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ハーベノム編
貴方が辛い時は教えて欲しいわ
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アンナは長く寝過ぎたせいか、まだ頭がぼんやりしてベッドの上に座っていた。立ち上がるのも億劫に感じて、次に会いに行こうとしている悪役のことを考えていると、部屋のドアを叩く規則正しいノックの音が聞こえてきた。アンナが返事をすると、部屋にロキが入ってきた。
「起きたんだな。体調はどうだ?」
「平気よ。随分魔力も回復したわ。
あれからどのくらい時間が経ったのかしら?」
「昨晩から寝ていてもう日が暮れたから……約1日だな。」
「そんなに寝てたのね。」
今までモンスターと戦うことはあったし、魔法を使うのは日常的なことだったけれど、ここまで魔力を使ったのは初めてのことだった。
「何か要るものはあるか?」
ロキは優しい声でアンナに尋ねてきた。きっと、なかなか目覚めないアンナのことをずっと心配してくれていたのだろう。
今のアンナは前世の人格と本来の人格が混ざってできている。本来のアンナの人格が残っている以上、昔の夢を見て、レイゼルトのことを思い出せば気持ちは沈む。それでもこんな時、そばに誰かがいてくれることに救われる思いがした。
「大丈夫よ。
ロキ、ありがとう。ルーハドルツでは一緒に戦ってくれて。」
「いや、こちらこそ。長らく誰かと一緒に強敵と戦うことなんてなかったから、懐かしかったよ。昔の仲間を思い出した。」
時々、ロキの紫の瞳の中に泣き出しそうな哀しい色が宿ることがある。それを見るとアンナは胸が締め付けられる気持ちがするのだ。これまで抱いたことのない感情。少しでもロキの痛みが和らぐように、手を伸ばして触れてみたくなるような、そんな感情を抱くのだ。
「……ロキ、貴方の優しさに私は助けられているのよ。だから貴方が辛い時は教えて欲しいわ。力になりたいの。」
レイゼルトには似たようなことを気軽に言えたけれど、ロキに言うのは緊張する。それでもどうしても伝えたくてアンナはそう言った。
ロキは驚いたような、困ったような顔をした。言うべきではないことを言ったのかもしれないと、アンナはすぐに後悔した。
「ありがとう。僕は大丈夫だから。
……邪魔して悪かった。ゆっくり休んで。」
アンナが寝ている間に何かあったのだろうか。あまりロキの元気がないような気がして、アンナは部屋を出て行くロキの背中をじっと見つめていた。
流石に空腹を感じて、アンナは何か食べようとダイニングに行った。
パンと残っていた野菜で作ったサラダを食べ終えたところで、カルムが部屋から出てきた。
「起きたんだね。もう大丈夫なのかい?」
カルムは制服を着ておらず、バスローブのような服を着ている。色っぽい、とはこういう時に使う言葉なのだとアンナは思った。
「ええ。」
目のやり場に困って、俯いてアンナは答えた。カルムがこちらに近づいてきて、首に違和感を感じて触ると、リボンがなくなっていた。
「カルム!」
「数が増えてるね。」
何のことかと思ったが、カルムの視線が自分の首に向いているのをみて理解した。
「不気味なほどに全く魔力が漏れ出してはいないけれど、その印を付けたのはとても強い魔術師だろう?それ、誰の魔法なの?」
アンナの首の黒い薔薇の模様を数えるように触れながら、カルムは尋ねてくる。
「……言えないわ。」
ロキには言われたことがないけれど、流石に魔術師とあってこの手のことにカルムは鋭い。
「どうしたら教えてくれる?」
カルムに本当のことを話したらアンナに味方してくれなくなるかもしれない。
「……どうしても教えられないの。時が来たらきちんと話すから。」
そう、と言ってカルムはそれ以上追求してこなかった。
「あの、カルムお願いがあるの。」
「お願い?」
「私、今回の戦いで力不足を実感したわ。私に魔法の稽古をつけて欲しいの。」
「……いいけど。」
頬に手を添えられて顔を持ち上げられた。
「お礼は身体で払ってくれるの?」
カルムは蠱惑的な笑みを浮かべている。アンナの胸の鼓動が速くなる。
頼み事をする以上、見返りを求められることは予想していた。そしてカルムならそういった形で報酬を求めてくることも。
レイゼルトを倒すためなら仕方がない。覚悟を決めてアンナが口を開こうとすると、カルムが笑い始めた。
「ごめん、本気にした?」
「…………!本当に焦るからその手の冗談はやめてよ!」
貴方が言うと冗談に聞こえないのよ、とアンナは心の中で言った。
カルムはもう一度謝ってから笑みを収めると、アンナの髪を一房掴んで尋ねてきた。
「僕に触られるのは、嫌?」
「……。カルム、貴方がそういう年頃だってことは理解してるから外に行って合意の上でしてくるならいいのよ?」
「つれないなぁ。僕は君がいいって言ってるのに。」
カルムは熱っぽい視線を投げてくるがアンナは目を逸らす。
「悪いけど諦めてちょうだい。私はそんなことより優先すべきことがある。
今よりも強くなって、どうしても殺さなきゃいけない相手がいるの。」
「……いいよ。君は真っ直ぐにその男を見据えていればいい。でも君に僕の気持ちを否定する権利もない。」
カルムは掴んだ髪に口づけを落とした。
「ちょっと!カルム!」
「可愛いね。アンナ。
修行の件は了解したよ。」
アンナの頭をサラリと撫でてから、カルムは部屋に戻っていった。
「起きたんだな。体調はどうだ?」
「平気よ。随分魔力も回復したわ。
あれからどのくらい時間が経ったのかしら?」
「昨晩から寝ていてもう日が暮れたから……約1日だな。」
「そんなに寝てたのね。」
今までモンスターと戦うことはあったし、魔法を使うのは日常的なことだったけれど、ここまで魔力を使ったのは初めてのことだった。
「何か要るものはあるか?」
ロキは優しい声でアンナに尋ねてきた。きっと、なかなか目覚めないアンナのことをずっと心配してくれていたのだろう。
今のアンナは前世の人格と本来の人格が混ざってできている。本来のアンナの人格が残っている以上、昔の夢を見て、レイゼルトのことを思い出せば気持ちは沈む。それでもこんな時、そばに誰かがいてくれることに救われる思いがした。
「大丈夫よ。
ロキ、ありがとう。ルーハドルツでは一緒に戦ってくれて。」
「いや、こちらこそ。長らく誰かと一緒に強敵と戦うことなんてなかったから、懐かしかったよ。昔の仲間を思い出した。」
時々、ロキの紫の瞳の中に泣き出しそうな哀しい色が宿ることがある。それを見るとアンナは胸が締め付けられる気持ちがするのだ。これまで抱いたことのない感情。少しでもロキの痛みが和らぐように、手を伸ばして触れてみたくなるような、そんな感情を抱くのだ。
「……ロキ、貴方の優しさに私は助けられているのよ。だから貴方が辛い時は教えて欲しいわ。力になりたいの。」
レイゼルトには似たようなことを気軽に言えたけれど、ロキに言うのは緊張する。それでもどうしても伝えたくてアンナはそう言った。
ロキは驚いたような、困ったような顔をした。言うべきではないことを言ったのかもしれないと、アンナはすぐに後悔した。
「ありがとう。僕は大丈夫だから。
……邪魔して悪かった。ゆっくり休んで。」
アンナが寝ている間に何かあったのだろうか。あまりロキの元気がないような気がして、アンナは部屋を出て行くロキの背中をじっと見つめていた。
流石に空腹を感じて、アンナは何か食べようとダイニングに行った。
パンと残っていた野菜で作ったサラダを食べ終えたところで、カルムが部屋から出てきた。
「起きたんだね。もう大丈夫なのかい?」
カルムは制服を着ておらず、バスローブのような服を着ている。色っぽい、とはこういう時に使う言葉なのだとアンナは思った。
「ええ。」
目のやり場に困って、俯いてアンナは答えた。カルムがこちらに近づいてきて、首に違和感を感じて触ると、リボンがなくなっていた。
「カルム!」
「数が増えてるね。」
何のことかと思ったが、カルムの視線が自分の首に向いているのをみて理解した。
「不気味なほどに全く魔力が漏れ出してはいないけれど、その印を付けたのはとても強い魔術師だろう?それ、誰の魔法なの?」
アンナの首の黒い薔薇の模様を数えるように触れながら、カルムは尋ねてくる。
「……言えないわ。」
ロキには言われたことがないけれど、流石に魔術師とあってこの手のことにカルムは鋭い。
「どうしたら教えてくれる?」
カルムに本当のことを話したらアンナに味方してくれなくなるかもしれない。
「……どうしても教えられないの。時が来たらきちんと話すから。」
そう、と言ってカルムはそれ以上追求してこなかった。
「あの、カルムお願いがあるの。」
「お願い?」
「私、今回の戦いで力不足を実感したわ。私に魔法の稽古をつけて欲しいの。」
「……いいけど。」
頬に手を添えられて顔を持ち上げられた。
「お礼は身体で払ってくれるの?」
カルムは蠱惑的な笑みを浮かべている。アンナの胸の鼓動が速くなる。
頼み事をする以上、見返りを求められることは予想していた。そしてカルムならそういった形で報酬を求めてくることも。
レイゼルトを倒すためなら仕方がない。覚悟を決めてアンナが口を開こうとすると、カルムが笑い始めた。
「ごめん、本気にした?」
「…………!本当に焦るからその手の冗談はやめてよ!」
貴方が言うと冗談に聞こえないのよ、とアンナは心の中で言った。
カルムはもう一度謝ってから笑みを収めると、アンナの髪を一房掴んで尋ねてきた。
「僕に触られるのは、嫌?」
「……。カルム、貴方がそういう年頃だってことは理解してるから外に行って合意の上でしてくるならいいのよ?」
「つれないなぁ。僕は君がいいって言ってるのに。」
カルムは熱っぽい視線を投げてくるがアンナは目を逸らす。
「悪いけど諦めてちょうだい。私はそんなことより優先すべきことがある。
今よりも強くなって、どうしても殺さなきゃいけない相手がいるの。」
「……いいよ。君は真っ直ぐにその男を見据えていればいい。でも君に僕の気持ちを否定する権利もない。」
カルムは掴んだ髪に口づけを落とした。
「ちょっと!カルム!」
「可愛いね。アンナ。
修行の件は了解したよ。」
アンナの頭をサラリと撫でてから、カルムは部屋に戻っていった。
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