金糸雀(カナリア)は愛に哭く〜王太子α×獣人ペットΩ〜

甘い熱

「ねぇ、レイ。
その唇は誰のもの？」






　僕の許可なく傷つけることは
許さないよ。












「！？」





　部屋の扉が開いた音すら、しなかった。
もしかして幻聴？



会いたくて、会いたくて
僕の頭がおかしくなったのか？






「ノエル兄様、いつ、入って……？」




「あぁ、やっぱり……血が出てる。」




 ネオ様の驚いた声に被せるように
聞こえた声はやっぱり






「ノエル……さ、ま……？」




聞き間違える筈のない……声で。






ゆっくり目を開けた視界には





「……随分と唆る格好してるね？」




　押し倒された僕のすぐ真横。


ベッドに腰を付いたまま、にこりと微笑む
ノエル様がいた。






「……さすがですね、気配さえ消せるなんて。」



　はあっと息を突いて、僕の上からゆっくりと
身体を退かしたネオ様の方を



一瞥すらせずに。





「……10秒あげる。
この子の視界から消えて。」




呆然とする僕の金髪をゆっくりと撫でながら




「……1秒でも遅れたら、消し炭にする。」




言い放った言葉。



……ざわりと大気が揺れる感覚。
ノエル様の魔力だ。








　ネオ様は、一歩下がると
両手を上げて





「……失礼しました。
父様との誓いは守ります。

ノエル兄様を怒らせたら
魔王が現れるそうですから。」



　騎士らしく膝を付いてお辞儀した。




大人しく窓に向かい、部屋を出ようとする
ネオ様の背中に





「あ、言い忘れたけど。

これからもレイの部屋の
窓は開けて置いてあげる。」




「！」




「いつでも覗いていいよ？


毎日、愛し合う僕らの姿を……
指を咥えて、見ていたいならね。」




「……！？」




　クスクスと悪戯に笑うノエル様に
ネオ様の肩が震える。


一度振り返ってきつくこちらを一瞥したネオ様の瞳は赤く、燃えているようだった。






「ノ、ノエル様……」



　その言い方は……色々と、ネオ様に失礼じゃないかな。そんなのネオ様が見たいわけ…ないし。






「……お気遣い感謝します、お兄様。

では、代わりにお兄様が忙しい時はいつでも
俺が可愛いペットの世話をしますよ。」





「……10秒経ったね。」





「！」






パチン！と指を鳴らしたノエル様に
窓枠がボウッと音を立てて燃え上がる。





さっきの黒豹の姿になったネオ様は
その炎をかいくぐり


音もなくしなやかな身体を捩らせると
窓の外にスルリと出ていってしまった。





「………」




　静まり返った2人きりの部屋。



ノエル様が小さくため息を付いたと同時に窓枠の炎がジュウと音を立てて消えた。




「あの、ノエル様、何で……？
ロザリア様は……？」


「……レイ。」


「はい……っ、ん！？」




　返事をするのと同時に突然唇を奪われた。目を閉じるのも忘れる。




「！」



切れた唇を、滑り込んだ
舌先でゆっくりと舐められると




「んぅ、ッ」



ピリッと小さな痛みが走った。



でも、……どうして？
さっきまでの血生臭い口の中が


今は飴玉を転がすように
甘ったるくて



「は、……あぅ、ん」



ふわふわと、溶けるように熱を増す。



ノエル様、どうして来てくれたの？


ロザリア様は？


どうして僕に……キス、するの？




頭の中にとめどなく疑問が浮かんで混乱しているのに。




「ふ、……ぅ、ん、ノエルさま」


ふわふわ甘くて、気持ち良い唇の感覚に
……どうだって良くなる。



ノエル様が僕に触れる


それだけで不思議と安心して
胸がいっぱいになる。




やっぱり僕は
ノエル様のことが……。




涙が一筋頰を伝って落ちる前に


ギュッと必死に腕を回して
しがみついた。