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「先生って……まさか、本当にとおるか!?」
「ええ!」
「おい! 何年ぶりだ……!?
 お前が高校生の時だから……まぁ何でもいい!
 元気そうで良かった!」
 側で見ていた浅葱も、相手が怪しい者ではなさそうな事にホッとし、肩の力を抜いた。

「先生、ようやく見つけましたよ!」
「もう先生って言うな」
 オヤジが照れくさそうに笑う。

「先生は先生です!
 家庭教師をしていただいたのは……先生が医大生で、私が大学受験の時ですよね。
 本当に懐かしい……。
 ……で……側にいるのが……。
 君が浅葱君……だね」

 そう言われ、穏やかだった部屋に一気に緊張が走った。
 どこで誰とチームを組んでいるか、それは誰にも知られているはずが無い事だった。
 いや、それ以前に、どういう仕事をしているか……という所からだ。
 医者になったはずの、かつての教え子の口から出た言葉に、オヤジの表情が険しくなる。


「……どういう事だ?」
「すみません。
 驚かせてしまいましたね。……これです」

 そう言って男が一枚の紙を画面に映した。
 それは、あの審議会への呼び出し状だった。

「お前……。本当にこっちへ……」
「ええ、先生の後を追いかけて来たんです。
 ですが、どこまで上がっても先生を見つける事ができなかった」
「……だろうな。
 ここでは組織内とはいえ、個人の情報は絶対に漏れない」
「おかげで気が付けば、これです」
 
 男が側にあった漆黒の上着の肩に付けられた階級章を見せる。
 そこには五つの星が連なっていた。

「それは……五人いるナンバーツーの階級章……」
「はい、今ではこの中の一人ですよ」
 画面の男は苦笑いのような、そして少し面倒そうな顔をして見せた。

「私達五人の上は、ナンバーワンがただ一人。
 ここまで来ても先生がいらっしゃらないから、もしかしたら先生がナンバーワンなのかとさえ思ってました。
 まだ少将とは……。
 ……あ……。失礼しました」

「そんな事はいい。
 俺は旧式の軍隊みてぇな階級なんかに興味は無ぇんだ。
 気の合う仲間と楽しく、自分の信念を貫けりゃあいい」
 オヤジが皮肉っぽく笑う。

「言われる通りです。
 この組織はまるで遠い昔の帝国遺物だ。
 この恥ずかしげもない軍服といい階級といい……。
 まぁ、それだけの歴史があるんでしょうが……。
 それでも先生らしいですね。
 一生懸命に先生を追いかけて上がってきた私が馬鹿らしい」
 そう言って男も笑った。


「……で? 用件は何だ?
 まさか、こんな昔話をするために探したわけじゃねぇだろう?
 ……その呼び出し状」
 オヤジの顔から笑みが消え、眼光も鋭い顔つきに変わった。

「ええ。今回の審議会、私にも出席要請がありましてね、それで先生の名前を見つけたんです。
 これが無ければ、永久に見つけられなかった」

「だが、個人的に関わりがある者が選ばれる事はないはずだ」
 オヤジが不審そうに画面を睨む。

「確かに……。
 でも私と先生の繋がりは三十年近くも前。
 まだ私が高校生の頃ですからね。
 さすがにそこまでは、調べがつかなかったのでしょう」

「ふん……。
 それも落ち度だな。……それで?」

「正直、驚きました。
 まさか先生ほどの人が、審議会にかけられるなんて……。
 それで、少々気になって調べてみたわけです」

 男の表情が引き締まる。

「単刀直入に申し上げて、この一件……。
 と……そう思うのは、私の間違いではありませんよね? ……先生」

 オヤジは黙っていた。
 いくら昔馴染みの教え子とはいえ、今回は組織の内部、しかもかなり上に黒幕がいるのは間違いない。
 この透が違うとは誰も言い切れない。
 迂闊な事を言えば、恭介や流、そしてまた匠にまで危険が及ぶ。

 そんなオヤジの真偽を図るような表情を見ながら男が続けた。

「お返事はいただけないようですね。 
 それが賢明です、先生。
 ……ここからは私一人が勝手に話す独り言です。
 先生は聞き流してください」
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