113 / 199
- 112
しおりを挟む
白馬が驚きのあまり嘶き、前足を大きく振り上げた。
その声に、飛び出した野狐の方も道の中央で立ちすくみ、目前の巨体を鋭い目で凝視したまま、恐怖で動けなくなっている。
「……ぅっ…………ぅわぁぁあああっ!!」
二本足立つ馬から振り落とされまいと、ナギが手綱にしがみつく。
その手綱で、益々馬は冷静さを失い、上げた前足が地面に着くと同時、いきなり全速力で走り出した。
「殿下!」
恐怖で見境つかなくなった馬は、狂ったように走り続ける。
ナギはもう、それを制御する事もできず、ただ落ちまいと、首にしがみつくだけで精一杯だ。
「殿下! 絶対に手を離さないで!」
追いついたシュリがナギの斜め後ろを走りながら叫ぶ。
「わかって……るっ……」
かろうじてナギが返事をする。
まだこちらの声を聞く余裕はあるようだが、一刻の猶予もならないのは明らかだった。
どうすれば……。
追走しながら必死に考えるシュリの目に、二手に分かれた道が飛び込んだ。
「まずい……」
シュリはチラと後ろを振り返った。
引き離してしまったのか、もう誰の姿も見えはしない。
「クッ……」
唇を噛んだ。
あの城裏から見た巨大な森の中に自分達はいる。
もしここで道の選択を誤れば、本当にはぐれてしまう。
そして、その選択した道がどこまで続いているか、保証はない。
いきなり断崖にでも出たら、馬は止まり切れずそのまま……。
最悪のイメージを払拭するようにシュリは頭を振った。
その時、ラウの言葉がシュリの脳裏をよぎった。
『湖を北側から迂回して、
途中の分岐を南西へ向かうと、滝に出る……』
南西……。
空を見上げる。
午後の陽が上がっている。
そこまでの思考はほんのわずか、刹那の時間だった。
シュリは再びレヴォルトに鞭を入れるとナギを追い抜き、白馬の右手斜め前に出て並走した。
直後、二頭はそのまま一塊になって分岐へ突っ込んだが、白馬は右手側をシュリに塞がれ、進路を左に向けるしかできなかった。南西へ向けて……。
これで方角は間違っていない。
だが、シュリが安堵したのも束の間だった。
並走して見たナギはもう握力も限界なのか、苦しそうに下を向いたまま手綱を握り締め、馬の首にしがみつき目を閉じている。
「……殿下!!」
もう返事さえ返ってこなかった。
あれでは余計に馬が怯え、止める事などできはしない。
落馬も時間の問題だ。
「……殿下! 殿下!! ……ナギ!!」
名を呼ばれ、ナギがハッと顔を上げた。
「ナギ! そちらへ移る!」
その声に、飛び出した野狐の方も道の中央で立ちすくみ、目前の巨体を鋭い目で凝視したまま、恐怖で動けなくなっている。
「……ぅっ…………ぅわぁぁあああっ!!」
二本足立つ馬から振り落とされまいと、ナギが手綱にしがみつく。
その手綱で、益々馬は冷静さを失い、上げた前足が地面に着くと同時、いきなり全速力で走り出した。
「殿下!」
恐怖で見境つかなくなった馬は、狂ったように走り続ける。
ナギはもう、それを制御する事もできず、ただ落ちまいと、首にしがみつくだけで精一杯だ。
「殿下! 絶対に手を離さないで!」
追いついたシュリがナギの斜め後ろを走りながら叫ぶ。
「わかって……るっ……」
かろうじてナギが返事をする。
まだこちらの声を聞く余裕はあるようだが、一刻の猶予もならないのは明らかだった。
どうすれば……。
追走しながら必死に考えるシュリの目に、二手に分かれた道が飛び込んだ。
「まずい……」
シュリはチラと後ろを振り返った。
引き離してしまったのか、もう誰の姿も見えはしない。
「クッ……」
唇を噛んだ。
あの城裏から見た巨大な森の中に自分達はいる。
もしここで道の選択を誤れば、本当にはぐれてしまう。
そして、その選択した道がどこまで続いているか、保証はない。
いきなり断崖にでも出たら、馬は止まり切れずそのまま……。
最悪のイメージを払拭するようにシュリは頭を振った。
その時、ラウの言葉がシュリの脳裏をよぎった。
『湖を北側から迂回して、
途中の分岐を南西へ向かうと、滝に出る……』
南西……。
空を見上げる。
午後の陽が上がっている。
そこまでの思考はほんのわずか、刹那の時間だった。
シュリは再びレヴォルトに鞭を入れるとナギを追い抜き、白馬の右手斜め前に出て並走した。
直後、二頭はそのまま一塊になって分岐へ突っ込んだが、白馬は右手側をシュリに塞がれ、進路を左に向けるしかできなかった。南西へ向けて……。
これで方角は間違っていない。
だが、シュリが安堵したのも束の間だった。
並走して見たナギはもう握力も限界なのか、苦しそうに下を向いたまま手綱を握り締め、馬の首にしがみつき目を閉じている。
「……殿下!!」
もう返事さえ返ってこなかった。
あれでは余計に馬が怯え、止める事などできはしない。
落馬も時間の問題だ。
「……殿下! 殿下!! ……ナギ!!」
名を呼ばれ、ナギがハッと顔を上げた。
「ナギ! そちらへ移る!」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
77
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる