月見草戀物語

大和撫子

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その二

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 「あ-あ、俺も焼きが回ったな」

 程なくして、そう自嘲しながら天翔る俺がいた。彼女の花が咲く場所は小さな無人島だ。研究目的の人間どもが気紛れで訪れる程度で、殆ど知られていない。

 彼女はこう語った。

「私はかつて、ここ、和の国で咲くセイタカアワダチソウの精霊でした。彼は芒《すすき》の精霊、秋の花々を束ねる長でした。当時私は、この国に勢力を広げ、大地を我が物にしようと躍起になっておりました」

 と彼女ははにかんだように睫毛を伏せた。長い睫毛が、真珠みたいに不思議な輝きを見せる。頬がほんのりと薄紅色に染まる。こんな顔も出来るのか。

 話しを聞く前から予想出来る展開。芒の野郎に早くも嫉妬の念が湧いた。

 それにしても、彼女の過去がそんな勝気で野心に満ちていたとはなぁ。

「彼とはまさに、互いの生き残りをかけて凄まじい戦いを繰り広げました。最初の内は、我が群生の圧倒的な勝利に見えました。けれども彼らは静かになりを潜め、反撃する機会を狙っていただけでした。秘かに大地を自分たちが生き易いように変え、時が満ちるのを只管待っていたのです。ある瞬間、彼らは堰を切ったようにその生命力を発揮。あっと言う間に私たちを駆逐してしまいました。追い込まれた私は、命乞いに行きました。女王としての意地と誇りをかけて、全滅だけは免れたかった。彼は私との謁見を快諾。それだけではなく、和解も受け入れてくださったのです」

 ほーらな。もう聞かなくても分かるさ。芒とセイタカアワダチソウの攻防の話は俺達風の間でも有名だ。色恋の話こそ聞かなかったが、互いに生き残りをかけて戦う内に秘かに芽生える恋。何も珍しい話ではないさ。

「当然、彼の側近たちからは即反対の声が出ました。けれども彼は『憎しみの連鎖は終わり無き怨嗟を生む。そしてまた驕れる者は久しからず。私たちも同じだ』と諫めて下さいました。それで、あの……」

「互いに惹かれ合った、と言うのだろ?」

 ほら、薔薇色どころかカンナみたいに真っ赤になっちまった。

 けれども互いに異なる種族だ。自然界では異種族同士の交わりはご法度。生態系を崩して地球滅亡の発端になり兼ねない。人間どもの実験レベルとはスケールが違う訳さ。

 つまり、彼女たちは許されない恋に落ちた。それが、国之常立神《くにのとこたちのかみ》の逆鱗に触れ、彼女は単独で月見草の精霊に。彼は月光の使者として姿を変えられてしまったのだそうだ。

 彼女の花期が終えるまでの間、彼が見つけ出し愛を誓う事が出来たなら罪は許され、互いに夜空の輝きの精霊として未来永劫結ばれる、と言う話らしい。

 こう言うと簡単そうだが、彼の方は記憶を無くしている上に容姿は互いに以前とは異なっているのだとか。ただ、互いの名前だけは以前と変わらぬままだという。奴の名前は……。
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