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第六章
≪Ⅰ≫精霊の泉だろ【1】
しおりを挟む「メルは嫌か?」
ベンダーツさんの指摘を受け、ヴォルが私へ問い掛けてきました。
えっ?!──とても、ビックリです。
私へ質問が飛んでくるとは思っていなかったので、急な事なので尚更間が抜けた顔をしてしまいました。
「だ、大丈夫です。と言うか私、ヴォル以外の人に触れられるのは嫌です」
アワアワとしながらも、私は考えながら答えます。
以前、旅の途中でそんな事がありました。──知らない男の人達に取り囲まれて腕を掴まれた時、その不快感にゾワゾワと鳥肌が立ったのです。
それまで幾度となくヴォルに触れられてきた私には、彼に対して嫌悪感を感じた事がありませんでした。──誘拐された時には怒りましたけど。
「メルも、か……。まぁ、ヴォルとメルがお互いにそうなら良いんだけどさ。嫌なら、キチンと言うんだぞ?」
「は、はい」
「マークがメルのお兄さんじゃないよな?」
ベンダーツさんと私のやり取りに、ネパルさんが不思議そうな表情で問い掛けてきます。──えぇ、どう見ても似てないではないですか。
私はこのお二方と違って、全く見目が良くない普通の村娘ですから。
「冗談だろ。こんなのが義理の兄なら本気で蹴り飛ばす」
「おいおいっ」
そんなネパルさんの言葉へ、ヴォルは吐き捨てるかのように鋭く言い放ちました。思わずといった様子でベンダーツさんが口を挟みますが、見上げた先のヴォルの瞳は言葉同様に鋭いです。
──ヴォル?何だか熱くなっていませんか?
兄弟話にやたら敏感なのは、ベンダーツさんが絡んでいるからでしょうか。
「そうかぁ?はたから見てる分には、アンタ等三人共仲が良いなぁって思えるからさ。まぁそんな事はどうでも良いか、行くぜ!」
そう言って、先程と同じくガハハとネパルさんは笑い飛ばしました。
そして突然号令をあげて背を向けます。──ムムッ?いったい、何処へ行くつもりですか?
「ほら、ヴォルもメルも行かないのか?まさか、何処に行くか分からない訳でもあるまい」
「……精霊の泉だろ」
「そ、そうだったですね」
ネパルさんに続いて歩み始めたベンダーツさんが振り返り、動かないヴォルと私へ声を掛けました。
嫌そうに答えたヴォルと違い、私はそこで漸く合点がいきます。──アハハ、話は聞いていたのですけどね。
と言うか──この集落の部外者である私達を案内するって事は、噂される程貴重な場所ではないのでしょうか。
ヴォルは魔力を持つ人なので、彼等に仲間認識されるのは分かります。でもベンダーツさんと私は、持たざる者ですよ?
「あ~……この村はこんなに小さいんだけどさ、魔力持ちが産まれる確率が高いって事で国に保護されてるんだ」
四人で連なるように森へ分け入って行くと、ネパルさんが僅かに言いにくそうに話し始めました。
保護?あれ、道中でベンダーツさんから聞いた話と違いますが。
「まぁ、大人の中には親族を徴集されるからって理由で毛嫌いしてる人達もいるけどな。でも俺は、広い場所に出られるのは良いものだと思ってる」
集落から離れた事で自分の意見を口に出来たのか、ネパルさんは話しながらも草が掻き分けられているだけの獣道を難なく進んでいきます。
「その、ネパルさんは嫌ではないのですか?」
「俺?そりゃ、この集落は居心地が良いよ。でも俺も男だからさ、自分の力を試したいとも思うんだよね」
先程見た集落の男性の中でまだ若いであろうネパルさんは、街へ出る事に興味があるようでした。──えぇ、農村でもそういう考えはありましたからね。
「腕試しの場所として、セントラルに行きたいと思ってるのかい?」
ベンダーツさんが柔らかく問い掛けます。同じ男性なので、そういった気持ちが分かるのでしょうか。
それにしても結構集落から離れているようで、森の中をアリの行列のように仲良く並んで歩いていました。──ネパルさんを先頭にベンダーツさん、私とヴォルの順番で一列に歩いていきます。
「男にはそれくらいの野心があるだろ?まぁ、俺の場合は母ちゃんの身体が弱いから……。って、嘘を言っても仕方ないか。俺は魔力量が小さいから徴集対象にならなかったんだ」
僅かに痛そうな笑みでした。野心と言いつつも、ネパルさんにも思うところがあるようです。
セントラルの徴集担当は、魔力所持者の方を選りごのみしている事も知りました。
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