華燭の城

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「シュリ様……!」
 ラウが慌ててその体を支える。

「ごめん……やっぱり……」

 そう呟くシュリの呼吸はみるみるうちに荒くなり、はだけたシャツから見える出血は、じわじわと浸み出すように増えていった。

 薬湯が効いている間は、嘘のように体は軽く、痛みもなかった。
 だが一度薬効が切れてしまうと、その痛みと苦しみは、それまでの反動もあってか何倍にも酷くなり、その傷だらけの体に襲いかかる。

「シュリ様! ……シュリ様っ!」
 呼びかけるラウの声も段々と遠くなっていった。


 遠のく意識の中、シュリは体に何かの振動を感じていた。
 息苦しく目を開ける事さえ辛かったが、それが、ラウが自分を抱えて歩いているのだと、その腕や体から伝わる温もりから感じ取っていた。
 脚が悪いのに……。
 




「シュリ様……シュリ様……」
 冷たい指が熱で紅潮した頬にそっと触れられる。
 その声に、シュリは薄く目を開けた。

「よかった……。薬湯です、これを……」

 ラウは、ベッドに横たわるシュリの首をわずかに持ち上げると、
「口を開けて……」
 指で促すように唇に触れ、その薬湯を口に含ませた。
 だがシュリは朦朧とする意識の中、注がれる薬に思わず咳き込み、嫌がり首を振る。

「もう少し……。
 もう少しだけ我慢してください」

 肩で荒く息をするシュリの唇端から零れた薬をラウが指で拭うと、外界からの刺激は全て痛みだと認識しているのか、それとも、自己防衛の無意識の反応なのか……。
 その指を振り払おうとシュリは体を捩り、暴れようとする。
 それでも嫌がる手を押さえ付け、ラウはシュリの口内へ残りの薬湯を注ぎ込んだ。

 無理矢理ではあったが、コクリとシュリの喉が動くと、ラウはその体を抱き寄せる。
 すぐに苦しみ始める事は判っているからだ。

「……っ…………!」
 直後に襲う激しい副作用。

「しばらくの辛抱です。すぐに楽になります」
 そう言ってラウは熱い体を強く抱きしめた。


 どれほどの時間が経ったのか、ようやく呼吸が落ち着きはじめ、シュリはゆっくりと目を開けた。
 ベッドの横で自分を覗き込むラウの顔が間近にあった。

「……ラ……ウ……」

「気が付かれましたか?
 申し訳ありません。お体の事も、薬の時間も考えず、あんな遠い所まで連れ出してしまい……。全て私の責任です」

「ラウが……謝る事じゃない……」
 頭を下げるラウに、シュリは小さく首を振った。
 
「……ここ……は……」

 視界に入ったそこは、見慣れない部屋だった。
 床に血の付いた包帯がまとめて置かれているのは、ラウが手当してくれた物だろう。

「私の部屋です。
 シュリ様のお部屋まで、お連れできれば良かったのですが……」
 ラウは恨めしそうに自分の脚に視線を落とした。

 シュリは、自分を抱えて歩いていたラウを思い出していた。
 
 不自由な脚で自分を抱え、懸命にここまで運んでくれたのだ。
 きっと人に見られぬように、気を使いながら……。
 それがどれほど大変な事か……。

「ありがとう……ラウ……」
 シュリは胸がいっぱいになり、それだけ言うのがやっとだった。
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