ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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想いはどこへ

商売人 原口

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 私、丸山 柚花は、カレンダホテルでウェディングプランナーをしている。


 先日、体調を崩し仕事を1日お休みしてしまったけれど、その後は元気いっぱいで仕事をしている。


 あれから、智也さんには会っていないから、看病してくれた御礼もしていない。


「丸山さん、ソフィア汽船社に行くのよね?

 原口さんに よろしく伝えて下さいね」


「はい、倉田チーフ、了解です。

では、話し合いに行ってきます」


 以前、原口さんの勤める船会社と我がホテルとのコラボ企画で、船上婚礼式を原口さんと私が担当した。


 その時に船長式を挙げたのが、たっ君こと折原 匠海さんだったのだが、花嫁が逃げてしまうという事態となり、私が身代わり花嫁になり、原口さんをはじめスタッフの協力で、何とか事を収めたのだった。


 なぜ、原口さんの会社を訪問するのかというと。

 去年から出ていた企画を実行に移すためなのだ。


 内容は、カレンダホテルで婚礼式を挙げ、新婚旅行を豪華客船で海外に行くというセット企画の話し合いだ。


 まだ、持ち込み企画の段階で内容は確定していない。

……………………

 船の発着所の近く、1階が乗客の待合室 兼、商業施設になっているターミナルビルの上層部がソフィア汽船社となっている。

 
「丸山さん、こんにちは。

こちらの会議室へと どうぞ」


 柚花は、一通りの挨拶を済ませ、早速、仕事の話しを始めた。


「丸山さん……当社といたしましては、結婚式プラス船での海外新婚旅行というのは、料金面と日数面から考えて、若い方には難しいのではないかと考えています」

 えっ?まさか船会社側は、拒否なの?

 自分の顔が引きつっていくのがわかる。


 原口さんは、続けて話す。

「そこで、我々としては 年齢を高めに設定し、再婚をする方々をターゲットにしたいと考えました。

 丸山さん、いかがでしょう?」

 
「あー、年齢層を限定するのですか……。

うーん、こちらは年齢層の事は、気にしていなかったですね……。

そうですか……ですよね。若い人は飛行機で サッと行きますものねぇ。あっ、失礼な事を言って申し訳ありません!

うーん、再婚に限定するのもいいですけど、初めての人って考えていましたから……。

 うーん……そうですか……」


 挙式を経験した可能性のある人は、考えていなかったな……。
 
 そっか、そっか、ならば……うーんと、何かないかな?ないかな?

 あ、ひらめいた!


「じゃあ、国内旅行にして短い日程のツアーに 組み入れて。

あくまでも、お試しということで、互いの宣伝を兼ねたイベントにして、格安にする。

訳あって結婚式と新婚旅行が出来無かったカップルを対象にするのは、どうですか?」

 
「なるほど、それはいいかもしれないですね。

 それなら、幅広い年齢の方が対象となりますね。

いいじゃないですか、それ」


 原口さんが賛成してくれて良かった……。


「はい、女性は花嫁衣装を一度は着てみたいと思う方は多いと思います。

そのうち式を挙げようなどと約束をして、結婚生活を始めた方は沢山いらっしゃるはずです。

 そんな方々のためのイベントにしたいです!」


 柚花は、元気よく活き活きとした表情で話したのだった。


 そんな柚花に触発されて、原口もアイデアを思いつく。
 
 
「そうだ、カップル数限定で、合同挙式をするのはどうですか?

披露宴は無しということで、各カップルのグループに分かれて、個室で食事をしてもらうのはどうでしょう?」


「あ、合同にすれば何かと料金が浮かせますね!

 挙式のみ、食事会にするのはいいと思います」


 柚花が賛同してくれて、ホッとした原口が商売人の顔を見せる。

「それでですね、挙式が終わりしだい私服に着替えてもらうんです。

 着替えを待つ新郎新婦の関係者の方々に、我が社の動画やカレンダさんの動画を見てもらえば、暇つぶしにもなるし、こちらの宣伝にもなるので、一石二鳥です。

いかがですか?」

 商売人 原口は、得意顔で言ったから、柚花は可笑しくて、笑いながら「いいと思います」と返したのだった。

 
 その後、式日と出発日は違う日という事を決め、内容や特典などは これから煮詰めていくことにして、話し合いは終了した。

…………………


 柚花は、帰るためにエレベーターのボタンを押して待っている。


 扉が開くと、1人の女性事務員さんが乗っていたから、軽く会釈をして乗り込んだ。


 すると、後ろから、恐る恐る声がかかる。


「あのぉ、もしかして、ホテルの方ですか……カレンダホテルの?」


 若い女性の声だ。


 柚花が振り向くと、そこには たっ君と一緒にいた あの子がいたのだった。


「あっ、やっぱりそうだ。

扇風機を持ち上げていた方ですよね?」


 どんな覚えられ方だよ!と心の中で柚花は、突っ込みを入れた。


「先日は、お世話になりました。
とても楽しかったです。

 私も あんな結婚式にしたいなぁって、思いました」


 柚花が、あの子と呼んでいる高橋 若菜が言ったのだった。


 それを聞いて、柚花は感動した。

 物凄く嬉しかった。

 なんて、なんて いい子なのかしら!

「ありがとうございます。
そんな風に言って下さると、励みになります。嬉しいです」


 ピンポン!


 1階に到着した。


「では、失礼いたします」と言って柚花は、帰って行ったのだ。


 その後ろ姿を若菜は見ていた。

(あのスタッフさん、折原さんの知り合いなのかしら?

 立ち話をしているところを見たのよね。

 折原さん、元気でいるのかしら?

 菊乃さんから離婚をしたと聞いていたから、気になっているのよね。

 思い切って、折原さんに連絡してみようかしら。

 菊乃さんに電話番号を聞いてみよう)

…………………

 柚花がホテルに戻ってくると、正面エントランスの所に智也がいた。

 大きな花瓶に花を生けている女性の助手という感じだ。

 看病をしてくれた御礼が言いたかったが、仕事中だから会釈をしながら「お疲れ様です」と言って、通り過ぎた。


 そして、柚花は思う。

 あんな華やかな花にも負けないくらい華やかなイケメンが、私の部屋にやって来た!

 しかも、私をかついでくれた。

 たくましい腕にぎゅっとされて……って、あんまり覚えていないけど、とにかくお母さんみたいだった……。

 はぁ、きゅん……って、今は仕事中だ!

 後で連絡してみようかな。

 一方、智也は柚花の姿を見て、イビキと寝言を思い出し、笑いを堪えていた。


「ワカ、どうしたんですか?

 何、ニヤニヤしているの?

 気持ち悪いですから、やめて下さいね」


(結局、川口さんまでワカと呼んでいるが、どうでもいいや。

気持ち悪いって、傷つくなあ)


「はい、失礼しました」

(仕事が終わったら、連絡してみよう)

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