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(第二部)第二章 出会いと別れ
05 異世界に戻る方法
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英司の幼馴染の詩乃という少女は頑固で、猫を抱えて譲らない。
結局、話の続きは後日ということにして一旦解散となった。
樹が自宅に帰ると、両親が仕事から帰ってきてリビングでくつろいでいた。
両親の注目を浴びないように樹はそそくさと二階の自分の部屋に戻ろうとする。
階段に足を掛けたところで、リビングの両親に気付かれた。
「……樹? なんだ、帰ってきたの」
「ただいま」
素通りを諦めて樹は階段に立ったまま、リビングと壁越しの会話に応じる。
姿は見えないが両親はテーブルで夕食しながら雑談しているようだった。
「青葉に聞いたんだけど、何か話があるって?」
樹は父親の言葉にどきりとした。
「うん、また時間のある時に……」
「そうかー? 父さんはいつでも良いぞー。ついでに太古の浪漫について語らせてくれるなら」
「あなた、考古学の話なんて子供たちは興味ないわよ。眠くなるだけだから」
「面白いんだけどなー」
父親は文化センターで働く考古学者だ。
古い遺跡や古墳を発掘するのが仕事で、日本のあちこちを飛び回っている。
自分の仕事が好きな父親は暇があれば息子たちに邪馬台国の位置がどうの、前方後円墳の形状がどうのと長話をしたがった。巻き込まれると父親の話を聞かされるだけで、自分の話ができなくなる。
会話を切るタイミングを狙っていた樹だが、ポケットでスマートフォンが鳴動したので、これ幸いと階段を駆け上がった。
「ごめん、友達から電話がかかってきたから、後で!」
「ああ~~」
父親の残念そうな声を背中に聞きながら二階へ上がる。
スマートフォンの画面を見ると、電話をかけてきたのはついさっき別れたばかりの英司だった。
「もしもし」
『樹、さっきの話でお前は精霊は本体から離れられない、って言ったよな』
樹は壁に背中をあずけてスマートフォンを耳にあてる。
「ああ」
『それはお前も同じなのか? お前は精霊なんだよな』
その通りだ。
あの猫の姿の精霊と同じように、樹も精霊なので本体である世界樹からは遠く離れられない。
『ということは、俺たちと違って異世界に必ず戻らないといけないのか』
「君達は一緒に来る必要はないよ。神様の召喚を待てばいい」
『一人で行くつもりなのか』
智輝や結菜は巻き込めないと思った。
天空神ラフテルを信じる彼らと樹は、一緒に行けない。
しかし、その件について、改めて彼らときちんと話をする必要があるかもしれないと、樹は思った。
「……異世界に戻る件は、おいおい話をしよう」
『そうだな』
電話を切る。
いつの間にか隣の部屋の扉が1センチ程度開いて、弟の青葉が隙間からジーっと樹を見ていた。樹が見返すと、扉がバタンと閉まる。樹は苦笑した。
その頃、智輝は電話で結菜と雑談に興じていた。
「なあー、結菜。次はいつ召喚されると思う?」
『分からないわよ、そんなのー』
自室で寝転んで、漫画本を開きながらの会話だ。
お互いリラックスしていて語尾も間延びしがちである。
「神様って、正義だよな」
『何、いきなり』
智輝は寝返りをうって天井を見上げた。
「あの時、樹は神様と戦おうとしてた……」
『……』
樹の事情は詳しく聞いていない。
智輝が知っているのは、樹が「僕は世界樹の精霊だ」と言っていたことだけ。
幼少の頃に異世界にいたことは何となく聞いていたが。
「神様は正義なのに、なんで樹は神様と戦おうとしてたんだ」
『それは……』
「神様も樹のことを敵みたいに……樹が何か悪いことをしたとか?」
地球に送還される間際、天空神ラフテルと樹が話していた内容は、智輝にはどうにも理解しにくい内容だった。死の精霊によれば、神は精霊を殺していたという。それを聞いて樹は天空神と対決する姿勢になった。
死の精霊が本当のことを言っていたなら、天空神は悪かもしれないと思う。
どちらが正しいか分からなくて、智輝は混乱していた。
「俺たち、今まで神様に色々頼まれて、異世界の人を助けてきたよな」
『うん。感謝されてたと思う』
「神様は善いことをしようとしてるんだよな。じゃあ、樹は悪なのか」
少し黙った後、結菜は思慮深くつぶやいた。
『どちらにも正義があるのかもしれない』
「結菜……?」
『私たち、あそこはゲームのような世界だと思ってた。けれど異世界も地球と同じで、単純に物事を善い悪いで分けられないのよ』
「それって……」
智輝が聞き返そうとした瞬間、『ソフィーちゃん、それは食べ物じゃない!』と声がして、ぶつっと電話が切れた。
結菜は電話をしながら、デパートで買ってきた惣菜をウサギ耳の少女と一緒につついていた。
「緑色の薄っぺらいのは紙の一種で、食べ物じゃないの!」
「違うんですか??」
ウサギ耳の少女はソフィーという名で、異世界から帰還する時に一緒にくっついてきてしまった。明るい金髪にアクアマリンの瞳の彼女は、黒瞳黒髪が多い日本人と並ぶと浮いてしまう。
ソフィーと生活するにあたって結菜が一番にしたことは、ウサギ耳が隠れるフード付きの上着を買うことだった。
「ふああぁ、美味しいですぅ」
食べ物に好き嫌いは無いらしく、ソフィーは何でも美味しそうに食べる。見ているこちらが幸せになりそうなくらいに。
「イツキと一緒にご飯が食べたかったです」
「本当に樹が好きなのね……」
結菜は苦笑した。
ソフィーは樹が好きだと隠さない。樹と離れるのは嫌だと、地球まで押し掛けたほどだ。
「ねえ、樹のどこが好きなの?」
「優しいところですぅ」
少女は頬を桃色に染めてウサギ耳を上下させた。
「確かに樹君は優しいわね」
「はい! あと意地悪なところも素敵です」
「意地悪?」
樹の意地悪なところが具体的に思い浮かばず、結菜は首をひねる。
「わざと私の前で一枚しか無いクッキーを食べたり、寝起きの私の顔に落書きをしたり」
「ええっ?! 樹君、そんな子供みたいなことをしてたの?」
「イツキは意外と悪戯好きですよ」
常に冷静で飄々としている樹しか知らない結菜は驚いた。
その時、スマートフォンが着信を知らせる振動を始める。
智輝からかと思ったが、違った。
話題の主である樹からだった。
メールには「明日の放課後に、ソフィーも一緒に会えないか」と書かれてあった。
「いいわよ、その代わりに店はこちらで指定させて……送信、と。樹君、おごってくれるよね」
結菜は密かに樹に特大パフェをおごらせようと画策する。
パティスリーの件は異世界召喚でうやむやになってしまっている。
そのリベンジも兼ねていた。
不思議そうにするソフィーに「何でもない。明日、樹くんと会えるよ」と伝える。大好きな樹に会えると聞いて、彼女は瞳を輝かせて喜色満面になった。
結局、話の続きは後日ということにして一旦解散となった。
樹が自宅に帰ると、両親が仕事から帰ってきてリビングでくつろいでいた。
両親の注目を浴びないように樹はそそくさと二階の自分の部屋に戻ろうとする。
階段に足を掛けたところで、リビングの両親に気付かれた。
「……樹? なんだ、帰ってきたの」
「ただいま」
素通りを諦めて樹は階段に立ったまま、リビングと壁越しの会話に応じる。
姿は見えないが両親はテーブルで夕食しながら雑談しているようだった。
「青葉に聞いたんだけど、何か話があるって?」
樹は父親の言葉にどきりとした。
「うん、また時間のある時に……」
「そうかー? 父さんはいつでも良いぞー。ついでに太古の浪漫について語らせてくれるなら」
「あなた、考古学の話なんて子供たちは興味ないわよ。眠くなるだけだから」
「面白いんだけどなー」
父親は文化センターで働く考古学者だ。
古い遺跡や古墳を発掘するのが仕事で、日本のあちこちを飛び回っている。
自分の仕事が好きな父親は暇があれば息子たちに邪馬台国の位置がどうの、前方後円墳の形状がどうのと長話をしたがった。巻き込まれると父親の話を聞かされるだけで、自分の話ができなくなる。
会話を切るタイミングを狙っていた樹だが、ポケットでスマートフォンが鳴動したので、これ幸いと階段を駆け上がった。
「ごめん、友達から電話がかかってきたから、後で!」
「ああ~~」
父親の残念そうな声を背中に聞きながら二階へ上がる。
スマートフォンの画面を見ると、電話をかけてきたのはついさっき別れたばかりの英司だった。
「もしもし」
『樹、さっきの話でお前は精霊は本体から離れられない、って言ったよな』
樹は壁に背中をあずけてスマートフォンを耳にあてる。
「ああ」
『それはお前も同じなのか? お前は精霊なんだよな』
その通りだ。
あの猫の姿の精霊と同じように、樹も精霊なので本体である世界樹からは遠く離れられない。
『ということは、俺たちと違って異世界に必ず戻らないといけないのか』
「君達は一緒に来る必要はないよ。神様の召喚を待てばいい」
『一人で行くつもりなのか』
智輝や結菜は巻き込めないと思った。
天空神ラフテルを信じる彼らと樹は、一緒に行けない。
しかし、その件について、改めて彼らときちんと話をする必要があるかもしれないと、樹は思った。
「……異世界に戻る件は、おいおい話をしよう」
『そうだな』
電話を切る。
いつの間にか隣の部屋の扉が1センチ程度開いて、弟の青葉が隙間からジーっと樹を見ていた。樹が見返すと、扉がバタンと閉まる。樹は苦笑した。
その頃、智輝は電話で結菜と雑談に興じていた。
「なあー、結菜。次はいつ召喚されると思う?」
『分からないわよ、そんなのー』
自室で寝転んで、漫画本を開きながらの会話だ。
お互いリラックスしていて語尾も間延びしがちである。
「神様って、正義だよな」
『何、いきなり』
智輝は寝返りをうって天井を見上げた。
「あの時、樹は神様と戦おうとしてた……」
『……』
樹の事情は詳しく聞いていない。
智輝が知っているのは、樹が「僕は世界樹の精霊だ」と言っていたことだけ。
幼少の頃に異世界にいたことは何となく聞いていたが。
「神様は正義なのに、なんで樹は神様と戦おうとしてたんだ」
『それは……』
「神様も樹のことを敵みたいに……樹が何か悪いことをしたとか?」
地球に送還される間際、天空神ラフテルと樹が話していた内容は、智輝にはどうにも理解しにくい内容だった。死の精霊によれば、神は精霊を殺していたという。それを聞いて樹は天空神と対決する姿勢になった。
死の精霊が本当のことを言っていたなら、天空神は悪かもしれないと思う。
どちらが正しいか分からなくて、智輝は混乱していた。
「俺たち、今まで神様に色々頼まれて、異世界の人を助けてきたよな」
『うん。感謝されてたと思う』
「神様は善いことをしようとしてるんだよな。じゃあ、樹は悪なのか」
少し黙った後、結菜は思慮深くつぶやいた。
『どちらにも正義があるのかもしれない』
「結菜……?」
『私たち、あそこはゲームのような世界だと思ってた。けれど異世界も地球と同じで、単純に物事を善い悪いで分けられないのよ』
「それって……」
智輝が聞き返そうとした瞬間、『ソフィーちゃん、それは食べ物じゃない!』と声がして、ぶつっと電話が切れた。
結菜は電話をしながら、デパートで買ってきた惣菜をウサギ耳の少女と一緒につついていた。
「緑色の薄っぺらいのは紙の一種で、食べ物じゃないの!」
「違うんですか??」
ウサギ耳の少女はソフィーという名で、異世界から帰還する時に一緒にくっついてきてしまった。明るい金髪にアクアマリンの瞳の彼女は、黒瞳黒髪が多い日本人と並ぶと浮いてしまう。
ソフィーと生活するにあたって結菜が一番にしたことは、ウサギ耳が隠れるフード付きの上着を買うことだった。
「ふああぁ、美味しいですぅ」
食べ物に好き嫌いは無いらしく、ソフィーは何でも美味しそうに食べる。見ているこちらが幸せになりそうなくらいに。
「イツキと一緒にご飯が食べたかったです」
「本当に樹が好きなのね……」
結菜は苦笑した。
ソフィーは樹が好きだと隠さない。樹と離れるのは嫌だと、地球まで押し掛けたほどだ。
「ねえ、樹のどこが好きなの?」
「優しいところですぅ」
少女は頬を桃色に染めてウサギ耳を上下させた。
「確かに樹君は優しいわね」
「はい! あと意地悪なところも素敵です」
「意地悪?」
樹の意地悪なところが具体的に思い浮かばず、結菜は首をひねる。
「わざと私の前で一枚しか無いクッキーを食べたり、寝起きの私の顔に落書きをしたり」
「ええっ?! 樹君、そんな子供みたいなことをしてたの?」
「イツキは意外と悪戯好きですよ」
常に冷静で飄々としている樹しか知らない結菜は驚いた。
その時、スマートフォンが着信を知らせる振動を始める。
智輝からかと思ったが、違った。
話題の主である樹からだった。
メールには「明日の放課後に、ソフィーも一緒に会えないか」と書かれてあった。
「いいわよ、その代わりに店はこちらで指定させて……送信、と。樹君、おごってくれるよね」
結菜は密かに樹に特大パフェをおごらせようと画策する。
パティスリーの件は異世界召喚でうやむやになってしまっている。
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【作者より、感謝を込めて】
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そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
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