53 / 317
第5章 そのお茶会、本当に必要ですか?
第53話 王妃と側妃
しおりを挟む
「はぁ……」
思考の沼にはまったオルメリアは無意識にため息を漏らしてしまった。
「どうかされましたかメリー様?」
「えっ、ああ、ごめんなさい」
そんな彼女を心配して声を掛けるエレオノーラは本当に人の好い性格をしている。だから政敵であるはずの彼女をオルメリアは嫌えない。
(ううん、むしろ私はエレンのことが好きなのよね)
伯爵令嬢であったエレオノーラは現国王と熱愛の末に側妃となった経緯がある。普通なら王妃オルメリアとの間に軋轢を生じていてもおかしくなかった。
(エレンは良い子なのよねぇ)
ところがエレオノーラは権力に頓着しない性格な上に何故かオルメリアに良く懐いてしまっている。その仲の良さは夫である国王が嫉妬するほどなのだから相当なものだ。
(それに、いつまでも可愛いし)
思わず若い時にしていたように頭をよしよしと撫でると、エレオノーラは嬉しそうに破顔した。
「うふふふ、もうメリー様ったら」
そんなエレオノーラには随分と振り回されたものだが、自分を姉の如く慕ってくるエレオノーラにいつの間にか絆されてしまっていた。
「エレンが羨ましいわ」
「私が?」
エレオノーラは目をぱちくりとさせた。
「メリー様の方がずっと美人で頭も良いのに、私の何に羨ましがるんです?」
「エーリックはあなたみたいに良い子に育っているでしょう」
(私はどこでオーウェンの教育を間違えたのかしら)
何がいけなかったのかと、彼女は悩んでしまう。
甘やかし過ぎたのか、それとも厳し過ぎたのか?
古今東西、聖人君子でも我が子の教育は難儀するものであるとは聞いている。だが、その問題が自分の身に降り掛かるとはオルメリアは思いもしていなかった。
(それに比べてエレンはエーリックを真っ直ぐ育てているわ)
確かにエーリックには多少頼りないところはある。だが、彼は自分の足りない部分をきちんと理解し努力している様子が窺えた。
「何を言っているの?」
ところがエレオノーラは不思議そうに聞き返した。
「オーウェン殿下も良い子よ。情が深いし、とっても正義感が強いじゃない」
「えっ、ええ……そうね……本当にそうだわ」
エレオノーラの言葉にオルメリアははっと気付かされた。
(私は国母であると同時にオーウェンの母親じゃない。私が真っ先に見放してどうするの!)
エレオノーラが愛されるのは自然に相手の良い部分を認めて包み込むところだ。それに比べて相手の欠点ばかり論うのは自分の悪い癖だとオルメリアは自戒した。
(甘いとか厳しいとかではないわね。私はきちんとオーウェンと向き合っていなかったのかもしれない)
「イーリヤさんも素敵なレディで将来はきっと良い王妃様になれるわ」
楽しみねと屈託なく笑うエレオノーラに釣られてオルメリアも微笑んだ。
「ありがとうエレン」
「ん?」
オルメリアとしてはエレオノーラのお陰で吹っ切れたのだが、エレオノーラは突然お礼を言われて訳が分からないと小首を傾げた。
(私一人が無用な悩みを抱えているみたいだわ)
そんなエレオノーラに自分の一人相撲が滑稽でオルメリアは苦笑いが出てしまった。
思考の沼にはまったオルメリアは無意識にため息を漏らしてしまった。
「どうかされましたかメリー様?」
「えっ、ああ、ごめんなさい」
そんな彼女を心配して声を掛けるエレオノーラは本当に人の好い性格をしている。だから政敵であるはずの彼女をオルメリアは嫌えない。
(ううん、むしろ私はエレンのことが好きなのよね)
伯爵令嬢であったエレオノーラは現国王と熱愛の末に側妃となった経緯がある。普通なら王妃オルメリアとの間に軋轢を生じていてもおかしくなかった。
(エレンは良い子なのよねぇ)
ところがエレオノーラは権力に頓着しない性格な上に何故かオルメリアに良く懐いてしまっている。その仲の良さは夫である国王が嫉妬するほどなのだから相当なものだ。
(それに、いつまでも可愛いし)
思わず若い時にしていたように頭をよしよしと撫でると、エレオノーラは嬉しそうに破顔した。
「うふふふ、もうメリー様ったら」
そんなエレオノーラには随分と振り回されたものだが、自分を姉の如く慕ってくるエレオノーラにいつの間にか絆されてしまっていた。
「エレンが羨ましいわ」
「私が?」
エレオノーラは目をぱちくりとさせた。
「メリー様の方がずっと美人で頭も良いのに、私の何に羨ましがるんです?」
「エーリックはあなたみたいに良い子に育っているでしょう」
(私はどこでオーウェンの教育を間違えたのかしら)
何がいけなかったのかと、彼女は悩んでしまう。
甘やかし過ぎたのか、それとも厳し過ぎたのか?
古今東西、聖人君子でも我が子の教育は難儀するものであるとは聞いている。だが、その問題が自分の身に降り掛かるとはオルメリアは思いもしていなかった。
(それに比べてエレンはエーリックを真っ直ぐ育てているわ)
確かにエーリックには多少頼りないところはある。だが、彼は自分の足りない部分をきちんと理解し努力している様子が窺えた。
「何を言っているの?」
ところがエレオノーラは不思議そうに聞き返した。
「オーウェン殿下も良い子よ。情が深いし、とっても正義感が強いじゃない」
「えっ、ええ……そうね……本当にそうだわ」
エレオノーラの言葉にオルメリアははっと気付かされた。
(私は国母であると同時にオーウェンの母親じゃない。私が真っ先に見放してどうするの!)
エレオノーラが愛されるのは自然に相手の良い部分を認めて包み込むところだ。それに比べて相手の欠点ばかり論うのは自分の悪い癖だとオルメリアは自戒した。
(甘いとか厳しいとかではないわね。私はきちんとオーウェンと向き合っていなかったのかもしれない)
「イーリヤさんも素敵なレディで将来はきっと良い王妃様になれるわ」
楽しみねと屈託なく笑うエレオノーラに釣られてオルメリアも微笑んだ。
「ありがとうエレン」
「ん?」
オルメリアとしてはエレオノーラのお陰で吹っ切れたのだが、エレオノーラは突然お礼を言われて訳が分からないと小首を傾げた。
(私一人が無用な悩みを抱えているみたいだわ)
そんなエレオノーラに自分の一人相撲が滑稽でオルメリアは苦笑いが出てしまった。
3
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが
水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。
王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。
数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。
記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。
リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが……
◆表紙はGirly Drop様からお借りしました
◇小説家になろうにも掲載しています
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
悪役令嬢は断罪の舞台で笑う
由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。
しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。
聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。
だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。
追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。
冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。
そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。
暴かれる真実。崩壊する虚構。
“悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる