【完結】数学教員の 高尾 さん

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番外編 楓から見た元の話②

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その日は歳上の兄と二人で暮らしているマンションに戻ると倒れ込むようにしてベッドに横になった。
熱が上がってきた気がする。
でもせめて、身体は濡れタオルで拭きたい。ハァ、ハァ、と荒くなってきた呼吸に耐えながら覚束ない手つきで制服を脱ぎ始めた。
その時、制服の学ランの胸ポケットからコロン、とあの包み紙に入ったアーモンドチョコレートが床に落ちたのである。

何故かあの塾の教室で食べるのはもったいない気がして、胸ポケットにそっと入れ持ち帰ったのだ。
俺は少し震える手でその包み紙を開くと、出てきたチョコレートをポイッと口に放り投げた。

飲み物を飲んでいない口の中でねっとりとチョコレートが溶けていく。
体温が高いからか、すぐ中身のアーモンドが舌の上に転がった。そのアーモンドを優しくカリッと噛むと香ばしい味が口の中に広がる。


「あの人はどんな味がするのかな。」


兄もいないシーンと静まり返った部屋の中で誰に聞かせるわけでもなく俺の口から溢れた言葉だった。


「俺、あの人のこと好きなんだ。」


至極当然のことのようにそうハッキリと確信した。


俺にはあの人しかいないんだ。
あの人は俺だけの恋人ものなんだ。


それが頭の中一帯に広がると、荒くなっていた呼吸が治ったように思えて、俺は身体を拭いた後、穏やかな気持ちで眠りにつけたのだった。





その後の俺は四六時中、その彼、つまり元のことばかり考えるようになった。

今何しているんだろう。

甘いものが好きなのかな。

どこで暮らしているんだろう。


そんなことばかり頭に浮かぶ。
あのアーモンドチョコレートのお返しに、と元の靴箱に少し高級ないちご味のチョコレートを置いた。
元にバレないように、こっそり階段の影からその様子をうかがっていると、授業を終えて私服に着替えた元が靴箱にやってきた。

季節は秋、薄めの前開きの長袖シャツに短パン、というラフな格好の元は、そのいちご味のチョコレートを手に取り、俺の書いたカードを読んだ後、ふわっと微笑んだのである。

その瞬間、俺の頭はビリビリと痺れたようになり、気付けばアソコも勃っていた。
公共の場で、アソコが勃つ、なんて事経験したことがなかった俺はかなり戸惑った。だが、それと同時に確信したのである。


あれは俺のものだ』




しかしその1ヶ月後、元は塾のアルバイトを辞めたのである。



そこからの俺の行動は早いものだった。
元のことを金にものを言わせ調べ上げ、どうでもよかった進路も元と同じ教員に絞り込んだ。幸い、頭はかなり良かったから何なく大学にも合格したし、元がいる以上、父親の言いなりにももうなりたくなかったから、兄の渚指導のもと、大学在学中から株取引を始めた。
渚曰く「先見の明がある」と褒められるぐらい俺は着々と資産を増やしていった。


大学4年の時にようやく直接元と再開した。
あるによると、かなり仕事が忙しいようで、心底疲れた様子だったが、指導担当でもないただの実習生の俺にもお菓子やお茶をくれた。
俺は元を養えるだけの稼ぎを得て、自立した状態での元との再会を望んでいたこともあり、顔が見えないように前髪をあの頃よりさらに長くして顔を隠していた。そして姿勢もわざと猫背にして、少しでも塾生徒だったあの頃から印象を変えて、元に気付かれない謎の努力をしたのである。

そのおかげで指導担当の主任のジジイからは嫌味ばっかり言われたが、陰で俺のことを庇ってくれる元の存在のおかげで全く気にもならなかった。




そしてその2年後、ようやく俺は元を迎えに行ったのだ。
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