44 / 232
-43
しおりを挟む
ゴホッ……ゴホッ……
誰も居ない部屋で、匠は激しく咳き込んでいた。
ずっと口から水分を摂っていなかった。
点滴がつけられているので、生命維持には何の問題もないのだろうが、喉は乾燥し、今にもその蓋を閉じてしまいそうな感覚になる。
ゴホッ……
咳き込むたびに、うつ伏せ折れた肋骨が悲鳴を上げる。
腕に力が入らず寝返りさえうてない。
足に力を入れ、わずかに上体を捻り、肋骨が圧迫されるのを防ぐ事はできたが、その姿勢もまた、胸の痛みを増すには十分だった。
窓の無い部屋で、時間の感覚というものを全て失っていた匠の耳に、扉の開く音がし、ペタペタという足音が聞こえてくる。
もう何度も聞いた音だ。
あの老人の足音……。
それは、これからまた壮絶な痛みとの戦いを告げる合図だった。
老人の作業――
匠の背中に刻印を彫る作業は、途中で何度か中断される。
中断の時間が短い時は昼。
かなり長く途切れる時は、たぶん夜。
それぐらいの感覚しか残っていなかった。
そして、そのわずかな合間にも、何度となく陵辱された。
いつもはあの男に……。
時には、この老人と助手達に……。
途中で意識を失うと、傷を掴まれ薬液をかけられた。
苦しげな匠の側で器具の準備しながら老人は、
「……辛そうだな」
そう言い、満悦の表情を浮かべた。
そしてまた作業が始まる。
咳き込み震える匠の背中にメスが入れられ、針を刺され、縫合され、そうして龍と結合した蛇が徐々にハッキリと、美しく形作られていく。
「……んッッッ…………!」
もう声も出なくなっていた。
「ずいぶんと出来上がったな」
朦朧とする意識の中、不意に嬉しそうなあの男の声がした。
「はい。これは最高傑作です。
いま少し修正は必要ですが、その後、全ての抜糸が終わって腫れが引けば、それはそれは美しくなるでしょう……」
老人が両手を擦り合わせながら告げる。
「これでタクミは私のモノだ。
もうどこにも逃げられない」
男は満足そうにゆっくりと匠の体を撫でた。
触れられる事が嫌だった。
体が震え出し、また息苦しくなった。
ハァ……ハァ……
「はな……せ……さわるな……」
やっとの思いで絞り出した声に、男の目が咎めるように見つめ、その表情が苛ついたものに変った。
「タクミ、まだわからないのか……?」
しばらく何か考えていた男は、
「……先生、今、作ってらっしゃる薬を持って来てください」
そう言った。
「え……と……アレを……ですか……?」
老人は驚いたように聞き返す。
「ええ、どうも最近、先生の薬の効果が弱くなった気がしてね。
どう思います? ……先生」
「あ……そ、それは……。
背中の痛みの方が……勝ってるせいではないかと……。
それで……その……催淫剤の方の効き目が……あの……。
もう長いですし……慣れと……耐性も……その……」
老人はしどろもどろになりながら、必死に言い訳をした。
「弁解は結構ですよ、先生。
責めているわけではない。
何か面白そうな物をいくつか作っていたでしょう?
それを持って来てくれればいい。
どうせ今のタクミは満足に動けないのだし、体を弄ぶのは私の自由。
でもね……私はタクミの心が欲しいのですよ。
私に許しを乞いたくなるような……絶対に反抗はしない、服従すると……そう言わせる薬がね……」
「服従……ですか……」
老人は男の言葉に黙って考えていたが、
「では、あの……まだ完成ではありませんが、一つだけ使えそうな物がございます。
快楽の催淫剤とは違い、痛みだけのものです。
血管に刺す今の点滴と違って、それは吸収の良い粘膜に直接注入するのです。
持続力より即効性重視で、効果はかなりあるかと思いますが……。
……いかがでしょう……?」
「粘膜か……それはおもしろそうだな……」
「そ、そうですか……!
粘膜であればどこでも大丈夫です。
鼻孔、口、耳、生殖器、肛門……どこでもよろしいかと……!
……もし使っていただけるなら、貴重なサンプルになります」
老人は、男が自分の提案に好反応を見せた事に安堵し、窮地を脱したように嬉しそうに答えた。
「……そうだな。
どこがいい? タクミ……」
男は匠の顔を覗き込むと、頭を撫でながらそう聞いた。
誰も居ない部屋で、匠は激しく咳き込んでいた。
ずっと口から水分を摂っていなかった。
点滴がつけられているので、生命維持には何の問題もないのだろうが、喉は乾燥し、今にもその蓋を閉じてしまいそうな感覚になる。
ゴホッ……
咳き込むたびに、うつ伏せ折れた肋骨が悲鳴を上げる。
腕に力が入らず寝返りさえうてない。
足に力を入れ、わずかに上体を捻り、肋骨が圧迫されるのを防ぐ事はできたが、その姿勢もまた、胸の痛みを増すには十分だった。
窓の無い部屋で、時間の感覚というものを全て失っていた匠の耳に、扉の開く音がし、ペタペタという足音が聞こえてくる。
もう何度も聞いた音だ。
あの老人の足音……。
それは、これからまた壮絶な痛みとの戦いを告げる合図だった。
老人の作業――
匠の背中に刻印を彫る作業は、途中で何度か中断される。
中断の時間が短い時は昼。
かなり長く途切れる時は、たぶん夜。
それぐらいの感覚しか残っていなかった。
そして、そのわずかな合間にも、何度となく陵辱された。
いつもはあの男に……。
時には、この老人と助手達に……。
途中で意識を失うと、傷を掴まれ薬液をかけられた。
苦しげな匠の側で器具の準備しながら老人は、
「……辛そうだな」
そう言い、満悦の表情を浮かべた。
そしてまた作業が始まる。
咳き込み震える匠の背中にメスが入れられ、針を刺され、縫合され、そうして龍と結合した蛇が徐々にハッキリと、美しく形作られていく。
「……んッッッ…………!」
もう声も出なくなっていた。
「ずいぶんと出来上がったな」
朦朧とする意識の中、不意に嬉しそうなあの男の声がした。
「はい。これは最高傑作です。
いま少し修正は必要ですが、その後、全ての抜糸が終わって腫れが引けば、それはそれは美しくなるでしょう……」
老人が両手を擦り合わせながら告げる。
「これでタクミは私のモノだ。
もうどこにも逃げられない」
男は満足そうにゆっくりと匠の体を撫でた。
触れられる事が嫌だった。
体が震え出し、また息苦しくなった。
ハァ……ハァ……
「はな……せ……さわるな……」
やっとの思いで絞り出した声に、男の目が咎めるように見つめ、その表情が苛ついたものに変った。
「タクミ、まだわからないのか……?」
しばらく何か考えていた男は、
「……先生、今、作ってらっしゃる薬を持って来てください」
そう言った。
「え……と……アレを……ですか……?」
老人は驚いたように聞き返す。
「ええ、どうも最近、先生の薬の効果が弱くなった気がしてね。
どう思います? ……先生」
「あ……そ、それは……。
背中の痛みの方が……勝ってるせいではないかと……。
それで……その……催淫剤の方の効き目が……あの……。
もう長いですし……慣れと……耐性も……その……」
老人はしどろもどろになりながら、必死に言い訳をした。
「弁解は結構ですよ、先生。
責めているわけではない。
何か面白そうな物をいくつか作っていたでしょう?
それを持って来てくれればいい。
どうせ今のタクミは満足に動けないのだし、体を弄ぶのは私の自由。
でもね……私はタクミの心が欲しいのですよ。
私に許しを乞いたくなるような……絶対に反抗はしない、服従すると……そう言わせる薬がね……」
「服従……ですか……」
老人は男の言葉に黙って考えていたが、
「では、あの……まだ完成ではありませんが、一つだけ使えそうな物がございます。
快楽の催淫剤とは違い、痛みだけのものです。
血管に刺す今の点滴と違って、それは吸収の良い粘膜に直接注入するのです。
持続力より即効性重視で、効果はかなりあるかと思いますが……。
……いかがでしょう……?」
「粘膜か……それはおもしろそうだな……」
「そ、そうですか……!
粘膜であればどこでも大丈夫です。
鼻孔、口、耳、生殖器、肛門……どこでもよろしいかと……!
……もし使っていただけるなら、貴重なサンプルになります」
老人は、男が自分の提案に好反応を見せた事に安堵し、窮地を脱したように嬉しそうに答えた。
「……そうだな。
どこがいい? タクミ……」
男は匠の顔を覗き込むと、頭を撫でながらそう聞いた。
0
あなたにおすすめの小説
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる