アンティーク影山の住人

ひろろ

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いらっしゃいませ

銀の茶器

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 老女が持ってきた茶器セットが入っている木箱を 人型に変身している妖精たちが囲んで見ていた。


 突然、現れた人たちに驚いた美紗子だったが、更に木箱が動いたことに、とても驚いたのだった。


 アンティーク影山の新米店主は、恐怖におののき、自動ドアまで素早く移動してから思う。
 

(あ、そっか、これもドッキリだな!)


「これ、私を騙しているんでしょ?どこのテレビ局?
すっごい手が込んでいるわ……。あのお婆さんも仕込みの人なのね?あー!騙された。悔しい!」


「こら、新米!何言ってんだ。ワシらが騙しているだと?馬鹿なことを言うな!」


(えっ?タヌ爺は、本気で怒っているみたい。これは、嘘じゃないの?本当の事なの?ウソ……)


「ここから出せ……出せ……うーうーうー」


 木箱の中から、苦しそうな低音の男の声が聞こえてきた。


「 ! 」


「え?なんか聞こえた!嫌だ、うなり声?もう、怖すぎる!」


 美紗子が自動ドアを開け逃げ出すから、ルシェが後を追い自動ドアを開けて、その場で叫ぶ。

 
「待って!新米さん!戻って来て!私、このドアからは外には出られないわ!

あなたのことは、守るから話を聞いてちょうだい」


………………

「古狸……いえ、庄三郎さん、タム、よろしく頼むわね。行ってらっしゃい!」


 人型の姿のまま、裏口のドアから中庭に出た庄三郎とタムは、喫茶室にいるルシェたちに見送られている。


 喫茶室の窓を開けて言ったルシェに、庄三郎が言う。


「おう、行ってくるぞ。人形女、いやルシェ!じゃあな」


 箱をしっかりと持ってアスナロの木に向かう庄三郎の後について、タムも挨拶をする。


「皆さん、行ってきまーす」


「タム、庄さんの言うことをきちんと聞くんだよ。行っておいで!」


 モロブも言うから、新米店主も何か言おうと考えた。


「どこへ行くか知らないけれど、行ってらっしゃい」


 そして、二人はアスナロの木に手を触れた瞬間、消えたのだった。


「はっ、き、き、消えた!消えちゃった!
私、夢を見ているの?あの木、どうなっているの?妖精って……まさか、現実なの?」


目をこすっている美紗子にモロブが説明をする。


「ああ、あの木は、我が国と人間界を繋いでいる出入り口だ。
庄さんとタムは、あの茶器についている邪悪精の浄化に行ったのだ」


「じゃあくせいって?」


「簡単に言うと、骨董品に住んでいた妖精が長年しまわれ忘れ去られてしまうと、自力で骨董品から出ることができなくなってしまうのよ。
そうすると、妖精は人間に対して憎しみを持つようになって、邪悪精になるの。
負のオーラを放ち呪うから、持ち主やその家が不幸になっていってしまうってわけ」


美紗子が馴染みのない言葉に戸惑っていると、ルシェが教えたのだった。


「はあ?その話が本当ならば、骨董品だらけの この店はやばいでしょ?
あまり売れていないみたいだし、柱なんて、ずっと売れ残っているでしょうから、邪悪精かも……って、あ、あなたでしたね。
すみません……違いますよね?」


「誰が邪悪精だ!とことん失礼だなっ!
私は、確かに長年ここにいるが、誰にも忘れ去られてはいない!逆に妖精助けをしていますからね」


 ひょろりと背の高いモロブが背後に立って言ったから、美紗子は慌てて謝る。


「ひぃ、ご、ごめんなさい。失礼しました」

 
 その時、偵察スズメが開いている窓にやって来た。


「あら、スズメさん、お疲れ様です。
何か御用かしら?」


 窓枠に留まったスズメが鳴いている。


「はい、わかったわ。柿沢家の蔵の中ね。スズメさん、ありがとう、またよろしく頼むわね」


ルシェが言うと、スズメは飛び去ったのだった。


 その様子を見ていた美紗子は、義父からの呪いの手紙を思い出していた。


(あの手紙に書いてあったのは、この不思議な事だったのね……ドッキリではなく、現実の事なんだ……凄い所に来ちゃったのかも)


「モロブさん、今晩、任務です。
さあ、わたくし達は、夜に備えて、休みますわね。では、失礼」


 二人は、骨董品コーナーへ歩いて行き、姿を消したのだった。


(お義父さん、これが秘密というヤツなんですね?誰にも話してはいけないという例の秘密ですね?
昨日のお客さんは、妖精の存在を知っているみたいだったけど……。

まさか、お義父さんが具合が悪いのは、呪いってオチじゃないでしょうね?)


 美紗子は、客席に座り庭にあるアスナロの木を眺めながら思う。

(不思議な世界か……どんなところなんだろう?)
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