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呆れた親父と笑わない俺

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「『妻が浮気して家を出ていき、残った一人娘を育てられない』」
「『このお金は将来、娘と私の親子二人で働いて返します』」
俺もロージーも親父が棚の引き出しに隠していた紙を見て、思わず絶句してしまう。
俺はこの紙を見て、お袋が中々、姿を見せないと思っていたら、家を出て行っていた事と、無心に使った手紙の枚数とを知った。
しかも、無心先は隣国の貴族ばかりじゃあないか。
俺は側で目の色をなくした親父の首元を掴み、大きな声で問い詰める。
「おい、これはどういう事じゃ?これは、いつの時の話なんじゃ?」
「お、お前がまだ幼い時の話だよ……あの時は妻のバーバラが出て行ったばかりで、慌ててーー」
「その金はもう返したんじゃろうなぁ?返す宛もないのに、借りるってのは仁義に違反するとは思わんかいのぅ?」
親父は顔から滝の様な汗を流し、ブルブルと唇を震わせている。
どうやら、このどうしようもない親父は公金横領の次は、無心に手を染めたらしい。
もう縁を切って出て行った方が良いのではないだろうか。貴族ではなくなるだろうが、親父のとばっちりで、酷い目に遭うよりはマシだ。
このままでは、サミュエル王子に断罪される時に俺が一緒に捕まる理由が公金横領から、借金未払いに代わるだけではないか。
俺は親父に先程の一座を雇った金の事も尋ねる。同時に、なぜ逃げ出そうとしたのかも。
すると、親父は重そうな黒い箱を取り出し、小さな声で告げた。
「これはな、俺が自分の使う金を削って貯めた金なんだ。今日のパーティーの代金や一座の金もここから出した。お前のために貯めた金だ。お前が、学園を卒業したら、渡そうと思ってな」
成る程、そういう理由だったのか。俺は納得した顔を浮かべていたのだが、ロージーは身を乗り出して、
「お待ちなさいな。確かに、立派な話ですけれども、無心した金を返さなければ、ただのクズになりますわよ。早く、この金で返しなさいな。証文を見ましたけれど、全て少額でしょう?なら、この金で十分に全額返せますわ。私が預かります。出しなさい」
「お、お待ちください。それは、娘のための金でーー」
「早う返せと習わんかったんかいのぅ?金はまた貯めればええじゃろ?わしはその後で金を受け取ればええ」
広島弁で凄まれては、親父も返すしかなかったのだろう。親父は泣く泣く金庫を差し出す。
イカサマチンチロがバレて、主人公に金を渡す狸の腹をした班長の様に。
イカサマ麻雀がバレ、主人公と自分の上の会社の上役の息子に金を渡す、闇金の社長の様に。
俺はその様が哀れに感じたものの、今回は金を無心した親父に非があるので、何も言わずに放っておく。
過去の膿のために、俺も親父も断罪されたくないからな。
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