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第5章 そのお茶会、本当に必要ですか?
第59話 手の平の上で
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「あ、あの、ですが、この場で名を口にして良いものか……」
なんともしおらしい態度をしているが、ウェルシェは絶対にここで名を告げるつもりだ。そして、必ずその流れになると確信している。
「事は王家の威信にも関わります」
黙って聞いていたオルメリアが眉間に皺を寄せて口を挟んだ。
(きたきたきたぁ♪)
エレオノーラとの関係に気を使っているオルメリアなら無視はできないだろうとウェルシェは踏んでいた。
「構いません。私が許可します」
果たして予想通り食い付いてきた。
「それで、誰が難癖をつけているの?」
見れば王家への反意とも取れる内容にオルメリアも立腹している様子だ。
「ケヴィン・セギュル様ですわ」
「そんな!?」
ケイトが悲鳴にも似た声を上げた。
「あり得ないわ!!」
それはそうだろう。先まで非難の対象にしていたのが自分の息子だと知らされたのだから。
しかも、王家への叛意とも取れる言動までしているのだから、下手をすればセギュル家とてお咎め無しとはいかない可能性まである。
「言い掛かりはやめてちょうだい。ケヴィンは品行方正で優秀な子よ。だからオーウェン殿下のお声掛けがあり側に仕えるのを許されているのだから」
「あ、あの……」
物凄い剣幕で迫って来たケイトにおどおどとウェルシェは怯えたが、もちろん全て演技である。
「こちらの方は?」
シキン夫人から既に教えてもらって知ってはいるが、ウェルシェは敢えて知らぬフリをした。
初対面で名乗りを受けていないのを周囲に印象付ける為である。
「セギュル夫人、失礼ですよ」
オルメリアから叱責を受け、この時に初めてケイトは己の落ち度に気が付いた。周囲の夫人達の視線も白い。
(くっくっくっ、ほぉんと良く踊ってくださる方ね)
全ては心の中で真っ黒い笑いを浮かべるウェルシェの手の平の上。
王妃主催の茶会で、しかも王妃のテーブルに着く招待客に紹介も受けずに勝手に声を掛けるなど重大なマナー違反だ。この一事を見てもケイトが非常識であり、その息子ケヴィンの奇行に信憑性が生まれてしまった。
「まあ、セギュル侯爵夫人でいらしたのですね」
「そ、そうよ、私がケヴィンの母ケイト・セギュルです」
もはやケイトは引くに引けず開き直ってウェルシェに挑むような目を向けた。
「ケヴィンがそんな振る舞いをするはずがないわ。変な言い掛かりは止めてちょうだい!」
だが、それはウェルシェの思うつぼ。
「だ、誰がそんな根も葉もない事を!」
「あの、とても申し上げにくいのですが……」
さも困ったとウェルシェは片手を頬に当てて眉根を寄せる。
「ケヴィン・セギュル様が落第寸前の成績であるのは公になっておりますし、不特定多数の女性を侍らせているのは全校生徒、全職員が知るところですの」
「そんな!?」
あまりの証人の多さにケイトがショックに青ざめる。
「その、何と申し上げてよいのか」
いたましそうにウェルシェは顔を曇らせた。もっとも、内心で舌をべーっと出してケタケタ笑っているのだが。
「だけど、だからと言ってあの子に限って王家に歯向かうような言動までするとは信じられないわ」
(はーい、うちの子に限って入りました~)
ケイトが恥の上塗りを重ねに重ねる姿を見て、ウェルシェは爆笑するのを抑えるのにもう必死だった。
なんともしおらしい態度をしているが、ウェルシェは絶対にここで名を告げるつもりだ。そして、必ずその流れになると確信している。
「事は王家の威信にも関わります」
黙って聞いていたオルメリアが眉間に皺を寄せて口を挟んだ。
(きたきたきたぁ♪)
エレオノーラとの関係に気を使っているオルメリアなら無視はできないだろうとウェルシェは踏んでいた。
「構いません。私が許可します」
果たして予想通り食い付いてきた。
「それで、誰が難癖をつけているの?」
見れば王家への反意とも取れる内容にオルメリアも立腹している様子だ。
「ケヴィン・セギュル様ですわ」
「そんな!?」
ケイトが悲鳴にも似た声を上げた。
「あり得ないわ!!」
それはそうだろう。先まで非難の対象にしていたのが自分の息子だと知らされたのだから。
しかも、王家への叛意とも取れる言動までしているのだから、下手をすればセギュル家とてお咎め無しとはいかない可能性まである。
「言い掛かりはやめてちょうだい。ケヴィンは品行方正で優秀な子よ。だからオーウェン殿下のお声掛けがあり側に仕えるのを許されているのだから」
「あ、あの……」
物凄い剣幕で迫って来たケイトにおどおどとウェルシェは怯えたが、もちろん全て演技である。
「こちらの方は?」
シキン夫人から既に教えてもらって知ってはいるが、ウェルシェは敢えて知らぬフリをした。
初対面で名乗りを受けていないのを周囲に印象付ける為である。
「セギュル夫人、失礼ですよ」
オルメリアから叱責を受け、この時に初めてケイトは己の落ち度に気が付いた。周囲の夫人達の視線も白い。
(くっくっくっ、ほぉんと良く踊ってくださる方ね)
全ては心の中で真っ黒い笑いを浮かべるウェルシェの手の平の上。
王妃主催の茶会で、しかも王妃のテーブルに着く招待客に紹介も受けずに勝手に声を掛けるなど重大なマナー違反だ。この一事を見てもケイトが非常識であり、その息子ケヴィンの奇行に信憑性が生まれてしまった。
「まあ、セギュル侯爵夫人でいらしたのですね」
「そ、そうよ、私がケヴィンの母ケイト・セギュルです」
もはやケイトは引くに引けず開き直ってウェルシェに挑むような目を向けた。
「ケヴィンがそんな振る舞いをするはずがないわ。変な言い掛かりは止めてちょうだい!」
だが、それはウェルシェの思うつぼ。
「だ、誰がそんな根も葉もない事を!」
「あの、とても申し上げにくいのですが……」
さも困ったとウェルシェは片手を頬に当てて眉根を寄せる。
「ケヴィン・セギュル様が落第寸前の成績であるのは公になっておりますし、不特定多数の女性を侍らせているのは全校生徒、全職員が知るところですの」
「そんな!?」
あまりの証人の多さにケイトがショックに青ざめる。
「その、何と申し上げてよいのか」
いたましそうにウェルシェは顔を曇らせた。もっとも、内心で舌をべーっと出してケタケタ笑っているのだが。
「だけど、だからと言ってあの子に限って王家に歯向かうような言動までするとは信じられないわ」
(はーい、うちの子に限って入りました~)
ケイトが恥の上塗りを重ねに重ねる姿を見て、ウェルシェは爆笑するのを抑えるのにもう必死だった。
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