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八話
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「————魔物が出現したから兵を連れて勝手に討伐に向かった挙句、手酷いしっぺ返しを食らっただあ!? バカかよッ!?」
悲鳴のような叫び声だった。
盛大に表情を歪めて、魔物に気付かれるかもしれないという懸念も度外視にしてシュミッドさんは声を荒げていた。
「そもそも、神父共に兵を動かす権利は与えていなかったと思うが……?」
「……その、緊急事態であった事が災いし、背に腹はかえられないと翁が」
「にしてももっとマシな人選があっただろッ!? 最近じゃあ、〝変異種〟なんつーもんも出てきてんだぞ!? 神父共じゃ手に負えねえ事なんて明白だろうが!!」
その一言に、私も心底同意する。
たった一人の戦力を使って物事を解決するならばまだしも、神父はあくまで神父だ。
魔物を討伐する知識はあっても、兵を指揮する能力は皆無。大方、物量で押し潰そうと考えていたから手酷いしっぺ返しを受けたのだろう。
「……残しておいた兵は基本、防衛する為の兵だ。討伐に差し向けるには相性が悪過ぎるとガキでも分かる事だろうが……」
責任者は神父に反対を押し切られでもしたのか。言い包められたのか。
それは不明。でも、不味い状況である事は目の前で交わされる言葉を聞いていただけの私でも分かる事実であった。
「……で、隠居じじい共は何と?」
「……それはまだ何とも。まず、この事をシュミッド様にお伝えする事が先決であると急いで来た身でして」
「じゃあ、動けそうな兵は後どのくらいいた?」
「……恐らく、300といったところでしょうか」
「半分以上使えねえって事じゃねえか」
苛つく心境を隠そうともせず、矢継ぎ早に交わされる言葉の数々。
やがて場に沈黙が降り、黙考。
下唇を忌々しげに強く噛み締めるシュミッドさんであったけど、不意に顰めっ面だった表情を緩ませ、仕方がなさそうに私達に向けて笑った。
それが意図する事は詰まるところ、申し訳ないという意を含んだ謝罪の前兆。
「悪ぃな、ルーク。ちょいと用事が出来ちまった。だからその〝卵〟はまた今度って事にしといてくれ」
急いで戻らなくてはいけなくなった。
だから、〝卵〟は荷物になるから持ってはいけない。もしくは、兵が減ってしまった現状では、魔物を引き寄せる特性を持つ〝卵〟は手元に置いておくべきではないと判断したのか。
兎にも角にも、〝卵〟は一度持ち帰る必要がありそうだった。
「……まぁ、オレは別になんだって構いはしないが」
————大丈夫なのか。
と、明確な言葉にこそされなかったけど、ルークさんはシュミッドさんにそう言ってるんだと思った。
互いの立場が邪魔をしているのか。
明確な言葉に変えないところが、ルークさんに今出来る最大の気遣いだったのかもしれない。
「ま、なんとかなんだろ。こればっかりは手ぇ借りた俺らが愚かだったとしか言いようがねえ。取り返しの付かない致命的なミスでないだけ良しとするさ」
起きてしまった事は仕方がない。
そう割り切るべきと考えているのか、シュミッドさんの切り替えは早かった。
ただ————。
「あの、メルセデス公爵領って、ランドブルグのすぐ側なんですよね?」
ルークさんとシュミッドさんの会話に割り込むように私は言葉を紡ぐ。
世界の地図なんて朧げにしか頭に入ってなかったから、先程のルークさんの言葉を思い出しながら問い掛ける。
「そう、だが?」
それがどうしたのだと語尾を疑問系にするシュミッドさんであったが、幾ら森を挟んでいるとはいえ、隣接しているのであれば、先の会話もきっと他人事じゃなくなってくる。
だから。
「じゃあ、魔物が発生してる場所ってここから近いですかね」
それは、ルークさんであれば口が裂けても聞く事は出来ない質問。
なにせこの言葉は、言い換えればメルセデス公爵家が魔物を対処し切れなかった場合、ランドブルグに流れてくる可能性があるよねと聞いているようなものであるから。
向こうが助けを乞うてない状態でのこの一言は、言ってしまえば信頼をしていないと相手に突きつけているようなもの。だからこれは、ランドブルグに来たばかりで、シュミッドさんとも少し前に初対面だった私だからこそ辛うじて言える不躾でしかない言葉であった。
やがて、シュミッドさんの視線がどうなんだと言わんばかりに、伝令役と思しき彼に向かう。ルークさんの表情は若干強張ってはいたけど、シュミッドさんは気にしていないようで、確かに、そりゃ当然の疑問だわなと小さく笑ってすらいた。
「……近くはありませんが、遠くもない、といったところでしょうか」
回答に悩む答えであった。
でも、それであればなんとか私の我儘も通りそうではあった。
「なら、丁度いいですね」
————何が丁度いいんだ。
他の人達の胸中がぴたりと一致したであろう瞬間であったけど、それに構わず、声に変えて問い掛けられるより先に私は言葉を続けた。
「怪我人に、『教会』の神父。さらには魔物。それだけ条件が揃ってるなら、折角の良い機会なんで、そこに私も連れて行ってくれませんか」
それはあまりに頓狂な一言だった。
表情に笑顔を貼り付けながら、告げた私のその一言は、良い意味でも、悪い意味でもその場にいた人達の度肝を抜く事になった。
でもきっと、この条件下であれば、私という存在が対処に誰よりも適任だと思う。
……ただ。
「…………ん」
私の一言に対して、何を言ってるんだコイツ。と言わんばかりの表情を浮かべながら驚いていたシュミッドさんであったけれど、それも刹那。
少しばかり唸りながら冗談を言っているような様子では無い私の瞳を見詰め返した後、ややあってから値踏みするような言葉が返ってくる。
「どうしてだ?」
目の前にいるのは、無茶と思われようと平気でそれを敢行してしまう無鉄砲。
という印象を私に対して抱きつつあるルークさんではなく、会ったばかりのシュミッドさんだ。
向けられる瞳から受け取れる印象は、少し変わった魔法を使う観察対象から、若干、得体が知れないものを見るようなモノに変わっていた。
そして、こういう手合いには隠し事はせず、どんな理由であろうと後腐れなくぶちまけてしまうのが吉と、それなりに長い人生経験が私に教えてくれている。
故に。
「そう、ですね。なんでだって聞かれると理由なんて沢山あるんですけど、あえて一つ、答えるとすれば……ざっまぁぁぁぁぁあ!! って言いたいから、ですかね?」
貴族令嬢らしさなんてこれっぽっちの惜しさも感じる事なく投げ捨てながら、溜まりに溜まった鬱憤を晴らすように、私は大声を上げた。
そして去来する記憶の数々。私自身の経験。
私自身、両親からはかなり杜撰な扱いを受けていたけれど、実は『聖女』が絡むようになってから比較対象やらに私を使うのが一番都合が良かったのか。『教会』の連中からもボロッカス言われていた。それはもう、よく自殺しなかったなって自分を褒めたくなるようなレベルで。
前世の頃の記憶も相まってか。
『教会』に対する印象はいっぺんの揺らぎすらもなく底部を這っている状態だ。
そんな私が、散々馬鹿にしてくれていた対象に、こんな私でも『教会の神父共』よりも私の方が優れてるんだよって事実を真正面からぶつけてやるくらいのやり返しは許されて然るべきだろう。
要するに。
「言ってしまえば、嫌いなんですよ。私は、神父共が」
そう言い切る。
私だって元は『聖女』なんて呼ばれていた人間ではあるけれど、それでも聖人じゃない。
一人の人間だ。
腹立つ事もあるし、怒り散らしたくもなる。泣きたくもなるし、悲しくもなる。
だから、自分の感情に従ってやり返しちゃだめだなんて道理は、何処にも無いわけで。
散っ々、蔑んでくれた『教会』連中。
それと、両親に可愛い復讐の機会があれば元々進んで拾いに向かうつもりだった。
その事については、具体的に話していたわけでは無いけれど、ルークさんには領民に迷惑をかけない範囲であれば好きに生きてくれていいと許可は既に貰っている。
そして偶々その機会が今であるだけの話で。
「猫の手も借りたい状況って事は、『教会』の人間を頼った事実が証明していますし……どうですか? 私を、引き込んではみませんか」
変なプライドを持ってる『教会』の連中には、こういう真正面からの悪気があるような、無いようなやり返しが特に効くって知っているからこそ、巡り巡ってランドブルグの為にも。
そして公爵家に貸しすら作れる機会。
ここまで条件が揃ってるこの状況を、逃そうとは思えなかったんだ。
……すぐ側で、ルークさんがめちゃくちゃ厳しい目線を向けてはいたけれども。それでも。
悲鳴のような叫び声だった。
盛大に表情を歪めて、魔物に気付かれるかもしれないという懸念も度外視にしてシュミッドさんは声を荒げていた。
「そもそも、神父共に兵を動かす権利は与えていなかったと思うが……?」
「……その、緊急事態であった事が災いし、背に腹はかえられないと翁が」
「にしてももっとマシな人選があっただろッ!? 最近じゃあ、〝変異種〟なんつーもんも出てきてんだぞ!? 神父共じゃ手に負えねえ事なんて明白だろうが!!」
その一言に、私も心底同意する。
たった一人の戦力を使って物事を解決するならばまだしも、神父はあくまで神父だ。
魔物を討伐する知識はあっても、兵を指揮する能力は皆無。大方、物量で押し潰そうと考えていたから手酷いしっぺ返しを受けたのだろう。
「……残しておいた兵は基本、防衛する為の兵だ。討伐に差し向けるには相性が悪過ぎるとガキでも分かる事だろうが……」
責任者は神父に反対を押し切られでもしたのか。言い包められたのか。
それは不明。でも、不味い状況である事は目の前で交わされる言葉を聞いていただけの私でも分かる事実であった。
「……で、隠居じじい共は何と?」
「……それはまだ何とも。まず、この事をシュミッド様にお伝えする事が先決であると急いで来た身でして」
「じゃあ、動けそうな兵は後どのくらいいた?」
「……恐らく、300といったところでしょうか」
「半分以上使えねえって事じゃねえか」
苛つく心境を隠そうともせず、矢継ぎ早に交わされる言葉の数々。
やがて場に沈黙が降り、黙考。
下唇を忌々しげに強く噛み締めるシュミッドさんであったけど、不意に顰めっ面だった表情を緩ませ、仕方がなさそうに私達に向けて笑った。
それが意図する事は詰まるところ、申し訳ないという意を含んだ謝罪の前兆。
「悪ぃな、ルーク。ちょいと用事が出来ちまった。だからその〝卵〟はまた今度って事にしといてくれ」
急いで戻らなくてはいけなくなった。
だから、〝卵〟は荷物になるから持ってはいけない。もしくは、兵が減ってしまった現状では、魔物を引き寄せる特性を持つ〝卵〟は手元に置いておくべきではないと判断したのか。
兎にも角にも、〝卵〟は一度持ち帰る必要がありそうだった。
「……まぁ、オレは別になんだって構いはしないが」
————大丈夫なのか。
と、明確な言葉にこそされなかったけど、ルークさんはシュミッドさんにそう言ってるんだと思った。
互いの立場が邪魔をしているのか。
明確な言葉に変えないところが、ルークさんに今出来る最大の気遣いだったのかもしれない。
「ま、なんとかなんだろ。こればっかりは手ぇ借りた俺らが愚かだったとしか言いようがねえ。取り返しの付かない致命的なミスでないだけ良しとするさ」
起きてしまった事は仕方がない。
そう割り切るべきと考えているのか、シュミッドさんの切り替えは早かった。
ただ————。
「あの、メルセデス公爵領って、ランドブルグのすぐ側なんですよね?」
ルークさんとシュミッドさんの会話に割り込むように私は言葉を紡ぐ。
世界の地図なんて朧げにしか頭に入ってなかったから、先程のルークさんの言葉を思い出しながら問い掛ける。
「そう、だが?」
それがどうしたのだと語尾を疑問系にするシュミッドさんであったが、幾ら森を挟んでいるとはいえ、隣接しているのであれば、先の会話もきっと他人事じゃなくなってくる。
だから。
「じゃあ、魔物が発生してる場所ってここから近いですかね」
それは、ルークさんであれば口が裂けても聞く事は出来ない質問。
なにせこの言葉は、言い換えればメルセデス公爵家が魔物を対処し切れなかった場合、ランドブルグに流れてくる可能性があるよねと聞いているようなものであるから。
向こうが助けを乞うてない状態でのこの一言は、言ってしまえば信頼をしていないと相手に突きつけているようなもの。だからこれは、ランドブルグに来たばかりで、シュミッドさんとも少し前に初対面だった私だからこそ辛うじて言える不躾でしかない言葉であった。
やがて、シュミッドさんの視線がどうなんだと言わんばかりに、伝令役と思しき彼に向かう。ルークさんの表情は若干強張ってはいたけど、シュミッドさんは気にしていないようで、確かに、そりゃ当然の疑問だわなと小さく笑ってすらいた。
「……近くはありませんが、遠くもない、といったところでしょうか」
回答に悩む答えであった。
でも、それであればなんとか私の我儘も通りそうではあった。
「なら、丁度いいですね」
————何が丁度いいんだ。
他の人達の胸中がぴたりと一致したであろう瞬間であったけど、それに構わず、声に変えて問い掛けられるより先に私は言葉を続けた。
「怪我人に、『教会』の神父。さらには魔物。それだけ条件が揃ってるなら、折角の良い機会なんで、そこに私も連れて行ってくれませんか」
それはあまりに頓狂な一言だった。
表情に笑顔を貼り付けながら、告げた私のその一言は、良い意味でも、悪い意味でもその場にいた人達の度肝を抜く事になった。
でもきっと、この条件下であれば、私という存在が対処に誰よりも適任だと思う。
……ただ。
「…………ん」
私の一言に対して、何を言ってるんだコイツ。と言わんばかりの表情を浮かべながら驚いていたシュミッドさんであったけれど、それも刹那。
少しばかり唸りながら冗談を言っているような様子では無い私の瞳を見詰め返した後、ややあってから値踏みするような言葉が返ってくる。
「どうしてだ?」
目の前にいるのは、無茶と思われようと平気でそれを敢行してしまう無鉄砲。
という印象を私に対して抱きつつあるルークさんではなく、会ったばかりのシュミッドさんだ。
向けられる瞳から受け取れる印象は、少し変わった魔法を使う観察対象から、若干、得体が知れないものを見るようなモノに変わっていた。
そして、こういう手合いには隠し事はせず、どんな理由であろうと後腐れなくぶちまけてしまうのが吉と、それなりに長い人生経験が私に教えてくれている。
故に。
「そう、ですね。なんでだって聞かれると理由なんて沢山あるんですけど、あえて一つ、答えるとすれば……ざっまぁぁぁぁぁあ!! って言いたいから、ですかね?」
貴族令嬢らしさなんてこれっぽっちの惜しさも感じる事なく投げ捨てながら、溜まりに溜まった鬱憤を晴らすように、私は大声を上げた。
そして去来する記憶の数々。私自身の経験。
私自身、両親からはかなり杜撰な扱いを受けていたけれど、実は『聖女』が絡むようになってから比較対象やらに私を使うのが一番都合が良かったのか。『教会』の連中からもボロッカス言われていた。それはもう、よく自殺しなかったなって自分を褒めたくなるようなレベルで。
前世の頃の記憶も相まってか。
『教会』に対する印象はいっぺんの揺らぎすらもなく底部を這っている状態だ。
そんな私が、散々馬鹿にしてくれていた対象に、こんな私でも『教会の神父共』よりも私の方が優れてるんだよって事実を真正面からぶつけてやるくらいのやり返しは許されて然るべきだろう。
要するに。
「言ってしまえば、嫌いなんですよ。私は、神父共が」
そう言い切る。
私だって元は『聖女』なんて呼ばれていた人間ではあるけれど、それでも聖人じゃない。
一人の人間だ。
腹立つ事もあるし、怒り散らしたくもなる。泣きたくもなるし、悲しくもなる。
だから、自分の感情に従ってやり返しちゃだめだなんて道理は、何処にも無いわけで。
散っ々、蔑んでくれた『教会』連中。
それと、両親に可愛い復讐の機会があれば元々進んで拾いに向かうつもりだった。
その事については、具体的に話していたわけでは無いけれど、ルークさんには領民に迷惑をかけない範囲であれば好きに生きてくれていいと許可は既に貰っている。
そして偶々その機会が今であるだけの話で。
「猫の手も借りたい状況って事は、『教会』の人間を頼った事実が証明していますし……どうですか? 私を、引き込んではみませんか」
変なプライドを持ってる『教会』の連中には、こういう真正面からの悪気があるような、無いようなやり返しが特に効くって知っているからこそ、巡り巡ってランドブルグの為にも。
そして公爵家に貸しすら作れる機会。
ここまで条件が揃ってるこの状況を、逃そうとは思えなかったんだ。
……すぐ側で、ルークさんがめちゃくちゃ厳しい目線を向けてはいたけれども。それでも。
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