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第2巻 第1話:ことだま学園への招待!新たな世界へ
しおりを挟む「言葉喰らい」の異名を持つハンターと対峙した天音。その緊張感に包まれた空気が、突如として打ち破られた。
「よし、試験終了!」
水織の明るい声が広場に響き渡った。黒装束のハンターは仮面を外し、にこやかな笑顔を見せた。彼はごく普通の若い男性で、先ほどまでの不気味な雰囲気はどこにもなかった。
「え...?」
天音は困惑した表情で水織を見つめた。
「ごめんなさい、天音くん。これは入学前の最終試験だったの」
水織は天音に近づきながら説明した。
「言葉喰らいの桐島くんは、実は学園の上級生よ。敵と対峙した時の対応を見る試験だったの」
「そうだったんですか...」
天音は肩の力を抜いた。真剣に戦闘の準備をしていたため、少し恥ずかしい気持ちになった。
「でも立派だったぞ」
桐島と呼ばれた男性が天音に近づいてきた。
「真正面から立ち向かう姿勢、そして『響け、言霊』を即座に展開させる反応速度...仙人殿から聞いていた通りの素質だ」
「あの...結果はどうだったんですか?」
不安そうに尋ねる天音に、水織は笑顔で答えた。
「合格よ!これからことだま学園の一員として、本格的な言霊の修行を始めることになるわ」
天音の表情が明るくなった。彼は倉田の方を振り返り、安心した様子で微笑みかけた。
「良かったね、天音くん!」
倉田も駆け寄ってきた。
「そして倉田さんも、特別枠での入学を許可します」
水織の言葉に、倉田は喜びの表情を浮かべた。
「本当ですか?私も...」
「ええ。まだ言霊の力は弱いけれど、才能はある。それに...」
水織は意味深な笑みを浮かべ、天音と倉田を交互に見た。
「言霊の力は時に、強い絆によって育まれることもあるのよ」
倉田は頬を赤らめ、天音も少し照れくさそうに頭をかいた。
「さて、本格的なオリエンテーションを始めましょう」
水織は二人を促し、広場の中央へと案内した。周囲の学生たちは通常の活動に戻り、先ほどの「試験」が日常的な光景であるかのように振る舞っていた。
---
中央広場から見上げる七つの塔は、朝日に照らされて神秘的な輝きを放っていた。
「ことだま学園は、七つの『言霊の塔』を中心に構成されています」
水織は説明しながら、それぞれの塔を指し示した。
「『鳳凰の塔』は新入生寮。『風詠みの塔』は風と音の言霊を学ぶ場所。『炎語りの塔』は火と熱の言霊。『水鏡の塔』は水と氷の言霊。『大地の塔』は土と植物の言霊。『空詠みの塔』は空間と光の言霊。そして中央の『真言の塔』は全ての言霊の根源を研究する場所です」
天音と倉田は圧倒されたように、それぞれの塔を見上げた。
「この学園には世界中から言霊の才能を持つ者たちが集まっています。年齢は様々で、最年少は10歳、最年長は70歳を超える方も。言霊の才能に年齢は関係ないのです」
実際、広場では様々な年齢の生徒たちが行き来しており、時には言霊を使った練習をしているようだった。ある少年は小さな火の玉を操作し、別の年配の女性は水を自在に操っている。
「寮はどのように決まるのですか?」
天音が尋ねると、水織は少し考え込むような表情をした。
「通常は言霊の適性によって決まるのですが...天音くんの場合は少し特殊です」
「特殊?」
「ええ。『響け、言霊』は珍しい言霊で、単純に分類できません。そこで...」
水織は立ち止まり、二人に向き直った。
「今日、『ことだま試練』を受けてもらいます。その結果によって、どの塔に所属するかが決まります」
「ことだま試練...」
天音は緊張した面持ちで呟いた。
「倉田さんは『光れ』という言霊を使うので、おそらく『空詠みの塔』に配属されるでしょう。でも天音くんは...試練の結果次第ですね」
三人は広場を横切り、「真言の塔」の方へ向かった。朝の光を受けて輝く白い塔は、他の六つの塔よりも一段と高く、威厳を感じさせる存在感があった。
「『ことだま試練』は学園内で最も重要な儀式の一つです。言霊の適性だけでなく、言霊使いとしての資質も試されます」
塔の入口に立つと、巨大な二重扉が彼らを迎えた。扉には様々な言語で「言葉」を意味する文字が刻まれており、中心には大きな「言」の字があった。
水織が手を扉に当てると、文字が淡く光り、重厚な扉がゆっくりと開いていった。
「入りましょう」
中に入ると、天音と倉田は思わず息を呑んだ。内部は外観からは想像できないほど広大で、中央には巨大な空間が広がっていた。床から天井まで螺旋状に本棚が並び、その間を光の橋が結んでいる。床には複雑な魔法陣のような模様が描かれ、かすかに光を放っていた。
「ここが『真言の間』。ことだま学園の中心であり、全ての言霊が交差する場所です」
水織は二人を中央へと導いた。そこには複数の教師らしき人々が円形に並んで待っていた。中央には一人の老人が立っており、彼はどこか仙人に似た風格を持っていた。
「学園長、新入生の天音くんと倉田さんをお連れしました」
水織が深々と頭を下げると、老人は優しい目で二人を見つめた。
「よく来たな、天音、倉田。私はことだま学園の学園長、言霊翁(ことだまおう)じゃ」
「よ、よろしくお願いします」
天音と倉田は同時に頭を下げた。
「仙人からは既に連絡があっておる。特に君、天音。『響け、言霊』の使い手とは珍しい」
学園長の言葉に、周囲の教師たちがざわめいた。彼らは興味深そうに天音を見つめている。
「早速だが、『ことだま試練』を始めよう。倉田は後ほど簡易版の試練を受けるが、まずは天音からじゃ」
学園長が床の中央を指差すと、魔法陣のような模様が明るく輝き始めた。
「天音、あの円の中に立ちなさい」
緊張しながらも、天音は指示された場所に立った。すると、床の模様が変化し、彼の周りに光の壁が立ち上がった。
「これから言霊を使って障害物コースを突破してもらう。制限時間は15分。言霊の使い方、判断力、そして創意工夫が試されるぞ」
光の壁が形を変え、長い回廊のような空間が現れた。回廊の先には光る扉が見える。
「あの扉まで到達するのが目標じゃ。途中の障害は自分の言霊で対処せよ」
天音は深く息を吸い、心を整えた。これまでの修行で学んだことを思い出す。
「始め!」
学園長の合図と共に、天音は回廊へと踏み出した。すると、彼の前に突然、火の壁が立ちはだかった。
「消えろ!」
天音が言霊を放つと、火の壁は一瞬だけ消えたが、すぐに再形成された。
「単純な言霊では通用しないようだ...」
天音は考え、別の方法を試みた。
「弾け!」
防御の言霊を攻撃として使う戦法だ。火の壁に「弾け」を当てると、炎が左右に分かれ、通路ができた。天音は素早くその隙間を通り抜けた。
次に現れたのは、激しく渦巻く水の柱。水柱は左右に揺れながら、通路を封鎖している。
「凍れ!」
天音の言霊によって、水柱は瞬時に凍りついた。彼はその氷の彫刻のように美しい障害物を素早く回り込み、先へ進んだ。
第三の障害は大きな岩が次々と天井から落ちてくるトラップだった。
「疾風!」
天音の周りに風が集まり、彼の動きを加速させた。風を纏った彼は、落下する岩の隙間を縫うように高速で進んでいく。
「良い判断だ」
学園長が呟いた。周囲の教師たちも感心した様子で頷いている。
障害物を次々とクリアする天音。砂嵐のような障害は「静まれ」で、炎の竜巻は「分かれ」で対処した。
しかし、最後の障害で天音は立ち止まった。そこには何もない...ように見えたが、彼が一歩踏み出すと、見えない壁にぶつかった。
「見えない壁...?」
天音は手で壁を探りながら、その正体を把握しようとした。
「何の言霊を使えばいいんだろう...」
時間が過ぎていく。天音は様々な言霊を試みた。
「消えろ」「開け」「壊れろ」...
しかし、どの言霊も効果がなかった。
「もしかして...」
天音は一つの仮説を立てた。見えない壁...それは単なる物理的な障害ではなく、別の何かかもしれない。
彼は「響け、言霊」を発動させ、壁の本質を感じ取ろうとした。
「響け、言霊!」
彼の声が波動となって広がると、驚くべき発見があった。壁は物理的な障害ではなく、「言葉の壁」だったのだ。無数の言葉が編み込まれ、通路を塞いでいた。
「言葉の壁...言葉で作られた壁なら...」
天音は静かに目を閉じ、深く集中した。
「理解せよ」
これまで使ったことのない新たな言霊だった。彼の言葉が壁に触れると、壁を構成する言葉が明るく輝き始め、一つ一つの言葉が解読できるようになった。それは様々な言語で書かれた「知恵」「理解」「共感」といった言葉だった。
「なるほど...言葉の壁は、理解することでしか越えられない」
天音は壁に向かって静かに言った。
「受け入れる」
すると、言葉の壁がゆっくりと透明になり、彼の前に道が開けた。天音は微笑みながら、最後の道を歩み、扉に到達した。
「試練終了!見事合格じゃ!」
学園長の声が響き、光の空間が徐々に消えていった。天音は再び「真言の間」の中央に立っていた。周囲の教師たちから拍手が沸き起こる。
「素晴らしい洞察力じゃ、天音。最後の障害は多くの生徒が躓くところじゃが、お前は見事に突破した」
学園長は満足げに頷いた。
「『理解せよ』という言霊も、自分で作り出したのか?」
「はい...壁の正体がわかったとき、そうするしかないと思いました」
「素晴らしい。言霊の真髄を理解しておる。言葉は心と結びついてこそ、真の力を発揮する」
水織が天音に近づき、微笑んだ。
「素晴らしかったわ、天音くん。特に最後の障害の突破方法...とても印象的だった」
倉田も天音に駆け寄り、喜びを分かち合った。
「さて」
学園長が静かに言った。
「試練の結果を見るに、天音の適性は明らかじゃ。お前は『真言の塔』に所属することになる」
「え...?」
天音は驚いた。「真言の塔」は学園の中心であり、最も重要な塔と説明されていた。
「通常、新入生が『真言の塔』に配属されることはない。だが、お前の『響け、言霊』と、言葉の本質を理解する能力は特別じゃ。この塔で学ぶことが、お前の才能を最大限に引き出すだろう」
天音は複雑な思いで頷いた。特別扱いされることに、少し居心地の悪さを感じながらも、これが自分の才能を伸ばす最良の道なのだと理解した。
「倉田さんの試練は...」
「ああ、彼女は既に適性が明らかじゃ。『空詠みの塔』に所属することになる」
「それじゃあ、別々に...」
天音は少し寂しげな表情を浮かべた。
「心配するな。授業や食堂は共通じゃ。塔が違っても、日常的に会うことはできる」
学園長の言葉に、二人はほっとした様子で微笑み合った。
「さて、これからの予定だが...」
水織が二人に説明を始めた。
「今日は二人とも自分の塔に移動し、荷物を整理してください。明日から本格的な授業が始まります」
「はい」
「天音くんは『真言の塔』の上級生、鷹志(たかし)くんが案内します。倉田さんは私が『空詠みの塔』まで案内するわ」
天音と倉田は別れ際、お互いに頑張ろうと言葉をかけ合った。
「では、またあとでね」
倉田が水織と共に去っていくのを見送った後、天音は案内役の鷹志を待った。
しばらくすると、一人の少年が「真言の間」に入ってきた。背が高く、黒髪に鋭い眼光を持つ少年だ。
「君が天音か。俺は鷹志、『真言の塔』の上級生だ」
鷹志は冷淡な態度で天音を見下ろした。
「よ、よろしく」
天音が挨拶をしたが、鷹志は素っ気なく言った。
「ついてこい。塔を案内する」
その冷たい態度に、天音は少し戸惑いを感じた。だが、これも新生活の一部だと思い、黙って従うことにした。
こうして、天音のことだま学園での生活が、予想外の展開と共に始まったのだった。
(つづく)
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