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 携帯発見の一報に他のメンバーも呼び戻され、浅葱以下全員がマンションに集まっていた。
 別荘のテーブルに、見つけてくれと言わんばかりに置かれていた携帯。

「ヒント……にしちゃあ、判り易過ぎる置き方だよなぁ……」
 機材を繋ぎながらオヤジが呟いた。

「じゃあ何のために……」
 全員が同じ気持ちだった。

「考えていても仕方ねぇ……」
 そう言うと、オヤジは外装調べに取り掛かった。
 だが、これと言って次に繋がりそうな物は出てこない。
 同時に内部データを調べていた深月も結果は同じだった。

「内部情報も、ほとんどが消去されていますね。手がかりになりそうな物は何も……」
「まぁ、それが当たり前だろうなぁ……」
 ……と、オヤジが言いかけた時だった。

「あれ……?」
 深月が首を傾げる。
 
「ん? どうした?」
「おやっさん、中に一つだけ何か残ってます」

 見ると、二~三秒の短い動画が入ったファイルが、ポツンと残されていた。

「画像こっちへまわせ!」
 オヤジの声で、画像が部屋のモニターに映し出される。

 そこには両手を頭の上で交差し、鎖で手首を縛られ、膝立ちで上半身裸にされた匠の姿があった。
 それは連れ去られたあの日、男が「浅葱に見せてやろう」そう言った時の画像だ。


 誰もが息を呑んでその画像を見つめる。
 拉致されたという事実から、もしかすると……と頭では理解していたが、実際の映像を見せられると一同が声を失っていた。

 ひどく古い防犯カメラの画像を三秒程切り取っただけの物らしく、薄暗い部屋のせいもあるが、画像はかなり悪い。
 それが匠だと、やっと認識できる程度だった。

「……なんでもいい、ここから手がかりを探してくれ」
 絞り出すように言う浅葱の拳は怒りで震えていた。


 画像を取り込んだPCの前で、オヤジの細かすぎる指示を、深月は手早くこなしていく。
 だが音声も無く、わずかな画像からは、ここがコンクリートの壁に囲まれた地下室か、倉庫のような場所……だとしか判らない。

「何か他に手がかりは無いのか! 手がかりは!」
 苛立った一人が、たまらず声をあげた。
 しかし、その問いに答えられる者は誰も居なかった。


 何も掴めないまま時間だけが過ぎていた。
 絶望感が漂い始めた部屋で、憮然と画面を睨んでいたオヤジが
 「……ん?」と呟いた。
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