奴隷少女は騎士となる

灰色の街。

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グラード王国の事

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タクヤさんの言うことを纏めるとこんな感じだ。

まず、現在グラード王国は深刻な経済格差に悩まされている。原因は明らかで、庶民と貴族の差が激しいのだ。今まではある程度は庶民の暮らしが守られていたらしいが、三年程前に王様が代替わりして、そこからどんどん格差が広がっているらしい。

それにともない治安維持も困難になっているっぽい。元々、奴隷商人の取り締まりが緩いことで有名だったが、ここ最近は経済格差が広がっていることもあり庶民達のストレスが溜まり、暴動を起こすようになっているらしい。

一番の問題点は、これらに対して政府は殆ど動いていないことだ。今の政府は自分の保身の事ばかり考えていて、庶民が苦しんでいるにも関わらず対策をしない…どころか、労働時間の制限を解除したりとむちゃくちゃなことをしているらしい。

これには私達もびっくり。
まさかそこまで政治がボロボロになっているなんて思ってなかった。それに、話にはでてこなかったが、そこまで酷くなってるってことは…多分政治家は堕ちてる…政治汚職だ。

「…俺が知っているのはここまでです。あんまり知らなくて申し訳ないんですが…」

「いえ、だいぶ助かりました…よく逃げ出せましたね。そこまで腐っ…そこまでヤバイと監視とかされてると思うんですが…」

「それは…妻と、子供達が…囮になってくれて…自分達は逃げても速く走れないし、もし逃げだせれたとしても働ける場所なんてなくて飢え死にするだけだからって…っ、」

「…成る程…」

自分の身を犠牲にしてまでもタクヤさんのご家族はタクヤさんのことを愛してたのか…素敵な家族じゃないか…

「すみません、暗くしちゃって…」

「いえ、大丈夫です…質問したのは私ですから…むしろ、思い出させてしまってすみません」

…この人、これからどうなるんだろうな…
おそらくこの先は釈放されてこの国で過ごせるようになる。望めば働く場所も用意されるだろう。でも…この人の目を見ると…何ともいえない気分になる。

完全に死んでる目。生きる希望を失い、それでもただ生まれた時から私たち生き物に宿っている"死=恐怖"という本能に逆らえずにただただ生きているだけの目…私の、奴隷時代の目にそっくりだ。この人には、私と同じ考え方になって欲しくないな…

「…下を向いたっていい。過去を振り返ってもいい。立ち止まってもいい。悩んで苦しんで…自分を責めてもいい…責任から逃げ出してもいい。ただ生きていればいい…そんなこと言い出したのはどこの誰でしたっけ?」

「え…」

中身は空っぽでただ心臓が動いているだけの生物だなんて…その存在を社会は許さないだろう。生きているだけで許される…そんな世界、存在しない。
あるのは厳しい現実、厳しい世界…それだけ…そんな世界に嫌気がさして自ら死を選ぶ人も大量にいる。そして、タクヤさんも…

「死にたいんですよね?」

「!!」

「家族を間接的に殺してしまったと、後悔しているんですよね?後悔して…その罪悪感から、自己嫌悪感から逃れるには…死と言う救済を受けとるしかないのだと…そう思ってるんじゃないですか」

「なんで…なにがわかってそんな発言を…!」

「……」

「家族が死んだことには変わりないだろ!家族が生きてくれるだけで俺は幸せだったのに…その家族が死んだら俺は…どうすればいいんだよ」

「…家族がいない私が語れることなんて何もないですよ」

「…家族、いないのか…?」

「まあ、私が物心つく時にはもう居ませんでしたね」

「……」

「まあ、その家族の事を覚えていられるのは貴方しかいないんですから…少しぐらいは、残っててもいいと思いますけどね…ま、どうしてもと言うなから止めませんが」

私は…人の生死を決めれるほど偉くない。
その人が死ぬと決めたなら私は止めないし、心からの感謝とお疲れ様を伝える。
だって、もし私が誰かが死のうとしているのを止めて、その人がさらに壊れてしまったら?私は責任なんて取れない。
その人の環境ごと変えたとしても、過去は変えられないし、一度強く抱いてしまった気持ちは根本を直したとしてもそう簡単に消えるものではない。

もしその人を助けても、その人の気持ちがずっと変わらずにいるのなら…私はその人に生き地獄を提供したことになる…
私たちのような知性や理性がある生物は…生きることだけが正義ではない。時には死と言う救済が必要な時もある。
勿論、生きることを否定しているわけではない。そういう選択もあると言うだけ。
そして、その選択を選ぶ権利は誰にでもあって、自分の価値観を強引に押し付けてその人の選択を否定することは…すべきじゃないってこと。

まあこの考え方はマイノリティーな考え方だから、変な目で見られるかもしれないけど…結局、他人の命に干渉できるほど私達は偉くないってことがわかればそれでいい。

「結局は自分意志で決めなければ意味がないですから…他人に生かされるだけだなんて、そんなことになるんだったら私は死んだ方がましだと思いますね…まあ、じっくり考えてくださいな…そんなすぐに実行することでもないと思いますよ」

俯いて顔を上げないタクヤさんに一言だけ言って部屋を出る。先輩達もついてくるが何も言わない。ドア付近に立ってた人に敬礼だけして、廊下を歩く。

普段は軽口を言い合っている先輩達が黙ってると少し気まずいな…なんて思いながら元いた部屋に足を向けた。
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