いじめられ勇者が世界を救う!?〜双子のいじめられっ子が転生した先で亡国の女王を助け、世界を救うと言うありふれた話〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
44 / 106
第一部 四章 女王陛下の騎士たち

ブレーメレの街のデス・ドーム パート2

しおりを挟む
一行は不穏な夜を過ごしていた。ガラドリエルは僅かな光の中で目を瞑っており、瞑想状態に入っていた。目を閉じる事によって、精神統一を図っているのだろう。ガラドリエルの護衛騎士、ガートルードは部屋の中で明日の決闘に備えて、ずっと剣を磨いていた。黒いローブの魔道士、ユーノは薄暗い明かりの下で読書をしていた。ディリオニスは今日の日の失態を悔やみながら、自分の両脚の下に顔を埋めていた。そんな兄の背中を双子の妹は優しくさすっていた。
「ぼくは本当に馬鹿だよ。あんなチンピラ共の先導に従って、陛下の乗る馬車をこんな場所にまで進めさせてしまうなんて……」
「お兄ちゃん、大丈夫だよ!失敗は誰にでもあるってーー」
「そうやって、ずっと落ち込ませておけば良いッ!此奴の罪はまだ許されておらぬのだからなッ!」
ガラドリエルはマートニアの言葉が発せられるのと同時に言葉を被せ、自身の怒りをぶつけた。
ディリオニスは目に涙を浮かべ、体を突っ伏して泣き続けた。
マートニアは泣き続ける兄の背中をさすっている。マートニアの優しい声が今のディリオニスは返って傷付いてしまう。
心臓を尖った物でチクチクと突かれている気分だ。ディリオニスは涙声で、
「ねぇ、ぼくの罪……早く許されないかな?」
兄の顔に悲哀の色が浮かぶ。妹としての肉親としての情と恋人としての奇妙な連帯感を帯びた様子で、
「お兄ちゃん……大丈夫だよ。明日の決闘にはあたしも一緒だから!」
妹は優しく兄の体を抱擁した。ディリオニスは最愛の人間に体を抱き着かれると、心が熱くなっていく。胸いっぱいの愛とでも言うのだろうか。
ディリオニスは妹の頬に優しく接吻を与えて、彼女の両肩を持って、彼女の目を優しく見つめて、
「うん、ありがとう。思えば、お前とはずっと一緒だったね。ずっと昔から……」
優しく抱き合う双子の兄妹をガラドリエルは細い目で見つめていた。






あの時間から大勢の時間が経ったのだろう。二人は長い間、お互いを見つめ合っていたに違いない。ガートルードやユーノ。それに、ガラドリエルを守る三匹のドラゴンは目蓋を閉じて夢の世界へと旅立っていた。だが、自分たちの主人である女王は眠っているのかどうかは分からない。馬車にもたれかかって目を閉じているのはだけは理解できた。ディリオニスは自身の横に座るマートニアに小さな声で囁く。
「なぁ、思い出さないか?一昔前のキャンプの事」
不意に語り掛けた兄の言葉に、マートニアは一瞬面食らった表情を浮かべたが、彼女は直ぐに幼い頃に体験したキャンプの出来事を思い出す。
「そうね。あの時は遅くまでお友達と話していて、担任の先生に怒られたっけ」
ディリオニスは最愛の妹の横顔を一瞥する。彼女は幼き日の思い出に向けて無邪気な笑顔を向けていた。何とも可愛らしい、新鮮なみずみずしい薔薇のように愛らしい笑顔。ディリオニスはこの笑顔を守るためなら、どんな事でもすると改めて心に誓う。
と、ここで兄の真剣な顔が気になったのだろう。マートニアは思い出話の続きを語っていく。
「その後にね、お兄ちゃんが先生に向かって『今から、寝ます!』ってすっごく慌てた表情をしたのをあたし、すっごくハッキリと覚えているよ!」
妹の言葉にディリオニスは幼き日の思い出を掘り出され、照れ隠しに頭をかく。
次に彼女が語り始めたのは、小学校の頃の思い出。次に中学校の頃の思い出。妹が出来た時の思い出。どれも、二人にとってはかけがえないの大切な日々だ。
最後に二人は妹と共に初めて出かけた日の事を互いに語り合う。双方の異なる視点で描かれる家族との思い出はより一層鮮明に彼らの頭の中に思い出されていく。
幼い妹の手を握って、三人で一緒に海を見た思い出を語り終えると、二人の間に眠気が襲い、ディリオニスはその場に寝転ぶ。そして、そのまま寝息を立て夢の世界へと向かう。
マートニアも馬車を枕にもたれかかって、夢の世界へと旅立とうするが、上手くはいかない。マートニアがハッキリと開いた目を閉じれずに、体をゴロゴロと動かしていると、目の前に長い金髪をたなびかせた白いドレスの美女が現れた。
マートニアは中途半端に襲われた眠気のために、咄嗟に目の前の人間の人物が分からなかったが、その後に彼女の発した澄んだ声でようやく目の前の人物が誰かを理解した。
「陛下、どうしたんですか?こんな時間に?」
「なぁに、私も眠れなくてね。少し暇潰しのための話し相手を探していただけの事さ」
ガラドリエルは口元にいたずらっぽい微笑を浮かべ、
「なぁ、お前たち二人の思い出話とやらを少し聞かせてもらないか?目を瞑って聞いているうちに、私も興味が湧いてきた」
「……。お兄ちゃんに今日の事を詫びてもらうんだったら、話すのを考えますけど……」
マートニアは頬を膨らませて言った。だが、ガラドリエルは寛大な微笑を浮かべてみせ、更に彼女の胸に希望を抱かせる言葉まで付け加えてやる。
「私の厳しい処置については、私は間違っていないと思うから、謝らんぞ、女王として粗相を起こした部下に処罰を与えない訳にはいかないからな、だが、ディリオニスには分かってもらうつもりだ。彼奴は私が信頼する騎士だからな」
最後の言葉にマートニアは目を輝かせた。
「そうですよね!お兄ちゃんは信頼する騎士なんですよね!良かった!」
安堵の顔を浮かべるマートニアの顔が今日のガラドリエルには無性に愛おしく思えた。
彼女は口元の右端を吊り上げると、
「では、お主の兄の事が分かった処で、教えてくれるな?二人の思い出を」
マートニアは両手の拳を握り、ガラドリエルに自身の思い出を語っていく。
二人で一緒に学校に入学した事。幼稚園や小学校の喧嘩では彼女が一番強かった事。中学校の頃に妹や家族と一緒に様々な場所に出掛けた事。高校受験の時にお互いに協力し合って、頑張った事。
全ての思い出にガラドリエルは満足な微笑みを浮かべていた。
彼女が話を終えると、ガラドリエルは礼を述べ、再び目を瞑り始めた。
マートニアは彼女が高校に入学した直後の事は聞かなかった事を思い返し、改めて自らの主人の寛容さに感謝した。
そして、マートニアは暗い部屋の中で考えた。何故、この女王が自分たちが死ぬ前に自分たちの目の前に現れなかったのかと。そうすれば、憎むべきあいつらは今頃……。マートニアは自分の爪が掌に食い込んでいる事に気付く。マートニアは過ぎ去った事は戻らないと言い聞かせ、自らも目蓋を閉じる。後は闇だけが彼女の視界を覆う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

処理中です...