華燭の城

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「ああ、本当にあのシュリ様だ。
 間近で見れば一層お美しい……。  
 正装がよくお似合いで、立っておられるだけでも絵になりますな。
 宴の時は、それはそれはご立派に立ち振る舞われていたが、それが、まさかこのような玩具とは」

 嬉しくてたまらないというように、男はクック……と喉を鳴らし笑った。

「躾が終われば人形か。
 確かにそうだな、ワシにも覚えはある」

 ガルシアは酒を口に運びながら、扉横のラウを一瞥いちべつした。
 その視線に気付いた男の目もラウを見捉える。

「あれは、廊下に居た者でしょうか?
 黒髪とはなんとも珍しい。しかもあの出で立ち。
 あれもかなりの上物ではございませんか、陛下」

「あれか……」  

 ガルシアは次の酒をグラスに満たしながら続けた。

「あれはシュリの世話係。
 そしてお前の言うだ」

 嘲笑あざわらうように唇を上げる。

「ほう……。
 あれもすでに陛下の玩具でしたか。 
 これはさすが、さすが。お目が高いと言うべきでしょうな。
 いや、しかし、すでに人形とは惜しいですなぁ……。
 私も一度、鳴かせてみたかったですよ」

 暗い廊下ではよく判らなかった男の顔が、暖炉の灯りで揺れていた。
 
 暗くくすみ、酷く黄味を帯びたその土気色の肌に、ギョロリとした大きな眼だけが目立ち、蟲のようだ。
 かさついた頬が引き攣るように嗤うと、途端に陰湿さが度合いを増す。

「だが、あれは卑しい平民の出だ。
 少しばかり鳴かせれば、すぐに人形。
 それよりもやはり神の子だ。
 気品も強情さも、身体も……それにアレの感度もな。
 全て言う事なしだ」

「おお、それはそれは……。
 やはり身分で違いますかな」

 新たな酒が注がれたグラスを持ち上げながら、男のじっとりと湿った目が再びシュリを見つめた。

「すぐにでもいろいろと試してみたい所ですが、それでは勿体のうございますな。
 ここは時間を掛けて楽しませていただきましょう。
 では……まずご自分で上から脱いでもらいましょうか。
 ゆっくりと、ですよ。シュリ様」

「……」

「シュリ、例の件、忘れた訳ではあるまいな?
 弟がどうなってもいいのか? さっさとしろ」
 グッと男を睨みつけ動かないシュリに、ガルシアの声が冷たく響く。

 やっと医師を集める所まで来たのだ。
 ここで約束を反古ほごにさせるわけにはいかない。

 二人をじっと見据えたまま、唇を噛み締めたシュリの手が、ゆっくりと自分の衣服に掛かる。

 男は正装と言ったが、これは正確には準正装の礼服だ。
 本来の正装はこれに左肩の勲章から純白のストールが付き奉剣を携える。
 今まで、正装まで着用したのは初回の宴だけだ。

 それでも多くの勲章や銀飾りの付いた上着は、バサリと重い音を立て足元に落ちる。
 ネクタイを外していくその様子を、ガルシアと男は酒を酌み交わしながら眺めていた。

 シャツのボタンを外すと、痛々しく包帯が巻かれた上半身が現れる。

「ほう、これはこれは……」
 男は嬉しそうに立ちあがった。

 シュリの前に立つと、肩口に巻かれた包帯をチラと除け、そこに見えるまだ生々しく裂かれた傷痕を見ると、男の顔は、その目は、一瞬で妖しい光を帯びた。

「これは……鞭……。
 しかも、この鋭い切れ味は希少な黒革ですか?
 ……で、こちらはナイフ」

 嬉しそうに笑いながら男がガルシアに尋ねた。

「ああ、そうだ。
 そこまで判るとはさすがだな」

「良いですねえ……。
 皆の前であれほど美しく立派に振る舞う神の子の体が、これほどに傷だらけとは……そそられますなぁ。
 それにこれは、まだ塞がってもいない」

 男はすでに興奮した様子で、肩口から胸へと伸びる傷……ガルシアにナイフで斬られた割創を掌で撫で回すと、煽るような不敵な笑みを浮かべ、シュリの顔を見上げた。
 だがシュリは、その男の不快な行為をただじっと、無表情のまま見下ろすだけだった。

 動じないシュリの冷たい顔に、男は更に薄ら嗤いを浮かべる。
 傷の両側に、自分の両手の親指を添えると、シュリの目をじっと見ながら、一気にグッ……!と左右に押し開いた。
 まだ薄い皮膚が無理矢理こ引き千切れ、ビリと裂ける。

「ンっ……」

 シュリがその痛みに一瞬目を閉じると、男はその声に反応し、益々歓喜の表情で目を輝かせた。
 傷口が開き、ジワリと血が滲み出る。
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