奴隷少女は騎士となる

灰色の街。

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難儀 カールside

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ライはこういう奴だったな
報告を受けて真っ先に思ったのはそれだった。

確かにおかしいなとは思った。普段時間はきっちり守る。最初の頃とは違い最近は慣れてきて集合の時には一番に来る。遅刻なんて持っての他でルールも絶対厳守。そんなライが寮の夕食の時間に遅れる…ましてや帰ってきたのが深夜の二時近くだなんてあり得るのか?

疑問に思いはしたがライだって生き物だ。やらかす時はやらかす。今回のことはきちんと反省して次回にいかせばいいと思っていたし、ライの態度からして十分反省してそうだったからいいと思ってた。

だから報告を受けた時は腑に落ちたし、それと同時に少し後悔した。どうして言わなかったんだとか、どうして捜索中に頼ってくれなかったんだとかは思わない。

そりゃちょっとは思ったが捜索中連絡をもらったからといいすぐに動ける人材は限られてる。ライの身体能力や考えを読んだ上で行動できる人は尚更いないだろう。出来るのは第一班の中の獣人や魔族ぐらいだ。たださえ人手不足なのにすぐに動ける奴はいないだろう。

今朝軽く注意した時に言わなかったのも何となく察せれる。
ライは自分が帰るのが遅れた理由をあの少女とその母親のせいにしたくなかったのだろう。ライのことだから遅れたのは自分のせいだと思って少女と母親を庇ったのだろう…別に俺からしたらそれで遅れるのは正当な理由だとは思うのだが。

まあだから俺は別に言わなかったこととか頼ってくれなかったことに悲しさとかは感じない。ただライの性格は少し面倒臭いってことを失念していたなとは思ったし少し後悔もした。

面倒臭いというのは貶してる訳ではない。ただ俺らみたく実際に接してる人からしてめっちゃ思考が読めないというだけだ。
俺ら第一班長からして相手の気持ちを読むというのは非常に重要。交渉の時とかだけでなく、尋問の時や作戦会議の仲間の反応などから様々な人の気持ちを読んでいかないといけない。

その点ライはめっちゃ思考が読みにくい。最近少しずつわかってきたとはいえ根本的思考…ライの考え方の軸になっているいわば信念とかが全くわからない。
それと伴ってライの人格とか性格が未だに謎な部分があって…何と言うかよくわからない奴なんだよな、ライは。だからと言って信用してないかと言われればそれはまた違う問題なのだが…まあ背中に怪我負っていると気付いた時は怒りも湧いたがな!

そんなわけでライの思考はよくわからない。簡単に読める時は簡単なのだが…普段、日常の何気ない会話とかだと全然わからない。
だから今回、ライの反省具合からしてライの不注意なのかと思ってた。事件に巻き込まれたわけでもなくただライが時間を忘れてはしゃぎ過ぎたのかと思っていた…それにしては帰るの遅すぎだとは思ったが。

ライはきっと自分の思考が俺らにとって読みにくいことを理解してる。その上で言わなかったのだから本気で隠すつもりでいたのだろう。案の定俺は報告を受けるまでわからなかったし、報告を受けなければ知ることなどなかったのだろう。

ライの報告を受けた後、執務室につくとニヤニヤしながら見てくる同僚の姿が。何も言わず見てくる同僚…もとい第三班班長のラインハルトと第五班班長のラズに不思議と怒りがわいて手刀を額に降ろす。

「うわっ…っぶね!」

「…何するんですか」

危なげなく避けながら態とらしく質問してくる二人。殴りかかりたくなる衝動を押さえながら質問する。きっと俺の額には青筋が浮かんでいるのだろう。部下には絶対見せられない光景だ。

「何の用だ。まだ執務の時間中の筈だろ。暇なら訓練の指導でもしてきたらどうだ」

「いや~お宅の班員さんの一人が?少女を一人助けたと聞いて?」

「別にからかいに来た訳ではありませんよ…ラインハルトは知りませんが。勝手についてきただけで」

「だってラズがカールんとこ行くなんて中々ないだろ?一人だと尚更。さぞ面白い報告が聞けるんじゃないかってな」

「報告に面白さを求めるな…で?報告ってのは?」

「ああ…別に重要報告って訳ではありませんが…少女の母親、捜索願出してなかったっぽいんですよね」

「「…へぇ」」

「どこ情報だそれ。ライは何も言ってなかったけど」

「広場から少し離れた所にテントを構えてる商人からです…一応情報網の広さが取り柄ですから…ライが言っていなかったのは特に必要ないと判断したからでは?」

「それでも報告はして欲しかったんだがな…」

「まあライは最初キーカルとかに報連相しろってめっちゃ言われてたしな…報告するって習慣があんまなかったんじゃねぇの?…騎士団には案外そういう奴ばっかだぜ?」

「確かにそうですね…意外と毎年半分ぐらいはそういう人達ですし…何もライが特別報告をしないと言うわけではないと思いますよ」

「それはわかってるんだが…やっぱ報告が第一班は重要になってくるからな…」

「「それはそう/そうですね」」

「…で?ラズはその情報についてどう思う?」

「直接会ってみないとわかりませんが…黒い部分はあるかと」

「やっぱそうか…ライには悪いが少し調査が必要かもな…」

案外心優しいライのことだ…これを伝えたらきっと悲しむだろうが…世の中にはこういうこともあるってことも伝えないといけない…それが大人の役目ってもんだよな。まあ今すぐに伝える訳じゃない。白黒つくまでは伝える必要はないだろう。
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