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第三章 ハムスターと王子様

気付かれた?

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 私達が飾り付けた花を、試験官さん達は歩き回りながらじっくり鑑賞している。見ているだけじゃなくて食べればいいのに。
 その時、パン屋さんの表の通りが騒がしくなった。
 白馬の王子様の登場だ。

「殿下!」
「そのまま審査を続けてくれ。僕もすぐに次へ行くつもりだから」

 ペコペコ頭を下げる試験官を制して、王子様は月毛の馬から颯爽と降りる。うわー、生の白馬の王子様だあ。異世界すごいな。
 王子様は私が飾り付けた店に入ってくる。

「花の香りとパンの匂いが混じって、何とも言えぬ匂いがするな。腹が減ってくる」
「殿下、この娘は食べられる花や木の実を飾り付けにつかったそうでございます」
「ほう、変わっているな。しかし、控え目な花がパン屋の印象を殺さず、逆に盛り立てているようだ。良い花飾りじゃないか」
「仰る通りですね」

 なんだか受けてる。やったね!
 私はパン屋の旦那さんとハイタッチした。
 店内を見回した王子様の視線が、棚の上に飾られた木の実の上で止まる。

「あの木の実は確か……」

 王子様の視線の先を見て私はギクッとした。
 あれは、王子様のお見舞いに持って行った栄養満点の木の実だ。
 木の実を見ていた王子様がゆっくり視線を移動して私の方を見る。
 強い視線だ。
 ば、ばれた?!

「お花摘みに行ってきまーす」

 私は後退りしてお店の奥に逃げ込んだ。
 パンを焼いていたパン屋の奥さんが、逃げ込んできた私を見る。

「どうしたんだい?」
「ちょっと忘れ物して……裏口を通って裏通りから教会に戻ろうと思います」
「駄目だよ一人で行っちゃ!花選びの儀の期間中は外国人もいて、治安が良くないんだよ。特に年頃の娘さんは危ない。あの神官さんを呼んで来てあげるから、待ちなさい」
「いえ、大丈夫です」

 私みたいなぽっちゃり系平凡女子をどうこうする奴なんていないよ。
 大丈夫、大丈夫。
 止める奥さんを振り切って、裏口から外に出る。
 そのまま細い路地裏を早足で歩いて、アルジェンのいる教会へ行こうとした。
 薄暗い路地を歩いていると、目の前にガラの悪そうな男性が無言で立ちはだかる。

「……」

 立ち止まった途端、足音がして、後ろから酒臭い息を吹きかけられた。

「お嬢さん可愛いねえ。ちょっと俺達とお茶しない?」

 使い古された悪役の台詞だが、実際に自分に投げかけられるとビビるものだ。前門の虎、後門の狼。逃げ場を失った私は怯えて縮こまる。

 ハムスター、ぴーんち!!


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