幼馴染の勇者が一般人の僕をパーティーに入れようとするんですが

空色蜻蛉

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第七章

03 道に迷いました

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 いつの間にか、まともな木々が無くなって馬鹿でかいキノコばかりになっている。キノコは枯れた木を養分にすると聞いたことがあるが、いったいこの巨大キノコ達は何を養分にしているのだろう。

「メエー(食べられるかしら)」
「あっ、駄目だメリーさん、毒かもしれないから!」

 羊が手近なキノコをかじろうとするのを、リヒトは慌てて止めた。
 
「迷いました……」
「何だって?」

 不吉な言葉を聞いて、リヒトは思わず聞き返す。
 ソラリアは真顔で答えた。

「奥に入ると迷うという噂の妖精の森……噂は本当だったんですね」
「わざとだよね?! わざと入ったんだよね?!」
「これも神のお導き、ジラフに行く前に幻のキノコを収穫せよというお告げが」
「絶対に嘘だ」

 キノコに向かってじたばたするメリーさんを抱えながら、半眼でにらむと、ソラリアはケロっとした顔で首肯した。

「はい、嘘です」
「やっぱり」
「けれど迷ったのは本当です。先ほどから、私の鳥達が呼んでも来てくれません」
「鳥と道に迷う話の因果関係が掴めないんだけど」
「いつも鳥に道案内を頼んでいたので」
「地図を見て歩こうよ……」

 道理で、あまり地図やコンパスを見ずに歩いていた訳だ。

「……お困りのようだね」
「うわっ」

 第三者の声がして、リヒトは吃驚する。
 人の気配に敏感なリヒトなのに、声を掛けられるまで存在に気付かなかった。
 声の方向を見上げると、キノコの傘の上から緑色の巨大な芋虫がリヒト達を見下ろしていた。芋虫はシルクハットを被り、煙草をふかすための木製のパイプを口にくわえている。
 魔物の一種なのだろうか。人間ではなかったので、気配が掴みにくかったようだ。

「ごきげんよう、旅のお嬢さん、坊ちゃん。道に迷ったのかね」

 芋虫はくぐもった男性の声で話しかけてくる。
 魔物かもしれないが、今のところ友好的で会話が成立している。敵ではないと判断して、リヒトは芋虫を見上げ、道案内してくれるか聞いた。

「こんにちわ、芋虫のおじさん。もしかして、人里に出る道を知ってる?」
「知っているとも。その前に、長旅で疲れているだろう。私の家に来ないかね? ゆっくり休むといい」

 芋虫の誘いに、リヒトはどことなく嫌な感じを覚えた。
 迷っているとソラリアが先に答えた。

「ありがとうございます。行ってみましょう、リヒト」
「……反対。勝手に決めないでよ」
「リヒト?」

 きょとんとするソラリアにリヒトは人差し指を突きつける。
 ここ最近のソラリアの、はぐらかすような態度が気にくわない。

「寄り道は仕方ないとしても、寄り道し過ぎだよ。それに最近は見るのも食べるのもキノコばっかり。きっとメリーさんも草が食べたい筈だ!」
「メエエ(羊は食べられればキノコでもOKだよ)」
「ほら、メリーさんもそう言ってる!」

 リヒトと羊の意見は食い違っていたが、幸か不幸か、羊の鳴き声の意味を誰も理解していない。

「だいたい、羊さんに食べさせる草があるって話、あれは嘘だったの?」
「はい、嘘です。そう言わないとリヒトは付いて来てくれないでしょう」
「そんなの当然だろ! 嘘だったのか」
「……君達、私の話を聞いてる?」
 
 芋虫はキノコの傘の上で所在なさそうに佇んでいる。
 リヒトとソラリアは、芋虫を置いて口喧嘩を始めた。

「そんなにジラフに帰りたくないなら、中途半端なことは止めなよ」
「何ですって?!」
「逃げるなら徹底的に。そうじゃないなら、運命と戦うんだ」

 いつの間にか、キノコの森は静まり返っていた。
 芋虫は黙りこんで会話の行方を見守っている。

「そんなの……無理です」
「いつかも言った気がするけど、君を縛るのは君自身だよ、ソラリア」

 リヒトは静かに言って、空を見上げる。
 少年の紺色の瞳が空を映したような蒼に染まった。

「僕は人のいる場所が分かるから、そっちに向かうよ」
「一緒に来てくれないんですか……?」
「早くキノコの森から出たいんだ。僕は先に行く」

 冷たく言ったリヒトは、背を向けて一人で歩き出す。
 羊のメリーさんは二人を交互に見て、どっちに付いていくか迷っているようだ。足踏みした後、ソラリアに歩み寄った。

「いいんですか、メリーさん……?」
「メエエー(幻のキノコを食べてからリヒトを追いかけるの)」

 ソラリアは屈んでふわふわの羊毛を撫でた。
 羊の柔らかさに少し心癒される。
 キノコの上で様子を見ていた芋虫が声を掛けてきた。

「お嬢さんを私の家に案内しよう。それでいいかね?」
「はい、お願いします」

 ソラリアは浮かない顔で芋虫に案内を頼む。
 芋虫の案内のもと、彼女は羊と共にキノコの森の奥へ歩き始めた。



 
 一方、リヒトは羊のメリーさんが付いて来ない事に気付いていたが、そのまま歩みを進めた。
 正直、不安定なソラリアの事は気になっていた。
 ちょっと言い過ぎたかな……。
 無責任に煽るように言葉を重ね、喧嘩別れしたことを、リヒトは少しばかり後悔していた。
 だからメリーさんが彼女の側に残って、少し安心していた。ソラリアが危険な目にあっても、メリーさんなら何とかしてくれるだろう。
 キノコの森はどうやら人を惑わすような、魔法的な空間になっているようだ。リヒトの天魔は、妖精の森に漂う魔法的な気配を察知していた。天魔のスキル、心開眼ディスクローズアイをフル活用しながら、リヒトはキノコの森を足早に抜けた。

 人里に降りたリヒトは、手近な民家の扉をノックして、一夜の宿を貸して欲しいと頼む。
 民家の主らしい年配の女性は、快くリヒトを泊めてくれた。

「坊や、どこから来たのか知らないけど、妖精の森に入ってはいけないよ」

 女性はリヒトを見て心配そうに言った。

「あの森には芋虫の姿をした魔物がいてね。旅人を殺して食べてしまうんだよ」
「何だって……」

 リヒトは絶句した。
 女性の言葉が本当なら、芋虫に付いていったソラリアが危ない。
 本来の勇者のソラリアなら、魔物ごときに遅れを取らないだろう。だが最近の、勇者と一般人の間で揺れ動いているソラリアは……。
 戻るべきかどうするべきか、リヒトは考え込んだ。
 

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