華燭の城

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「今日は着替えずとも良い。そのままの服装で部屋に来い」

 宴が終わり広間から出てきたガルシアは、それだけをシュリに告げると、隠れるように身を潜めていたあの男に近付き、並んで廊下の奥へと消えていった。

 ガルシアは、装飾が多く、脱ぎ着し難い宴用の礼装を嫌がる。
 そのため、いつもは着替えてからあの部屋へ行くのだが、今日は着替えずに来いと言う。

 ……どういう事だ? 

 今までと違う不意の言葉に、答えを求めるようにラウを見たが、ラウもまた理解出来ず、小さく首を振るだけだった。

 
 シュリが言われるまま、宴を終えたままの姿であの部屋へと出向き、ラウが扉をノックしようとすると、中からガルシアの声がしていた。

 ……他に、誰か……いる……。

 ラウの表情が曇った。

 すぐにあの陰湿な目をした小男の顔が脳裏に浮かんだが、あれほどシュリとの秘密が外に漏れる事を恐れていたガルシアが、この部屋に第三者を招く等という事は考えられない。
 現に、ラウがこの部屋の存在を知ってから今まで15年間、ここにガルシア以外の人間が居た事は一度もない。

「失礼します。
 シュリ様をお連れしました」
 
 一瞬のためらいの後、そう言ってラウが静かに扉を開けると、薄暗い部屋の中央で、一際目立つ真紅のソファーに、ガルシアとあの男が向かい合わせで座り、楽し気に酒を酌み交わしている所だった。
 
 その光景にラウは思わず唇を嚙んだ。
 心臓の辺りで警鐘が鳴り始める。
 まさか……とは思ったが、こんな事は初めてだった。
 シュリも何かを感じたのか、ラウの一歩前に出るその手は、強く握り締められている。

 ガルシアはチラと視線を上げ二人を見ただけで、また小男との談笑に戻り、一仕切り話しが終わるまで、シュリとラウは扉の前で、立ったまま待たされる事となった。

 小声で、しかも手で口元を隠したままの小男。
 何を話しているのかは、部屋が広いせいもあって判りはしないが、時折チラチラとこちらを伺い見る男の視線から、シュリの話をしている事は確かだった。

「では、頼んだぞ」のガルシアの声に、男は「勿論です」とでも答えたのだろうか……。
 満面の笑みで頭を下げる男を前に、ガルシアはシュリを手招きで呼んだ。

「今日は客人がいる。
 存分に楽しませてやってくれ」

「楽しませる……とは……。
 ……どういうことだ、ガル……陛下……」

 二人の少し手前で立ち止まったシュリは、かろうじて呼称を、表向きな “陛下” に戻し、蝋燭の灯りに照らされた男の顔を見た。
 その男の顔は、シュリにも見覚えがあった。
 宴の最中、広間の片隅で一人隠れるように酒を飲んでいた男だ。

「文字通りやればいい。お前のその体でな」

「……なっ……!」

「……陛下!」

 思わず声を上げそうになったシュリを遮ったのは、入り口横に立つラウの声だった。

「なんだ」

 ガルシアはジロリとラウに鋭い視線を送り、言外に「黙れ」と示すと、それでも食い下がろうとするラウを完全に無視し、男に向き直った。

「さあ、これがあの高名な神の子、シュリだ。
 お前の希望通り、宴の時のままの正装だ。好きなように遊んでくれ。
 言っておくが、世界中探してもこれ以上の上物はないぞ?
 まぁ、まだしつけがなっていないので、芸はできないがな」

「いえいえ、陛下。
 躾が足らぬぐらいの方が、楽しみ甲斐があるのですよ。
 嫌がり暴れるも良し、泣き叫ぶも良し……。
 これが完全に服従した ただの人形では、そうはいかない」

 そう言って男は改めて、シュリの全身を舐めるように見つめた。
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