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第一章 聖女の誕生と異端審問
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「いっ!?痛ぁー!」
薄闇の中、エレナは意識を取り戻す。
目が慣れてくると、冷たい床の上に、手足を縛られて転がされているという事が分かった。
特に、手首に食い込んだ荒縄の痛みが強く、無理に解こうと動かすと、擦れて激痛が走った。
「ここ、どこなの?」
普段は強気の彼女だが、こんな状態では流石に悪態を吐く気力すら起きない。
(誰か、助けて!)
心細さを感じ、助けを求めて視線を彷徨わせるが、途中で諦めて力を抜いた。
(一体誰が助けてくれるってぇ?家族とか?そんなのアタシには居ないじゃない)
自嘲して、天井を見上げる。
(友達?そんなの作ったことないし!神父さま?ハッ!今ごろ食い扶持が減って喜んでるっつーの。むしろ、居ないことにも気付いてないんじゃない?)
「あーあ、むしろ拐われてなんの損があるんだろ?」
孤児院では家畜同然の扱いだった。
それ以下の生活を送るということはないだろう。
先のことを考えていると、二種類の靴音が聞こえてくる。
一つは女性もののヒール、もう一つは男性ものの革靴の男だ。
薄ら会話も聞こえてくる。
「流石、僕の愛しのミレーユ。ちゃんと聖女を連れてきてくれたんだね!愛しているよ」
「あぁん、私も貴方が好きよぉ。ご褒美にっ、ね?いいでしょお?」
「待っていて、先ずは我らが聖女サマを見てから、お礼はたっぷりするよ。ーー朝までしっとり、ね」
(ミレーユって、あの貴族の化粧ブス?あの女が、男のためにアタシを拐ったんだ…でも、なんのため?聖女って何?)
疑問に駆られているうちに、錠が外れる音に続いて、扉が開く音がする。
革靴の男が部屋に入ってきた。
「やあ、君、気分はどうだい?」
「は?最悪よ、当たり前でしょ。腕は痛いし、床で寝かされるとか不愉快っ…?!」
喋り終わる前に、頬から頭へと激痛が走る。
男の靴に踏みつけられたのだ。
「言葉には気を付けないとね、聖女サマ?」
無理に首を捻って男の顔を睨み付ける。
水色のストレートヘアと同じ色の瞳、右の目元に泣きぼくろ、ミレーユが絆されるのも理解できる、妖艶な美形だ。
貼り付けたような笑顔から1ミリも表情を動かさず、エレンを見おろしている。
「君にお願いがあるんだけど、君の魔法でコレを浄化してくれない?やってくれるならこの足を退けてあげるよ」
男は、懐から取り出した箱をエレンの目の前に放る。
「え?なんで浄化?アタシそんなのできないんですケド…」
「なんだって?冗談でも言っているのかな?」
ぐぃっと、足にかける力が強まって、エレンは苦悶の表情で慌てて続ける。
「だって、アタシ水属性だもん。スキルもまだウォーターボールしか持ってないし」
「はぁっ?」
理解できないという顔で、男は苛立たしげにエレンに問いかける。
「君は聖神の愛し子、名前は…ああそう、マリアじゃないと?双子の兄がいて」
「それ、私が部屋から追い出したヤツらじゃない!?あの妹の方と間違えられたワケ?冗談じゃない!!」
「冗談じゃない!なのはこちらだよ。君のせいで偽物をつかまされた!」
クソ!クソォ!と声を発して、男はその度にエレンの頬に足を踏み落とした。
(ヤバっ、アタシこのまま踏み殺される?)
意識が遠のく、こんな時でさえ涙は一粒も出てこなかった。
ミレーユ令嬢の部屋に訪れるも、既にもぬけの殻になっていた。
「ベッドもティーセットも使われた様子がないな」
アドリアノが部屋の様子を探り、肩を揺らした。
夕食の際、食堂にも顔を見せなかったという事だから、その前にはここを去っていると言うことだろう。
どこに行ったのか、手がかりすら掴めずに次の手を探して、カメリアが押し黙る。
その時、胸にアンセイルの紋章の刺繍が施された、制服の男が声を発した。
「巡礼官殿にご報告申し上げます!」
「警備隊の方ですね?」
カメリアは顔を上げると、警備兵は名乗る。
「はい!西地区の警備兵長、ロイと申します。我らの管内で、仰っていたような不審な馬車を見かけました」
日中に双子から孤児院の状況を聞いていたカメリアは、下調べとして街で聞き込みを行なった。
奴隷制度が禁止されて、既に10年近くが経つが、未だに制度の復活を望む声も聞かれる。
この街でもまだ、人身売買が続いているのではないかと、それとなく探りを入れたのだ。
それと共に、警備隊へも連絡を入れた。
荷台を幌で覆った見慣れない馬車や、大量に子供を連れた商人などいた場合は連絡をよこすように伝えていた。
「ロイ殿、大変なことになった!ミレーユ嬢と、孤児院のエレンという子供が拐われたらしい。もしかすると、その怪しい馬車に彼女らが乗っていたかも知れない」
「なんと!それは本当ですか?!」
ロイはカメリアの発言に驚き、目を見開いた。
「え?ミレーユって人は、はんに…」
「マリア、大人に任せような?なっ?」
ロッテンは咄嗟にマリアの口元を抑えて黙らせる。
孤児一人が行方不明というより、領主の娘が拐われたと言った方が、大人の本気度が上がる。
それに、人身売買に領主の子女が関わっているとなれば、探したふりをして未解決で終わる可能性だってあるのだ。
時には、真実を伏せた方が円滑に問題が解決することを、ロッテンは既に知っていた。
「では、我々は至急、西地区の兵を動かします!貴女方は…」
「ここで待っていますよ、これはこちらの街の事件ですからね」
「はっ!では失礼!」
敬礼を一つ、ロイはそのまま走り去った。
「無事だと良いね…」
「マリアは優しいんだね、いいこ、いいこ」
カメリアはようやく微笑みを取り戻してマリアの頭を優しく撫でた。
薄闇の中、エレナは意識を取り戻す。
目が慣れてくると、冷たい床の上に、手足を縛られて転がされているという事が分かった。
特に、手首に食い込んだ荒縄の痛みが強く、無理に解こうと動かすと、擦れて激痛が走った。
「ここ、どこなの?」
普段は強気の彼女だが、こんな状態では流石に悪態を吐く気力すら起きない。
(誰か、助けて!)
心細さを感じ、助けを求めて視線を彷徨わせるが、途中で諦めて力を抜いた。
(一体誰が助けてくれるってぇ?家族とか?そんなのアタシには居ないじゃない)
自嘲して、天井を見上げる。
(友達?そんなの作ったことないし!神父さま?ハッ!今ごろ食い扶持が減って喜んでるっつーの。むしろ、居ないことにも気付いてないんじゃない?)
「あーあ、むしろ拐われてなんの損があるんだろ?」
孤児院では家畜同然の扱いだった。
それ以下の生活を送るということはないだろう。
先のことを考えていると、二種類の靴音が聞こえてくる。
一つは女性もののヒール、もう一つは男性ものの革靴の男だ。
薄ら会話も聞こえてくる。
「流石、僕の愛しのミレーユ。ちゃんと聖女を連れてきてくれたんだね!愛しているよ」
「あぁん、私も貴方が好きよぉ。ご褒美にっ、ね?いいでしょお?」
「待っていて、先ずは我らが聖女サマを見てから、お礼はたっぷりするよ。ーー朝までしっとり、ね」
(ミレーユって、あの貴族の化粧ブス?あの女が、男のためにアタシを拐ったんだ…でも、なんのため?聖女って何?)
疑問に駆られているうちに、錠が外れる音に続いて、扉が開く音がする。
革靴の男が部屋に入ってきた。
「やあ、君、気分はどうだい?」
「は?最悪よ、当たり前でしょ。腕は痛いし、床で寝かされるとか不愉快っ…?!」
喋り終わる前に、頬から頭へと激痛が走る。
男の靴に踏みつけられたのだ。
「言葉には気を付けないとね、聖女サマ?」
無理に首を捻って男の顔を睨み付ける。
水色のストレートヘアと同じ色の瞳、右の目元に泣きぼくろ、ミレーユが絆されるのも理解できる、妖艶な美形だ。
貼り付けたような笑顔から1ミリも表情を動かさず、エレンを見おろしている。
「君にお願いがあるんだけど、君の魔法でコレを浄化してくれない?やってくれるならこの足を退けてあげるよ」
男は、懐から取り出した箱をエレンの目の前に放る。
「え?なんで浄化?アタシそんなのできないんですケド…」
「なんだって?冗談でも言っているのかな?」
ぐぃっと、足にかける力が強まって、エレンは苦悶の表情で慌てて続ける。
「だって、アタシ水属性だもん。スキルもまだウォーターボールしか持ってないし」
「はぁっ?」
理解できないという顔で、男は苛立たしげにエレンに問いかける。
「君は聖神の愛し子、名前は…ああそう、マリアじゃないと?双子の兄がいて」
「それ、私が部屋から追い出したヤツらじゃない!?あの妹の方と間違えられたワケ?冗談じゃない!!」
「冗談じゃない!なのはこちらだよ。君のせいで偽物をつかまされた!」
クソ!クソォ!と声を発して、男はその度にエレンの頬に足を踏み落とした。
(ヤバっ、アタシこのまま踏み殺される?)
意識が遠のく、こんな時でさえ涙は一粒も出てこなかった。
ミレーユ令嬢の部屋に訪れるも、既にもぬけの殻になっていた。
「ベッドもティーセットも使われた様子がないな」
アドリアノが部屋の様子を探り、肩を揺らした。
夕食の際、食堂にも顔を見せなかったという事だから、その前にはここを去っていると言うことだろう。
どこに行ったのか、手がかりすら掴めずに次の手を探して、カメリアが押し黙る。
その時、胸にアンセイルの紋章の刺繍が施された、制服の男が声を発した。
「巡礼官殿にご報告申し上げます!」
「警備隊の方ですね?」
カメリアは顔を上げると、警備兵は名乗る。
「はい!西地区の警備兵長、ロイと申します。我らの管内で、仰っていたような不審な馬車を見かけました」
日中に双子から孤児院の状況を聞いていたカメリアは、下調べとして街で聞き込みを行なった。
奴隷制度が禁止されて、既に10年近くが経つが、未だに制度の復活を望む声も聞かれる。
この街でもまだ、人身売買が続いているのではないかと、それとなく探りを入れたのだ。
それと共に、警備隊へも連絡を入れた。
荷台を幌で覆った見慣れない馬車や、大量に子供を連れた商人などいた場合は連絡をよこすように伝えていた。
「ロイ殿、大変なことになった!ミレーユ嬢と、孤児院のエレンという子供が拐われたらしい。もしかすると、その怪しい馬車に彼女らが乗っていたかも知れない」
「なんと!それは本当ですか?!」
ロイはカメリアの発言に驚き、目を見開いた。
「え?ミレーユって人は、はんに…」
「マリア、大人に任せような?なっ?」
ロッテンは咄嗟にマリアの口元を抑えて黙らせる。
孤児一人が行方不明というより、領主の娘が拐われたと言った方が、大人の本気度が上がる。
それに、人身売買に領主の子女が関わっているとなれば、探したふりをして未解決で終わる可能性だってあるのだ。
時には、真実を伏せた方が円滑に問題が解決することを、ロッテンは既に知っていた。
「では、我々は至急、西地区の兵を動かします!貴女方は…」
「ここで待っていますよ、これはこちらの街の事件ですからね」
「はっ!では失礼!」
敬礼を一つ、ロイはそのまま走り去った。
「無事だと良いね…」
「マリアは優しいんだね、いいこ、いいこ」
カメリアはようやく微笑みを取り戻してマリアの頭を優しく撫でた。
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