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第三部 魔界探索
82 災厄魔の伝説
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話している間に、すっかり戦意が無くなったエンシェントタートル。
俺たちは和解することにした。
状況が落ち着いてくると、サナトリスは亀の足元を見て不安そうに言った。
「地下の墓地と人魚姫の涙はどうなっているだろう?」
「確かめてみるか」
動かないようエンシェントタートルに言い聞かせ、俺とサナトリスは里の秘密の階段から地下に降りた。
地下には、天然の鍾乳洞を利用した広大な墓地があった。
普段は出入口付近に照明があるそうだが、今回の一件で壊れてしまったため、墓地は暗闇に沈んでいる。
俺は魔法の明かりを手の先に灯して、辺りを見回した。
サナトリスによれば、人魚だけでなく蜥蜴族の墓地も兼ねているらしい。ところどころに墓と思われる土の盛り上がりがあり、文字が彫られた石柱が立っている。
石柱の向こうには、水が噴き出している場所があった。エンシェントタートルの起こした地震で、地盤が壊れて浸水しているようだ。
「あ、あそこに見えるのは、まさか?!」
突然、サナトリスが動揺した様子で奥に走っていった。
彼女は床に散らばった、ダイヤの欠片のような物体をつまみ上げて、悲鳴を上げる。
「人魚姫の涙が砕けてしまった!」
うーん。エンシェントタートルは正確に太い足で宝石を踏みつぶしたらしい。
せっかくの貴重な宝石が粉々だ。
「あああ……」
がっくり肩を落とすサナトリス。
俺は彼女の肩を軽く叩いた。
「ドンマイ。落ち込んでるところ悪いけど、この地下は貯水槽にするから」
「え?!」
蜥蜴族の遺品を運び出してもらった後、俺は水氷属性の魔法を使って、地下に水を満たした。火炎属性の魔法石を墓地に設置して、水が温まるようにする。
大地属性の魔法で土管を作り、重力操作で水を汲み上げれば、シャワーの一丁上がりだ。
エンシェントタートルの甲羅の上にシャワーを流す。
『温泉じゃー!』
亀は大層喜んだ。
「気に入ってもらえたか?」
『うむ。水に浄化の力を感じて良い感じじゃ』
砕けた人魚姫の涙の欠片の力かな。
『素晴らしい仕事じゃ。そなたには温泉の神の称号を与えよう』
「いらんわ!」
これ以上、ひとさまに言えない称号が増えてたまるかっての!
しかし受け取り拒否はできなかったらしい。
開いたステータスにはちゃっかり「温泉の神」が追加されている。
「また無駄な人助けをしてしまった……」
『災厄魔も温泉の神なら谷を通過することを許すじゃろうて。あやつらも温泉好きじゃからの』
「は? 爺さんは災厄魔じゃねえの?」
『ワシは只の亀じゃ』
なにぃ?!
ということは、災厄魔はもっとレベルが高くて手強いのか。
『創世記、まだ人も神も誕生していない虚無の世界に現れし、六元素。それすなわち六つの災厄なり。水災魔が目覚めれば大洪水が起き、火災魔が目覚めれば世界中の火山が噴火する。地災魔が目覚めれば地震で地形が変わり、天災魔が目覚めれば嵐が吹き荒れる。光災魔は灼熱の光線で全てを干上がらせ、闇災魔は星無き静寂をもたらす。汝、ゆめゆめ災厄を起こすべからず』
亀は朗々と伝承をそらんじた。
もはや倒す倒さないの次元じゃないし、モンスターとは言えない気がするが、気のせいか。
「……そんなヤバい奴らが、温泉好きなの?」
『温泉と、歌じゃな。谷底の一番深い場所で、子守唄を聞きながら、世界の始まりからずっと寝ておるのだ』
世界の始まりから……スケールの大きい話だな。
『起きて谷をうろついておるのは、ワシのようなちょっと強いモンスターじゃ。魔族はワシらまとめて災厄魔と呼んでおるようだが、真の災厄魔は谷底で眠っておる六体だけよ……いや、五体か。闇災魔は地上に解き放たれたようじゃな。確か人間はあれを黙示録獣
と呼んでおったか』
黙示録獣なら、俺が世界の狭間に封印したやつだ。
そうか、あいつは災厄魔の一種だったのか。
和やかにエンシェントタートルと話していると、俺の頭上の空中に光があふれ、中から白い竜が飛び出してきた。
「カナメーー!」
「リーシャンじゃないか。どうしたんだ、そんな慌てて」
そういえば俺は魔界に転移してくるまで、真たち地球の仲間とリーシャンと旅をしていたんだった。
「突然いなくなったから皆、心配してるよカナメ! どうして転移魔法でアダマスに引き返さなかったの?」
「神様業が面倒になって」
実は魔界から脱出する方法がひとつあって、荷物の送受のためにアダマス大聖堂に転移の魔法石を設置してあるので、そこに座標を設定して転移魔法を使えば良かった。
ちなみに俺は石に魔法を付与するスキルを有している。聖晶神の称号の効果で、魔法石の作成にはボーナスが付く。余談でした。
「カナメの友達の人間たちは、カナメを助けようと魔界に乗り込もうとしてるんだよ?!」
「そうか……俺は家出中だからエスケープして会わないようにしよう」
「うわあっ、どうしよう、カナメが呪いでやさぐれちゃったよー!!」
リーシャンがあたふたして頭上をくるくる回った。
事情を知らないエンシェントタートルは、俺たちをよそに「良い湯じゃなー」と、うとうと微睡んでいる。
家出なんてお茶目な冗談なのに、リーシャンのやつ大袈裟だなあ……と、思っていた俺だが、この後たっぷりリーシャンに怒られた。
俺たちは和解することにした。
状況が落ち着いてくると、サナトリスは亀の足元を見て不安そうに言った。
「地下の墓地と人魚姫の涙はどうなっているだろう?」
「確かめてみるか」
動かないようエンシェントタートルに言い聞かせ、俺とサナトリスは里の秘密の階段から地下に降りた。
地下には、天然の鍾乳洞を利用した広大な墓地があった。
普段は出入口付近に照明があるそうだが、今回の一件で壊れてしまったため、墓地は暗闇に沈んでいる。
俺は魔法の明かりを手の先に灯して、辺りを見回した。
サナトリスによれば、人魚だけでなく蜥蜴族の墓地も兼ねているらしい。ところどころに墓と思われる土の盛り上がりがあり、文字が彫られた石柱が立っている。
石柱の向こうには、水が噴き出している場所があった。エンシェントタートルの起こした地震で、地盤が壊れて浸水しているようだ。
「あ、あそこに見えるのは、まさか?!」
突然、サナトリスが動揺した様子で奥に走っていった。
彼女は床に散らばった、ダイヤの欠片のような物体をつまみ上げて、悲鳴を上げる。
「人魚姫の涙が砕けてしまった!」
うーん。エンシェントタートルは正確に太い足で宝石を踏みつぶしたらしい。
せっかくの貴重な宝石が粉々だ。
「あああ……」
がっくり肩を落とすサナトリス。
俺は彼女の肩を軽く叩いた。
「ドンマイ。落ち込んでるところ悪いけど、この地下は貯水槽にするから」
「え?!」
蜥蜴族の遺品を運び出してもらった後、俺は水氷属性の魔法を使って、地下に水を満たした。火炎属性の魔法石を墓地に設置して、水が温まるようにする。
大地属性の魔法で土管を作り、重力操作で水を汲み上げれば、シャワーの一丁上がりだ。
エンシェントタートルの甲羅の上にシャワーを流す。
『温泉じゃー!』
亀は大層喜んだ。
「気に入ってもらえたか?」
『うむ。水に浄化の力を感じて良い感じじゃ』
砕けた人魚姫の涙の欠片の力かな。
『素晴らしい仕事じゃ。そなたには温泉の神の称号を与えよう』
「いらんわ!」
これ以上、ひとさまに言えない称号が増えてたまるかっての!
しかし受け取り拒否はできなかったらしい。
開いたステータスにはちゃっかり「温泉の神」が追加されている。
「また無駄な人助けをしてしまった……」
『災厄魔も温泉の神なら谷を通過することを許すじゃろうて。あやつらも温泉好きじゃからの』
「は? 爺さんは災厄魔じゃねえの?」
『ワシは只の亀じゃ』
なにぃ?!
ということは、災厄魔はもっとレベルが高くて手強いのか。
『創世記、まだ人も神も誕生していない虚無の世界に現れし、六元素。それすなわち六つの災厄なり。水災魔が目覚めれば大洪水が起き、火災魔が目覚めれば世界中の火山が噴火する。地災魔が目覚めれば地震で地形が変わり、天災魔が目覚めれば嵐が吹き荒れる。光災魔は灼熱の光線で全てを干上がらせ、闇災魔は星無き静寂をもたらす。汝、ゆめゆめ災厄を起こすべからず』
亀は朗々と伝承をそらんじた。
もはや倒す倒さないの次元じゃないし、モンスターとは言えない気がするが、気のせいか。
「……そんなヤバい奴らが、温泉好きなの?」
『温泉と、歌じゃな。谷底の一番深い場所で、子守唄を聞きながら、世界の始まりからずっと寝ておるのだ』
世界の始まりから……スケールの大きい話だな。
『起きて谷をうろついておるのは、ワシのようなちょっと強いモンスターじゃ。魔族はワシらまとめて災厄魔と呼んでおるようだが、真の災厄魔は谷底で眠っておる六体だけよ……いや、五体か。闇災魔は地上に解き放たれたようじゃな。確か人間はあれを黙示録獣
と呼んでおったか』
黙示録獣なら、俺が世界の狭間に封印したやつだ。
そうか、あいつは災厄魔の一種だったのか。
和やかにエンシェントタートルと話していると、俺の頭上の空中に光があふれ、中から白い竜が飛び出してきた。
「カナメーー!」
「リーシャンじゃないか。どうしたんだ、そんな慌てて」
そういえば俺は魔界に転移してくるまで、真たち地球の仲間とリーシャンと旅をしていたんだった。
「突然いなくなったから皆、心配してるよカナメ! どうして転移魔法でアダマスに引き返さなかったの?」
「神様業が面倒になって」
実は魔界から脱出する方法がひとつあって、荷物の送受のためにアダマス大聖堂に転移の魔法石を設置してあるので、そこに座標を設定して転移魔法を使えば良かった。
ちなみに俺は石に魔法を付与するスキルを有している。聖晶神の称号の効果で、魔法石の作成にはボーナスが付く。余談でした。
「カナメの友達の人間たちは、カナメを助けようと魔界に乗り込もうとしてるんだよ?!」
「そうか……俺は家出中だからエスケープして会わないようにしよう」
「うわあっ、どうしよう、カナメが呪いでやさぐれちゃったよー!!」
リーシャンがあたふたして頭上をくるくる回った。
事情を知らないエンシェントタートルは、俺たちをよそに「良い湯じゃなー」と、うとうと微睡んでいる。
家出なんてお茶目な冗談なのに、リーシャンのやつ大袈裟だなあ……と、思っていた俺だが、この後たっぷりリーシャンに怒られた。
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