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28. 真実

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「問題は」
 早川暉隆は、人差し指を立てた。三丁目公園は昨日の朝訪れた時とは大違いで、今日は晴天の上気温が高い。
「問題は、おまえの初恋を中山弟に言うか否か、おまえはそれが気になってるんだよな?」
「うん……」
「中山ってそんなにいい奴だったんだな。おまえの初恋を応援するって。俺、あんま話したことないから知らなかった。つかおまえ、中山と秘密裏にダチだったなんて、俺にまで隠すなよ」
 俺はパッと顔を上げて、
「いや、本当にそれが条件だったんだよ。あいつは中学の頃の事情があって、今みたいに皆にオープンになれなくなってた。っていうか、隠す隠さないの話なら、おまえ自身はどうなんだ? 何か俺に言うことがあるんじゃないか?」
 俺が言ってやると、暉隆はまた、ブランコを一度スイングし、脱力したように笑いながら、足で揺れを止める。
「徳永のことだろ?」
「もうひとつだ。水泳部の女子、マネージャーか何かか?」
「いやーんバレテーラ」
 棒読みで暉隆は言い、それから口の中だけでくくくと笑った。
「何だよ、人が真面目に聞いてるのに」
「だって俺、正直おまえと恋バナすることなんてないと思ってたから」
 恋バナ? いや、確かにその言葉は誤りではない。
「いいよ、嬉しいからちゃんと言う。徳永と過度に仲良くしてたのは、俺が好きな先輩の反応を見るため。徳永は、一見先輩とはキャラも何も違って見えるけど、実は同じ団地で育った幼馴染みなんだよ。だから、スパイになってもらった」
「そうだったのか。その先輩は、俺の印象だとその、悪い言い方になるけど、こう、あまり目立つ方ではないように見えたんだけど」
 俺がそう言うと、暉隆はまた微笑んだ。
「おっしゃる通り。先輩は、教室の隅っこでひとりで本を読むタイプ、言ってみればおまえが変える前の中山みたいな立ち位置の人だ」
「まあ、確かに詩雨は変わったよな」
「おまえが変えたと俺は思うけど。まあとにかく、徳永とくっついてる様子を見て先輩は凄く凹んでたって聞けた。つまり、高確率で俺を好いてくれてる証拠。で、あの朝俺ががむしゃらに走ってたのは、その前日先輩にコクって、返事待ちだったからだ」
 俺は目を丸くして暉隆を見ていた。
 意外、という言葉しか出てこなかった。てっきり暉隆は、好きになったら真っ直ぐ好意を伝えられるタイプだと思っていたからだ。
「それで、返事は?」
「ズバリ、保留」
 は?
「何だよそれ、返答になってねーじゃん」
「いや、それがなぁ、俺の策が裏目に出てさ。俺のことは好きでいてくれたらしい。だけど、俺が徳永を使って先輩の反応を探ったっていうあざとさは、まあ、もちろん好印象ではないだろ? だから、しばらく保留にして考えたいって」
「はー……、そんなこともあるんだな、恋愛って」
 思わず俺が言うと、暉隆はまた笑った。
「いや、おまえホントに輝か? まるで新しい友達ができたレベルの変化だぞ」
 そう言われてしまうと俺は何も黙るしかない。
「俺は、少なくともおまえよりは恋愛経験あるから、なんかあったら遠慮なく言えよな。俺も先輩のことで進展があったら、もう隠さないよ」
 ふむ……と頷いて、ブランコの下の靴跡を見下ろした。土が削られている。このブランコは一体何万回ウイングして、この土はどれくらいの年月でこんなになってしまったんだろう、なんてわけの分からないことを考えた。
「で、あいつ下の名前、詩雨だっけ。中山弟はどうすんの?」
 暉隆の言葉で現実に帰還した。
「あんなに熱心に応援してくれるって言ってたから、隠すのは誠実じゃないと思う。でも自分の姉ってなると……どうなんだろう。俺ひとりっ子でそういうの分かんねーし、友人としての詩雨を絶対失いたくない。欲張りすぎてんのかな、俺……」
「そりゃ違うだろ」
 俺は目線を上げ暉隆を見た。
「欲張りとかワガママとか、恋愛においてそんなことは関係ねえよ。おまえ、自分の初恋を応援してくれるって宣言を聞いて嬉しかったんだろ? だからこんなに悩んでるんだろ?」
「そうだよ」
「つまり中山詩雨はおまえの大切なダチなワケだ」
「そうだよ」
「じゃあなんであいつの言葉を信じないんだ?」
 虚を突かれた。
「おまえと中山はかなり深い友情と、信頼関係を築いた。いいか輝、信頼だよ信頼。おまえは中山詩雨をそんなに懐疑的に見てるのか? どうしてあいつの言葉を素直に信じない? それこそ誠実じゃねーだろ」
 これだから暉隆は……。俺は少し俯き、伸びてきた前髪を少しいじった。本当に、こいつは本当にいつも俺の欲しい言葉をくれる。
「何なら俺も一緒に話すぜ? バックアップは連携した方がいいだろ」
 意外な言葉に、俺はパッと頭を上げ暉隆を見た。
「俺も中山と話してみたいしね。先輩、読書好きだから、話合わせるためにも色々聞いてみたい。なんていうとまたあざといって言われるだろうけど」
「でもそれはおまえがその先輩をそれだけ思ってる証拠だろ?」
「そうだよ。でも、女の計算高い恋愛と、男のプラン済みアプローチはどうやら同じものじゃないらしくてな、先輩曰く」
「はあ……」
 どうやら恋愛というものは、両思いに至るまで相当ハードな道のりが必要なようだ。少々恐くなってきた。
「つかさ、今から駅前行って店入んね? 中山弟呼んで。作戦会議的な」
「えっ」
 一瞬迷ったが、俺は暉隆を『信頼』しているし、どっちみち暉隆と詩雨と三人で話してみたいとは常々考えていた。
 ラインしてみると、詩雨はすぐに家を出ると言ってくれた。
 さて、ここから香坂輝の激烈緊張タイムが始まるぞ。
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