偽者の聖女として追放された私は、精霊師として隣国の公爵閣下と幸せな第二の人生を送る事にしました

アルト

文字の大きさ
3 / 3

三話

しおりを挟む
* * * *

「単刀直入に言おう。ヴェザリア公爵家に、身を寄せる気はないか」
「ヴェザリア公爵家に、ですか」
「というより、うちの国————アルザークに来ないか?」

 公爵家に身を寄せる。
 と、ヨシュアさんが発言した際に、少しばかり私が難しい表情を浮かべたからか。
 彼はそう言い直していた。

「アルザークは〝精霊〟に対して理解がある。というより、今の王子殿下が〝精霊師〟なんだ」
「それは……珍しいですね」

 この国では、〝精霊師〟と呼べるような人間は私を除いて全くと言っていいほど出会う事はなかった。
 だから、余計に珍しいと思ってしまう。

「きっと、この国よりもずっと過ごしやすいと思う」

 その通りだと思った。
 国のトップに限りなく近い人が〝精霊師〟であるならば、〝精霊〟に対する偏見はないだろう。

 ただ。

「……でも、お気持ちだけ受け取っておきます」

 笑みながら、私は彼のその申し出を、昔と同様に辞退しようと試みる。

「何故、と聞いても?」
「これは、私の問題ですから。申し出は本当に嬉しかったんですけど、厄介ごとをこうして抱え込んでしまってるのに、ヨシュアさんまで巻き込むわけにはいきませんから」

 国外追放されました。
 はい、おしまい。

 であるならば、良いのだが、本当にこれで全部綺麗さっぱり終わりとも限らないし、もしかすると嫌がらせもあるやもしれない。
 そう考えると、やはりその厚意に甘えるべきではないだろう。

 考えを纏めながら、固辞する私を内心を見抜いてか。
 側にいたソフィスは、『あっきれた』と言わんばかりに溜息をついていた。
 でも、エストのそういうところが私は好きなんだけども。
 という言葉が続き、つい頰が緩んでしまう。

 そして。

「なら、問題はないな、、、、、、
「……はい?」

 まるで、先の私の返事を度外視するような発言が聞こえてきた。
 だから、聞き間違えたのかなって思って素っ頓狂な声を上げてしまう。

「その程度は、俺は迷惑と思わない。そもそも、俺は貴女に一度命を救われてる。その恩返しなんだ。最低でもそのくらいはさせて貰わないと、とてもじゃないがつり合わない」
「…………」
「あの時のように、無責任な事をしたくないと言われればそれまでだったが、此方の心配であるならば問題はない。その程度は、迷惑とすら思ってないからな」

 あっけらかんとした様子で、ヨシュアさんは私に向かってそう口にする。
 でも、私自身はあの時、自分ができる事をしただけだし、〝精霊〟に力を貸して貰っただけ。
 その認識が強いせいか。
 安易に頷く事は出来なくて。

「あの時の事、エストさんは覚えてるか」

 あの時、とはきっと私が彼の病を治したあの日の事なのだろう。

「俺、優秀な治癒師は勿論、精霊師も誰も彼もに無理って匙を投げられてたんだ」

 他国の人間がお忍びで『聖女』と呼ばれていた私を一縷の望みとして頼ってきたのだ。
 だから、出来る事は全てした後だったのだろうという事はすぐに想像がついた。

「で、この国にやって来て。それで、また無理って言われて、諦めたところに……貴女が来てくれた」
「ぇ、と、その、すみません」
「いや、責めたいわけじゃないんだ。あの時の対応が仕方がなかった事くらい、現状を見れば一目瞭然だ。あの時のエストさんの対応に、何一つとして瑕疵はなかった」

 そのくらい、王太子様と私の関係は昔からお世辞にも良いとは言えないものであった。

「そして、そのお陰でこうして今も俺は生きてる。貴女のお陰だ」

 ヨシュアさんが、歯を見せて笑う。
 屈託のない正真正銘の笑顔であった。

「だからこそ、俺は貴女に恩を返したい。それに、あまり良い言い方ではないが、これもいい機会だと思うけどな」
「いい機会、ですか」
「ああ。これまで、『聖女』としてこの国に貴女が尽くしていた事は知ってる。けれど、そのせいで自分の時間ってやつは全くなかっただろう?」

 その一言を、私は否定出来なかった。

 『聖女』として選ばれたからには責任を持ってやる。本当に、ただそれだけであったから。

「これを機に、自由気ままに生きてみるのも良いと、俺は思うけどな」
「自由、気まま……」

 言葉を反芻する。

「世界には色んな生き方がある。色んなものがある。貴方のお陰でこうして楽しく生きられている俺だからこそ、エストさんにも楽しく生きて欲しいって、そう思うんだ」
「…………」
「『あら、珍しい。エストが照れてる』」
「ぅ、うるさいな」

 ヨシュアさんからの言葉に面食らって、思考が停止する私であったが、会話に割り込んできたソフィスのおかげで我に返る。

 ……ただ、純粋に私の事を考えて貰った機会というのは殆どないからか。
 そこに未だ引っ張られて、上手いこと思考が働いていない気しかしなかった。

 でも、『聖女』としての私が追い出されてしまった以上、ヨシュアさんの言うように、これを機に自由気ままに生きるのもありかもしれない。
 気付けば、そう思う自分が頭の中に存在していた。

「『良いんじゃないの? そういう生き方をしても。誰もエストを責めやしないわよ』」

 その思考を見抜かれ、側にいたソフィスからも背中を押されてしまう。

 そして、数秒の沈黙を経たのち。

「……えと、あの……お言葉に甘えさせて貰ってもいいでしょうか」
「ああ、それはもちろん」

 一度断っておきながら、不躾でしかないけれど。

 語尾にそんな言葉を付け足そうか悩んだが、付け足す前にヨシュアさんからの返事がやってくる。

 ……本当に、義理堅い人だなあ。

 十年近く前に抱いた感想とちっとも変わらない印象をヨシュアさんから感じながら、私はアルザークへと向かう事となった。

 ただ、その心境は、少し前よりもずっと晴れやかなものに変わっていて。

 自由気ままに生きてみるのも、悪くない気がする。
 そんな考えで私の心の中は埋め尽くされていた。だからか。

「『しかし、あの小僧も馬鹿な事をしたわね。よりにもよって、エストを追放するだなんて。複数の〝精霊〟から愛されてる上、エストの場合は精霊王あたしの助力を受けられる希少過ぎる人間なのに』」

 ソフィスの独り言をうまく聞き取れなかった。

「……? ソフィス、何か言った?」
「『いーえ。なーんにも。ただ、あの王子が愚かだなあって思っただけ。これだけ〝精霊〟に愛された人間もいないのに。ま、くだらない理由で追い出したのだから、多少の痛い目は見て貰うけど』」
「物騒な事はやめてね、ソフィス」

 何やら、物騒な呟きを漏らすものだから一応釘を刺しておく。

「『もちろん。あたしはただ、もう手を貸してはあげないってだけ。それよりも、行くと決めたからには早く支度をするわよエスト』」

 ソフィスのその言葉が、遠くない未来。
 この国がちょっとばかし大変なことになる予知めいたものであったと私が知るのは少し後の話である。



———————

あとがき

小説家になろうでも同タイトルで投稿してますー!そちらもよろしくお願いいたしますっ!
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

断罪現場に遭遇したので悪役令嬢を擁護してみました

ララ
恋愛
3話完結です。 大好きなゲーム世界のモブですらない人に転生した主人公。 それでも直接この目でゲームの世界を見たくてゲームの舞台に留学する。 そこで見たのはまさにゲームの世界。 主人公も攻略対象も悪役令嬢も揃っている。 そしてゲームは終盤へ。 最後のイベントといえば断罪。 悪役令嬢が断罪されてハッピーエンド。 でもおかしいじゃない? このゲームは悪役令嬢が大したこともしていないのに断罪されてしまう。 ゲームとしてなら多少無理のある設定でも楽しめたけど現実でもこうなるとねぇ。 納得いかない。 それなら私が悪役令嬢を擁護してもいいかしら?

処理中です...