月見草戀物語

大和撫子

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その四

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 咲夜が待っていた。もう、奴しか目に入っていないようだ。やっぱりな……。
 奴もまた、一目彼女を見た途端に、

「咲夜……」

 と名を呟いた。漆黒の瞳に水晶の雫を湛えて。俺は彼を抱える手を放した。咲夜は両腕を斜め上に広げ、翼を広げて降りて来る彼を迎える。彼もまた、大きく両腕を広げた。同時に体の内側から月のように輝き始めた。

 彼女の周りに咲き乱れる月見草が、彼に照らし出されるようにして輝き出し、その光は彼女を足元から少しずつ包み込んでいく。やがて二人は月の光に守られるようにして純白の光の中で抱き合った。そして彼は翼を広げ、彼女を抱え上げる。二人は静かに夜空へと飛翔していった。

 それは神聖で神秘的な、月光の精霊の逢瀬に見えた。




 あの小高い丘に、白い月見草は跡形も無く消えていた。代わりに風に揺れるのは、柔らかな翠のレースの葉、薄紅色や白の秋桜たちだった。

「最近、大人しいわね」

 俺の隣で微笑むのは幼馴染、偏西風の精霊、風彩《かあや》だ。フサフサした栗色ポニーテールが、生き生きとした鳶色の瞳によく似合う。

「まぁな」

 俺の唇が穏やかな弧を描く。あれ以来、むやみに花を手折る気にはなれなかった。

「花散らしの風って言われるじゃない? やっぱり風は風同士、馬が合うのよ」

 と風彩はお日様みたいに微笑んだ。それを見ると、何となくほっこりした気分になる。

「そうかもな」
「そうよ!」

 彼女は嬉しそうに笑った。

 けれども今でもあの場所を通る度に思い浮かぶ、透き通るような白い花。胸が締め付けられるように切なくなるのだ。


【完】
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