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突然の告白、そして

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 時を同じくして、廃工場の外。

 待機中の車内に驚きと苛立ちを含んだ声が三人分、ぴったり重なり響き合う。

「「「は?」」」

 緑、赤、黄、三人仲良く丸くなり、続けて三角にした瞳でモニターに映る天音と青岩を食い入るように見つめている。

 下手したら車内から飛び出して行きそうな、ドロドロした雰囲気を漂わせている彼らを尻目に、白衣の裾をひらひら揺らしながら博士がぐっと拳を握った。

「やっるぅ青岩クン! いいねぇ、いいよぉ二人共ガンガン上がってるねぇー感情値! これはすんごいのが来ちゃうかもよ! ねぇセンセ」

「……ああ」

 博士の隣で右肩上がりに伸びていくグラフを眺めていた黒野。気怠げに紫の瞳を細めていた彼の眉間に刻まれているシワが人知れず深くなる。いかにも不満だとでも言いたげに。



 何で? どうして? と疑問が回るものの身体は正直だった。正直過ぎた。全力疾走した後かのように鼓動が全身に響き、頬が勝手に緩んでしまう。

「え、ちょ……青岩さ」

「名前で呼んでくれないかい? 答えも……今の君の素直な気持ちを聞かせて欲しい」

 迷子みたいな寂しい声で強請るように囁かれ、熱のこもった瞳で縋るように見つめられる。十分だった。すでに揺らぎまくっている気持ちが、ころんと甘い空気に飲まれてしまうには。

「……いや、それは、まぁ……好き、ですけど……俺も、アサギさんのこと……」

「そうか……嬉しいよ、レン君」

 溢れてしまいそうな喜びを湛えた唇がゆっくりと近づいてくる。拒む理由なんてある訳がなかった。

 柔らかい温度が触れて、吐息が混じる。スラリと伸びた背に腕を回すと重なっている部分がクスリと震えた。

 瞼の裏で青が輝く。閉じていても眩しく感じるほど激しいのに優しい光。

 俺達を包み込み、穏やかな波に揺蕩うような感覚をもたらしていた煌めきが収まった頃、青く輝く光の翼が俺を守るように広がっていた。

「……アサギさん」

「ありがとう、レン君。僕の想いに応えてくれて」

 軽々と俺を抱える長い腕は固い白銀の光沢を纏っていた。

 ファンタジーな騎士を思わせる鎧と、ふわりと靡く真っ青なマント。洗練された装飾が彩る胸当ての中心で、星型多角形のペンダントがサファイアのように気高く煌めいていた。

「……もしかして、この為に?」

「一石二鳥、いや三鳥だろう? 変身出来て、君に名前を呼んでもらえて、好きだと言ってもらえて」

 なんて策士だ。悪びれる気なんて全くないらしい。蕩けるような笑みを浮かべながら、頬にそっと口づけてくる。

「なんか、ズルい……」

「そんなのとっくに知っているだろう? お互い様なんだから……ね?」

「それは、まぁ……そうですけど」

 悔し紛れの一言も痛くも痒くもないみたいだ。きっと見透かされてるんだろう。結果、俺にとっても一石三鳥だったことなんて。

「奴らが持ち直したぞ! 油断するな天音! 青岩!」

 再び割って入ってきたのは赤木さんだった。心配してくれているからだろう。少し不機嫌そうというか、怒ってるように聞こえたのは。

 輝石の輝きに怯み、水溜りと化していた影達が再びぞぞぞと人型になっていく。俺達を仲間に引き入れようと闇にゆらりと揺らめく腕をいくつも伸ばしてくる。

「レン君」

「はい、アサギさん!」

 スッと伸ばした白銀の指先に集まっていく青い輝き。現れ、意志があるみたいに主の手に収まっていった身の丈程もある長い弓へ俺も手を伸ばす。

 迫りくる影に向かって青く煌めく矢を放とうと構える腕。白銀を纏う腕を支えるように触れた途端、全身の血が巡るように熱くなる。番えていた弓の輝きが強くなっていく。

「終わらせよう……僕達で」

「はいっ!」

 頷くと柔らかい笑みが深くなった。一緒に向き直り、放ったいくつもの青い光の線。蠢く黒に流星のように降り注いだ煌めきが、寂れた工場内を青く染めた。



 ……まだ晴れない。

 目に映る影は全部射抜いたハズなのに。不気味な黒いモヤはいまだに天井を、窓を覆い俺達の周囲で漂っている。

「これは……アサギさん」

「ああ、昨日と同じならばまだ何処かに潜んでいる筈だ。僕の側を離れないで」

「はいっ」

 幸いなことにアサギさんの変身はまだ解けていない。今の内に残りの影を倒さないと。

 庇うように抱き寄せてくれている彼に身を寄せたまま、周囲に目を配っていく。

「白花博士、そちらから残った敵の居場所が分かりませんか? ……博士?」

 頭上から俺達を見守るようにはためいてはいるものの、反応を示さない蝶。見てくれているであろう皆に俺も呼びかけようとした時だった。

「レン君!」

 押し飛ばされて、背を打った。打ったんだと思う。急に走った衝撃の名残が背中と腰の辺りにジンと残っている。

「ぐっ……うぅ……」

 疑問の声すら上げる間もなく、コンクリートの床に転がった俺の耳に聞き慣れぬ声が届いた。

「なんだ、この程度か……コレが神の守護者とは笑わせる」

 低くしゃがれた音だけでも不愉快なのに、嘲笑うような響きがますます耳に障る。

 ……誰だ? 何でこんな所に俺達以外の人が……どうして守護者のことを知って?

 這いつくばったままの身体がジクジク痛む。それでも無理矢理力を込め、上体を起こす。ひび割れた灰色の床ばかりの視界が切り替わり、飛び込んできた光景は受け入れ難いものだった。
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