3 / 4
その三
しおりを挟む
今宵は中秋の名月。月はやけにでかく、真珠みたいに輝いて見える。俺もお人よしだよな。彼を探して連れて来てやるなんてさ。彼女を口説く事もしないで。だけど放っておけないよ。彼女の花期は間もなく尽きちまう。
おっ?! 月光に酔った月夜烏《つきよがらす》たちが森のケヤキに止まってカーカー浮かれて騒いでいるぞ! 奴らに聞いてみるか。
「久しいな」
「東風の旦那、お久しぶりでさぁ」
「ところで、この辺で新米の月光の使者を見かけなかったかい?」
「あぁ、それなら毎晩道に迷ったみたいにフラフラと空を漂っていますぜ」
「そうか、有難う。またな」
「だけど男ですぜ? そいつ」
思わず苦笑しちまった。俺はそんなに女好きに見えるのか。まぁ、良い。この辺りをゆっくりと旋回してみるか。
生前というか、前世の彼女は、黄色い巻き毛に翡翠の瞳、勝気な感じだったそうだ。奴は銀髪ストレートに銀色の瞳だそうだけど、どう変わっているかな。ま、どうせナヨナヨとした優男だろうさ。
突如、真珠色の大きな翼が目に入った。薄青色の狩衣に紺色の袴姿。細身で背の高い男だ。両手に月の光を抱えて地上に撒いている。象牙色の肌に面長の輪郭。酷く端正な顔立ちだ。漆黒の髪は右耳の下あたりで一つに束ね、清流みたいに流れていた。だけど瞳は酷く虚ろで。俺の事も気づかないくらい上の空だ。
「ちょっといいかな?」
口惜しいけど、本当に美形だった。驚いて俺を見つめる涼やかな目元は、こっくりとした黒で。吸い込まれそうなほど深く澄み切っていた。仮に彼女の事を覚えていなくても、引き合わせたらたちまち恋に落ちてしまうだろう。
今なら、見つからなかった事にして俺が咲夜と残り時間を過ごせば良い、そんな欲望が胸を突きあげる。
けれども、彼女の涙に艶めく星空の瞳が思い浮かんだ。次の瞬間、
「来い! 銀鈴《ぎんれい》! 咲夜が待っている!」
と彼の背後に回り込み、羽交い締めにして強制的に彼女の元へと飛び立っていた。
「え? あ、あの……何故、私の名を?」
動揺する彼。そう、彼女が俺に愛しそうに告げた名は銀鈴。声も綺麗だった。横笛の音色みたいで。
「もう、時間が無い。行くぞ!」
有無を言わさず、奴を抱えたまま飛び立った。いささか強引過ぎたか。でもまぁ、案ずる事は無いさ。彼女に引き合わせれば、何もかも解決しちまうだろうからな。
……くそっ! 何でこんな当て馬役、自ら……
おっ?! 月光に酔った月夜烏《つきよがらす》たちが森のケヤキに止まってカーカー浮かれて騒いでいるぞ! 奴らに聞いてみるか。
「久しいな」
「東風の旦那、お久しぶりでさぁ」
「ところで、この辺で新米の月光の使者を見かけなかったかい?」
「あぁ、それなら毎晩道に迷ったみたいにフラフラと空を漂っていますぜ」
「そうか、有難う。またな」
「だけど男ですぜ? そいつ」
思わず苦笑しちまった。俺はそんなに女好きに見えるのか。まぁ、良い。この辺りをゆっくりと旋回してみるか。
生前というか、前世の彼女は、黄色い巻き毛に翡翠の瞳、勝気な感じだったそうだ。奴は銀髪ストレートに銀色の瞳だそうだけど、どう変わっているかな。ま、どうせナヨナヨとした優男だろうさ。
突如、真珠色の大きな翼が目に入った。薄青色の狩衣に紺色の袴姿。細身で背の高い男だ。両手に月の光を抱えて地上に撒いている。象牙色の肌に面長の輪郭。酷く端正な顔立ちだ。漆黒の髪は右耳の下あたりで一つに束ね、清流みたいに流れていた。だけど瞳は酷く虚ろで。俺の事も気づかないくらい上の空だ。
「ちょっといいかな?」
口惜しいけど、本当に美形だった。驚いて俺を見つめる涼やかな目元は、こっくりとした黒で。吸い込まれそうなほど深く澄み切っていた。仮に彼女の事を覚えていなくても、引き合わせたらたちまち恋に落ちてしまうだろう。
今なら、見つからなかった事にして俺が咲夜と残り時間を過ごせば良い、そんな欲望が胸を突きあげる。
けれども、彼女の涙に艶めく星空の瞳が思い浮かんだ。次の瞬間、
「来い! 銀鈴《ぎんれい》! 咲夜が待っている!」
と彼の背後に回り込み、羽交い締めにして強制的に彼女の元へと飛び立っていた。
「え? あ、あの……何故、私の名を?」
動揺する彼。そう、彼女が俺に愛しそうに告げた名は銀鈴。声も綺麗だった。横笛の音色みたいで。
「もう、時間が無い。行くぞ!」
有無を言わさず、奴を抱えたまま飛び立った。いささか強引過ぎたか。でもまぁ、案ずる事は無いさ。彼女に引き合わせれば、何もかも解決しちまうだろうからな。
……くそっ! 何でこんな当て馬役、自ら……
0
あなたにおすすめの小説
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
Short stories
美希みなみ
恋愛
「咲き誇る花のように恋したい」幼馴染の光輝の事がずっと好きな麻衣だったが、光輝は麻衣の妹の結衣と付き合っている。その事実に、麻衣はいつも笑顔で自分の思いを封じ込めてきたけど……?
切なくて、泣ける短編です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新 完結済
コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる