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わたし、悪い子だもの
しおりを挟むニコル・クールス。
緑の髪、釣り目がちな鋭い瞳。きつそうな顔だが貴族でも人気が高いご令息だった。
侯爵家の次男であり、エドワードと……ジリアナの幼馴染だ。といってもわたしはあまり二人の傍に居なかったので、肩書きだけである。
カトラス公爵家の令嬢、リリスと婚約を結んでいたはずだったが…。婚姻を結んだかどうかまでは知らないので
帝国は貴族の一夫多妻制を認めてはいるけど、王国は認めていない。ましてや、女が不貞を働くなんてしてはいけないことだ。
リリスとは何度かお茶会で一緒になったことはあるけど……とても心優しい綺麗な人だったけな。
「あの……」
「は、はいっ!?」
色事に夢中で恐らく気付かれてはいないだろうが、城内の警備に見付からないようにこっそり歩いていれば、不意に物陰から声を掛けられて、裏返った声が出てしまった。
振り返って後ろを見る。そこに居たのは、大分大人になって美人に磨きがかかったニコルの婚約者であったリリスの姿だった。
「あなた、この城の使用人かしら?お訪ねたいことがあって…」
「な、なんでしょうか…」
心臓がばくばくしている。
今は使用人の格好をしているからバレはしないだろうけど……。
「この辺りで、緑の髪の男の人を見かけなかったかしら……」
ニコルの事だと、すぐにわかった。
…いる場所はわかる。誰と、何をしているのかも。きっと今も情事は続いている。このままリリスがわたしが来た方向へと行けば二人の姿を目の当たりにするだろう。
「……え、と」
言うべきか…でも、あまり関わることがなかったとはいえ、リリスが傷付くことになってしまうだろう。
「いえ、見ませんでした」
「そう…わかったわ。ありがとう。まだ小さいんだから、夜遊びもほどほどにするのよ?」
ふんわりと笑うリリス。たった七年もの間により美しく育ったようだ。
「はい、ありがとうございます」
リリスがわたしが来た方向の反対へと向かう。彼女が傷付く必要なんてない。
でも――そうね、少しくらい仕返ししたって許されるのかしら。いいえ、この国にいる間、リアマリアは悪い子だもの。ちょっと悪戯するくらい――
「どうかしたのか、お嬢ちゃん」
近くに居た兵士のところへと行けば、わたしを使用人の子供と思っているのだろう。怪しむことなく話しかけてきた。
「あのね、落し物をしてしまって探していたのだけど…なんだか向こうで変な声が聞こえたの」
指差したのは――二人が隠れている物陰。
有能な兵士だったんだろう。わたしの話を聞くと二人ほど連れてそっちへと向かっていった。
少しして、高い女の悲鳴と男たちの怒声が聞こえて。
…ギル王子には、少しだけ申し訳ない気持ちになってしまった。
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