奴隷少女は騎士となる

灰色の街。

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流れ落ちる血

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先輩達に強制的に部屋に返された後、来ていた服を浄化機という魔道具に放り込み、シャワーを浴びる。

自身に降り掛かる暖かいお湯。その温度を感じながら昔のことを思い返す。
奴隷時代、時々今日みたいなことをやらされた。向かってくるライバル商人の兵達を木にくくりつけ、延々と拷問を繰り返す。

時には泣いて懇願する人もいれば、ただ口をつぐみ痛みを我慢する人、あるいは拷問をしている私に向けて慈悲を向ける人もいた。
でも、どんな人でも最終的には黙って自身の死を受け入れていた。どの人も皆、芯のある強い人たちばかりだった。それでいて奴隷である私に優しかった。
夜、主が寝た後その人の元に行って見張りの番をしていると、皆優しい目をして、君のせいじゃないとか、寒いのに大丈夫?とか、色々声をかけてくれた。
そういう人をいざ殺す時、決まって殺した夜に、森でこっそり摘み取った花をたむけていた。涙は出なかったし、寂しさもなかった。ただ、罪悪感だけが残っていた。
でも、今日奴隷商人を拷問する時、罪悪感なんてこれっぽっちもなかった。あんな奴に罪悪感を感じる方がおかしいのだが、それを直に感じると、つくづく自分は狂っていないだろうか、まだ、正気でいられるだろうか。そんな不安が私を襲う。
こないだ、奴隷商人を殺しかけた時、あの時は正気では無かったのだろう。でも、あの時はまだ敵味方の分別が着いていたが、本当に狂った時、私はその分別が着くのだろうか。

今思うと、奴隷時代に私が狂わなかったのは奇跡なのだろう。
きっと今奴隷生活に戻ったら私は間違いなく狂う。
だってもう仲間の優しさを知っているから。大切な場所、大切な人が出来てしまったから。誰かを助け、誰かに助けられる。それがどれだけの幸福をもたらすか知ってしまったから。
私はもう、奴隷時代の私に戻れないのだろうな。いい意味では感情が豊かになり、悪い意味では外部の影響を受けやすくなった。

シャワー室から出て、布団の上でなにもせず目を閉じていると、ノックの音がした。
誰か分からないのでそっとドアを開くと、カリナンがいた。

「え?なんでカリナンがここに居るんですか?」

「休暇届を出したからね。それより今から気分転換に町にでも出掛けない?今は丁度お昼過ぎだし、いい気分転換になると思うよ」

「え、でも私、休暇届出してないですよ?」

「大丈夫!ここに来る途中、カール班長に会ったから言っておいたよ。楽しんで来いだってさ」

「…分かりました。準備するんで少し待っててください」

本来なら私は今ごろ地下牢に居る筈なのに。カール班長が許可を出した理由は分からないが、許可が出された以上、カリナンの誘いを断る理由はない。

町に行くのは本当に久し振りだし、いい気分転換になるといいな。
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