4 / 187
4.怪鳥
しおりを挟む「嘘だろぉ」
俺の声が、赤い砂漠に虚しく響く。
認めたくはないけど、目指して歩いていたあれは、小山なんかじゃなかったらしい。
日本人に馴染みのない広大な砂漠に盛り上がった小山のシルエットが、遠近感を狂わせていたのだろう。
想像より大きな山だとすると、はたして歩いていける距離なのだろうか。
歩いても歩いても近付けない山に、俺はぞっとした。
最初はまばらに自生している植物に、興味津々だった。
あちこちを観察しながら、俺はのんきに歩いていたのだ。
見たことのないサボテンのような肉厚な葉の多肉植物。菊に似た巨大な花を咲かせるヤシの木に似た低木。
どの植物も腰の高さまでくらいしかない。
そして枯れた色の雑草。
俺は教授のアトリエで見たエアプランツという植物を思い出し、慌てて頭を振った。
そんなことをしても記憶をふるい落とせるわけもなく、ただ乾いた砂が落ちた。
気を取り直して、切り立った岩に近付いて観察をする。
まるでバターナイフで切り取ったような柔らかな曲線を描く岩石や、犬歯のようにとがった岩。
ミルフィーユのように細かな赤の地層が重なった断面。
手で触ってもびくともしないくらい硬いのに、風で赤い砂をこぼしていた。
そしてそのどれもが、見上げるほど大きかった。
砂漠からにょきっと生えた岩石は、どこかモアイ像を彷彿とさせた。
何もないところから異質なものが生えでている不思議さが、似ているのかもしれない。モアイ像だって、実物を見たことはなかった。
初めて見るものが、こんなにも楽しい。
俺はこんな状況にもかかわらず、自分がわくわくしていると気付いた。
こんな気持ちにまだなれるのならば、海に飛びこむ前に、もっとあちこち行ってみるべきだったのかもしれない。
日本に戻れたら、それこそモアイ像だって見にいけるのだ。
前向きに考えよう。
何がどうなっているのかは分からないが、今こうして生きているのは、きっと幸運なのだから。
しかし、そうやってお気楽に歩いていられたのも、体感で三時間が限界だった。
「やばい。死ぬ。干からびて死ぬ。喉が、乾いた……」
どうやら歩きはじめたのは、あれでも朝方だったらしい。
ぎらぎら照りつける太陽が影を短くしていくにつれ、暑さが増していく。
乾燥した風が吹いているのが、せめてもの救いだ。日本みたいに湿気があって無風なら、もうとっくに倒れていただろう。
服の水分は乾ききり、流す汗も滲んだそばから蒸発して塩になっていく。
海水も塩になって、あちこち塩だらけだ。
こまめにカットに行くのが面倒だという理由で伸びた、中途半端な長さの俺の髪。
唯一まっすぐで指通りのよさだけが長所だった黒髪も、今では塩でバシバシだった。
とにかく風呂に入りたい。
それでも長袖を着ていたのは不幸中の幸いだった。
半袖なら、この強い日差しで火傷をしていたかもしれない。
俺は少しでも日陰を作ろうと上着を広げて、頭からかぶった。
足もとは赤い砂。
小さくなった自分の影。
俺はため息混じりに視線を上げた。
まだまだ大きさの変わらない山を見たとき、上空を飛ぶ生き物に気付いた。
「あ、鳥かな」
28
あなたにおすすめの小説
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!
鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。
この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。
界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。
そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
異世界転移しました。元天才魔術師との優雅なお茶会が仕事です。
渡辺 佐倉
BL
榊 俊哉はつまらないサラリーマンだった。
それがある日異世界に召喚されてしまった。
勇者を召喚するためのものだったらしいが榊はハズレだったらしい。
元の世界には帰れないと言われた榊が与えられた仕事が、事故で使い物にならなくなった元天才魔法使いの家庭教師という仕事だった。
家庭教師と言っても教えられることはなさそうだけれど、どうやら元天才に異世界の話をしてイマジネーションを復活させてほしいという事らしい。
知らない世界で、独りぼっち。他に仕事もなさそうな榊はその仕事をうけることにした。
(元)天才魔術師×転生者のお話です。
小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる