12 / 22
夏風邪
3:正二郎side
しおりを挟む
育海の部屋で煮込みうどんならぬ煮込みそうめん(にゅうめんと言うのだろうか)を一緒に食べた。食器と鍋を片付けている間に、育海は寝てしまったようだ。すぐには起きないだろうと、洗った食器類を自宅に戻しにいく。
そしてまた、育海の部屋に戻る。起こさないよう、静かにドアを開けた。
先ほどまでと様子が違う。ベッドを覗き込むと、うなされているようだった。すごい汗。
慌てて階下に引き返す。薬箱。冷却シートはない。タオルを借りて、冷水で絞った。体温計も持って部屋へ上がる。
濡れタオルを額に載せたところで、育海が目を覚ました。
「育、大丈夫?暑い?」
「ん……」
「熱は?」
「七度……」
「本当に?もっとありそうだけど。もう一回計ってごらん」
緩慢な動作で脇に体温計を挟む。電子音。小さな表示窓には、38.8と出ていた。
全然37度じゃない。上がっているじゃないか。
「薬飲んだんだよね?おかしいな。水飲める?」
これだけ汗をかいていたら、脱水にならないか心配だ。ペットボトルを渡すとゴクゴクと3分の1ほど飲んだ。
「気持ち悪い」
「吐きそう?」
「ううん、汗」
怠そうだが、着替えると言う。タンスからTシャツと短パンを適当に選んで出してやる。汗でまとわりついているせいか、苦戦した様子でなんとか着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。
「ほら、これ使いな」
額から外していた濡れタオルを渡す。のそのそと首回りと脇のあたりに当てたかと思うと、ポトリと布団の上に落とした。全然拭けていない。
「貸して」
背中。腕。胸、腹。汗で光る肌の上にタオルを滑らせる。
苦しいのだろう。荒い呼吸。育海は目を伏せてじっとしていた。
「はい。下は自分でやりな」
「もういい」
自力で新しいTシャツを被り、ベッドに倒れ込んだ。タオルケットを肩まで掛けてやる。
「正くん……」
「ん?」
熱に浮かされ、焦点の定まらない目。ゆっくりとこちらを向いた。
「馬鹿って言ってごめんね」
「いいよ」
昨日の話だ。
俺が馬鹿なことなんて、俺が一番よく知っている。育海に言われても、そのとおりとしか言えない。
「正くん」
「何?」
「好き」
「なんだ、急に素直になって」
思わず笑ってしまう。昨日は馬鹿で、今日は好きか。
まあ、それだけ弱っているのだろう。
育海は昔からそうだ。普段は気丈に振る舞っていて。両親が不在がちでも、うるさい親がいなくてラッキー、といつも言っていた。
でもふとしたときに、こうやって弱い本音を漏らすのだ。寝言で何度「ママ」と呼ぶのを聞いたことか。
懐かしい記憶に、フッ、と目を細める。あの頃のように頭を撫でてやると、力が抜けたように瞼を閉じた。
「俺はここにいるから。安心して寝てな」
「ん……」
本当は寂しがり屋の育海。東京で一人でやれているのだろうか。こんな風に体調を崩したとき、頼れる相手はいるのだろうか。
そしてまた、育海の部屋に戻る。起こさないよう、静かにドアを開けた。
先ほどまでと様子が違う。ベッドを覗き込むと、うなされているようだった。すごい汗。
慌てて階下に引き返す。薬箱。冷却シートはない。タオルを借りて、冷水で絞った。体温計も持って部屋へ上がる。
濡れタオルを額に載せたところで、育海が目を覚ました。
「育、大丈夫?暑い?」
「ん……」
「熱は?」
「七度……」
「本当に?もっとありそうだけど。もう一回計ってごらん」
緩慢な動作で脇に体温計を挟む。電子音。小さな表示窓には、38.8と出ていた。
全然37度じゃない。上がっているじゃないか。
「薬飲んだんだよね?おかしいな。水飲める?」
これだけ汗をかいていたら、脱水にならないか心配だ。ペットボトルを渡すとゴクゴクと3分の1ほど飲んだ。
「気持ち悪い」
「吐きそう?」
「ううん、汗」
怠そうだが、着替えると言う。タンスからTシャツと短パンを適当に選んで出してやる。汗でまとわりついているせいか、苦戦した様子でなんとか着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。
「ほら、これ使いな」
額から外していた濡れタオルを渡す。のそのそと首回りと脇のあたりに当てたかと思うと、ポトリと布団の上に落とした。全然拭けていない。
「貸して」
背中。腕。胸、腹。汗で光る肌の上にタオルを滑らせる。
苦しいのだろう。荒い呼吸。育海は目を伏せてじっとしていた。
「はい。下は自分でやりな」
「もういい」
自力で新しいTシャツを被り、ベッドに倒れ込んだ。タオルケットを肩まで掛けてやる。
「正くん……」
「ん?」
熱に浮かされ、焦点の定まらない目。ゆっくりとこちらを向いた。
「馬鹿って言ってごめんね」
「いいよ」
昨日の話だ。
俺が馬鹿なことなんて、俺が一番よく知っている。育海に言われても、そのとおりとしか言えない。
「正くん」
「何?」
「好き」
「なんだ、急に素直になって」
思わず笑ってしまう。昨日は馬鹿で、今日は好きか。
まあ、それだけ弱っているのだろう。
育海は昔からそうだ。普段は気丈に振る舞っていて。両親が不在がちでも、うるさい親がいなくてラッキー、といつも言っていた。
でもふとしたときに、こうやって弱い本音を漏らすのだ。寝言で何度「ママ」と呼ぶのを聞いたことか。
懐かしい記憶に、フッ、と目を細める。あの頃のように頭を撫でてやると、力が抜けたように瞼を閉じた。
「俺はここにいるから。安心して寝てな」
「ん……」
本当は寂しがり屋の育海。東京で一人でやれているのだろうか。こんな風に体調を崩したとき、頼れる相手はいるのだろうか。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
14
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる