を抑え、何が起こったのか、恐怖に怯えた表情となっていた。


「わあ、ごめんなさい。ごめんなさい。
すみません、丸山は、お酒に酔ってしまったようです。すみません」

 軽米が、謝っている姿を見て私は、ハッとした!


 あら?私、やってしまったのか?


「あっ、すみません!すみません!
 
なんて事をしてしまったのかしら?

 大変、失礼しましたっ!

 これに懲りずに、我がホテルをご利用下さい。

 その際は、お詫びにお食事をご馳走致しますから、丸山まで、お申し付けくだしゃいませ」
 

「花嫁さーん、早く来てくださーい」


 原口さんが呼んでいるから、行かないと!

 柚花と軽米は、慌ててシャインデッキへと出て行ったのだった。


「和希、俺たち 襲われたのか?熊みたいなポーズをして、びっくりした……」

 呆然としながら、智也が言った。


「ああ、襲われた、猛獣みたいだったな!

 でもさ、カレンダホテルに来てくれって言ってたよな。

 食事をご馳走するって、言っていたよな?

 一緒にいた娘、可愛かったし、今度、行ってみようよ」


「バカ言うな。あんな言葉を本気にして、行ったら、せこい奴って思われるぞ!

 それにカレンダホテルは、うちの取り引き先だから、俺は無理だ」


 そんな話しをしながら、2人は船を降りて行った。


 2人の友人たちの困惑など知らない柚花は、そんな事は、すぐに忘れて、最後の任務として、お辞儀をしながら手を振り続けていたのだった。


…………………
 
「はーぁ、終わった……丸山さん、ありがとうございました。

 この御礼は、必ずしますから!

 絶対にしますから、待っていて下さいね」


 新郎、折原 匠海が言った。


 言われた方の身代わり花嫁、丸山 柚花の返事は……。


「そんな事、気にしなくても構いません。

 こちらこそ、御礼代わりと言ったら、何ですが……」


「わっ、出た!駄目ですってば!」


 軽米が、万歳をしている柚花の両腕を掴んで「お疲れ様でした!」と言って、引きずるようにブライズルームへと連れて行くのだった……。




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