140 / 199
- 139
しおりを挟む
全裸のシュリの脚を開かせると、その内腿にも同じ傷があった。
あの小男がガルシアに渡した針で、同じ様に灼き付けられた傷だ。
医学書によれば、灼かれた傷――熱傷は比較的出血は少ないと記されている。
だが実際の、シュリの傷は違う。
胸も脚も、一向に血が止まる気配がない。
原因はわかっている。
あの時の薬……小男が劇薬と言っていた薬のせいだ。
あれが使われているであろうこの脚の傷も、胸と同様、このまま放置するわけにはいかなかった。
「シュリ、もう少し……」
そう言うとラウは、その傷も洗浄し、白く薄い皮膚の内腿にもプツ。と針を通す。
「……ンッ……!」
新たな部位での痛みに、シュリは再び体を捩った。
シュリが体を仰け反らせると、所詮は素人の粗技でしかない縫合したばかりの胸の傷は引き攣り、縛られた悪魔が 『これを解け』 とでも咆哮するように、歪な傷が更に歪む。
「神よ…………どうかこの方を……」
拘束していない脚を懸命に動かし、その痛みから無意識に逃れようとするシュリを押さえつけ、ラウは針を進めた。
窓の外から薄い陽が差し始める頃、ようやくラウはその顔を上げ、力を抜いた。
握っていた器具を置いても尚、その手の震えは止まらない。
「シュリ、終わりましたよ……」
そう言いながら縛っていた拘束を解き、咥えさせていた布を取ると、シュリは苦し気に一度だけ大きく息を吸い込んだ。
血に染まった手を洗い、温めた布でシュリの身体の血と汗をそっと拭いながら、
「……シュリ……申し訳ありません……。
全て私が悪いのです。私がもう少し……もう少し早く……」
ラウは独り言のように呟き、頭を下げ続けた。
「……違……う……。ラ……ウ……」
シュリの小さな声にラウは顔を上げた。
「シュリ……!
気がつかれたのですね……よかった……」
そっと覗き込み、顔を寄せる。
「お前の……せいでは…………い……。
……ガルシアは…………いつか……この印を……。
お前のせいでは……絶対にない……」
それだけ言うと、シュリは力尽きたように目を閉じ、深い眠りに落ちていった。
その横で、ラウもぐったりと床に座り込んだ。
どうしようもない感情が自分の中に渦巻いていた。
どこか遠くで扉がノックされる音――
その音でラウはゆっくりと頭を上げ、広い部屋を見渡した。
時間と場所の感覚がない。
ほんのわずかだろうが、座り込んだまま眠っていたのかもしれない。
そこはシュリの部屋。
宴が始まる前の、酷く荒れた状態のままだ。
シュリが目を覚ました時、これを見たら……。
その前に片付けなければ……。
辛い現実を思い出させる物は、少しでも消しておいてやりたかった。
漠然とそんな事を考え、重い体で立ち上がろうとした時だった。
再びノックの音で、ラウは完全に目を覚ました。
手を伸ばし、椅子に掛けた上着を掴む。
内ポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認しながら、ノックされ続ける扉を少しだけ開けた。
シュリの部屋に来る者は限られている。
そこにいたのは、やはりあのオーバストだ。
陽は昇ってはいるが、まだ午前の早い時間。
ガルシアがシュリを呼びつける時間ではない。
「何か……?」
「ラウム、陛下が部屋でお呼びだ」
訝しむラウを他所に、オーバストはそう言った。
「私を……?」
「ああ、お前をだ、ついて来い」
それだけ言うと踵を返す。
「あ……少し…………」
ラウが言い返す間もなく、オーバストはどんどんと廊下を進んでいく。
室内を振り返ると、シュリはまだ目を覚ましていない。
一晩中、痛みと戦っていたのだ。
もうしばらくは起きないはずだ。
暖炉の薪も、まだ大丈夫。
それを素早く確認して、ラウは静かに扉を閉めオーバストの後を追った。
あの小男がガルシアに渡した針で、同じ様に灼き付けられた傷だ。
医学書によれば、灼かれた傷――熱傷は比較的出血は少ないと記されている。
だが実際の、シュリの傷は違う。
胸も脚も、一向に血が止まる気配がない。
原因はわかっている。
あの時の薬……小男が劇薬と言っていた薬のせいだ。
あれが使われているであろうこの脚の傷も、胸と同様、このまま放置するわけにはいかなかった。
「シュリ、もう少し……」
そう言うとラウは、その傷も洗浄し、白く薄い皮膚の内腿にもプツ。と針を通す。
「……ンッ……!」
新たな部位での痛みに、シュリは再び体を捩った。
シュリが体を仰け反らせると、所詮は素人の粗技でしかない縫合したばかりの胸の傷は引き攣り、縛られた悪魔が 『これを解け』 とでも咆哮するように、歪な傷が更に歪む。
「神よ…………どうかこの方を……」
拘束していない脚を懸命に動かし、その痛みから無意識に逃れようとするシュリを押さえつけ、ラウは針を進めた。
窓の外から薄い陽が差し始める頃、ようやくラウはその顔を上げ、力を抜いた。
握っていた器具を置いても尚、その手の震えは止まらない。
「シュリ、終わりましたよ……」
そう言いながら縛っていた拘束を解き、咥えさせていた布を取ると、シュリは苦し気に一度だけ大きく息を吸い込んだ。
血に染まった手を洗い、温めた布でシュリの身体の血と汗をそっと拭いながら、
「……シュリ……申し訳ありません……。
全て私が悪いのです。私がもう少し……もう少し早く……」
ラウは独り言のように呟き、頭を下げ続けた。
「……違……う……。ラ……ウ……」
シュリの小さな声にラウは顔を上げた。
「シュリ……!
気がつかれたのですね……よかった……」
そっと覗き込み、顔を寄せる。
「お前の……せいでは…………い……。
……ガルシアは…………いつか……この印を……。
お前のせいでは……絶対にない……」
それだけ言うと、シュリは力尽きたように目を閉じ、深い眠りに落ちていった。
その横で、ラウもぐったりと床に座り込んだ。
どうしようもない感情が自分の中に渦巻いていた。
どこか遠くで扉がノックされる音――
その音でラウはゆっくりと頭を上げ、広い部屋を見渡した。
時間と場所の感覚がない。
ほんのわずかだろうが、座り込んだまま眠っていたのかもしれない。
そこはシュリの部屋。
宴が始まる前の、酷く荒れた状態のままだ。
シュリが目を覚ました時、これを見たら……。
その前に片付けなければ……。
辛い現実を思い出させる物は、少しでも消しておいてやりたかった。
漠然とそんな事を考え、重い体で立ち上がろうとした時だった。
再びノックの音で、ラウは完全に目を覚ました。
手を伸ばし、椅子に掛けた上着を掴む。
内ポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認しながら、ノックされ続ける扉を少しだけ開けた。
シュリの部屋に来る者は限られている。
そこにいたのは、やはりあのオーバストだ。
陽は昇ってはいるが、まだ午前の早い時間。
ガルシアがシュリを呼びつける時間ではない。
「何か……?」
「ラウム、陛下が部屋でお呼びだ」
訝しむラウを他所に、オーバストはそう言った。
「私を……?」
「ああ、お前をだ、ついて来い」
それだけ言うと踵を返す。
「あ……少し…………」
ラウが言い返す間もなく、オーバストはどんどんと廊下を進んでいく。
室内を振り返ると、シュリはまだ目を覚ましていない。
一晩中、痛みと戦っていたのだ。
もうしばらくは起きないはずだ。
暖炉の薪も、まだ大丈夫。
それを素早く確認して、ラウは静かに扉を閉めオーバストの後を追った。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる