112 / 261
誕生日ss1
しおりを挟む
緊張しながらチャイムを押すと、ドアが開いて部屋着姿の由良さんが俺を迎えてくれた。
部屋着と言ってもおそらく何かのブランドもので、開いた襟元や下ろした前髪の色っぽさにどくりとしてしまう。
…また顔、熱くなっちゃう…。
「いらっしゃい…あれ、幹斗君、何かあった?」
第一声からそう言われ、驚いた。
確かに少し元気がないかもしれない。
けれど周りからは顔に出にくいタイプだと言われているし、そのうえ今日は由良さんに会っているから自分でも自分の元気がないとは感じないのに、どうして由良さんにはそう見えてしまうのだろうか。
エスパーみたい。
「… 」
「言ってごらん。隠し事はすぐわかるから。」
言葉に詰まっていると、由良さんが俺を背中を抱き寄せるようにして家の中に入れ、そして優しく耳元でささやいた。
由良さんの動作一つ一つに心臓を跳ねさせながら、俺が今少し元気がないのかもしれない理由をどう説明しようか考える。
本当に大したことのない理由なのだ。
「…あの、本当にどうでもいいことなんですけど… 」
一応前置きで言っておく。
「うん。教えて?」
じっと目を見て、幼子に言い聞かせるように言われた。
「…明日が誕生日で…。」
そう、明日は俺の誕生日。一年に一回、生まれてきたことを少しだけ後悔する日。
祖父母はいつも俺に優しかったけれど、母の命日である俺の誕生日だけは、すこしちがった。
2人とも家事をこなす以外はじっと母の写真を見つめていて、俺の顔を見ると複雑そうに顔を歪めた。
小学校高学年になってからはそれが耐えられず、ただじっと、ご飯にもいかず部屋にこもってコンビニのおにぎりを食べていたことを思い出す。
祖父母に気を使わせないように、体調が悪くて食欲がないと言って一日中仮病を理由にしていた。
それでこの日が嫌いになった。ただそれだけの話。
何不自由なく暮らしてきた俺の、周りから見たらきっとあまりにもくだらない悩み。
誕生日が嫌いだなんておかしい、と幼稚園で言われてからは誰にも打ち明けたことがなかったけれど。
…由良さんにおかしいって言われたら凹むかも…。
そう思い、言葉を選びながら恐る恐る話す。
話終わった後、突然強い力で抱きしめられた。
予想外の反応に驚いて固まってしまう。
「じゃあ沢山お祝いしなくちゃね。今からホテルを予約しようか。」
少しの静寂の後、由良さんが俺の頭を撫でながら言った。
「えっ…?」
言われた意味がわからず首を傾げている俺に、少し切なげに彼は微笑む。
「愛しい君が生まれた日だからね。生まれてきてから今日までの分、全部含めてお祝いしよう?」
「お祝い…。」
「うん、お祝い。」
愛しい君が生まれた日、と言われて、そんなふうに考えたことはなかったから、本当に驚いた。
けれど泣きそうなくらいに優しく細められた彼の眼差しを見ていたら、本当にそうなのではないかと思えてしまう。
「じゃあ明日、1日デートしようね。」
「はっ、はいっ…。」
由良さんと1日デートできるなんて。しかもホテルということは、夜も一緒に過ごせるわけで。
ずっと抱えていた心の蟠りが取れたうえに由良さんと1日デートできるなんて夢みたいで、collarと指輪で身にしみてわかったはずの由良さんの金銭感覚が俺に対してバグっていることについて、この時の俺は完全に見落としていた。
部屋着と言ってもおそらく何かのブランドもので、開いた襟元や下ろした前髪の色っぽさにどくりとしてしまう。
…また顔、熱くなっちゃう…。
「いらっしゃい…あれ、幹斗君、何かあった?」
第一声からそう言われ、驚いた。
確かに少し元気がないかもしれない。
けれど周りからは顔に出にくいタイプだと言われているし、そのうえ今日は由良さんに会っているから自分でも自分の元気がないとは感じないのに、どうして由良さんにはそう見えてしまうのだろうか。
エスパーみたい。
「… 」
「言ってごらん。隠し事はすぐわかるから。」
言葉に詰まっていると、由良さんが俺を背中を抱き寄せるようにして家の中に入れ、そして優しく耳元でささやいた。
由良さんの動作一つ一つに心臓を跳ねさせながら、俺が今少し元気がないのかもしれない理由をどう説明しようか考える。
本当に大したことのない理由なのだ。
「…あの、本当にどうでもいいことなんですけど… 」
一応前置きで言っておく。
「うん。教えて?」
じっと目を見て、幼子に言い聞かせるように言われた。
「…明日が誕生日で…。」
そう、明日は俺の誕生日。一年に一回、生まれてきたことを少しだけ後悔する日。
祖父母はいつも俺に優しかったけれど、母の命日である俺の誕生日だけは、すこしちがった。
2人とも家事をこなす以外はじっと母の写真を見つめていて、俺の顔を見ると複雑そうに顔を歪めた。
小学校高学年になってからはそれが耐えられず、ただじっと、ご飯にもいかず部屋にこもってコンビニのおにぎりを食べていたことを思い出す。
祖父母に気を使わせないように、体調が悪くて食欲がないと言って一日中仮病を理由にしていた。
それでこの日が嫌いになった。ただそれだけの話。
何不自由なく暮らしてきた俺の、周りから見たらきっとあまりにもくだらない悩み。
誕生日が嫌いだなんておかしい、と幼稚園で言われてからは誰にも打ち明けたことがなかったけれど。
…由良さんにおかしいって言われたら凹むかも…。
そう思い、言葉を選びながら恐る恐る話す。
話終わった後、突然強い力で抱きしめられた。
予想外の反応に驚いて固まってしまう。
「じゃあ沢山お祝いしなくちゃね。今からホテルを予約しようか。」
少しの静寂の後、由良さんが俺の頭を撫でながら言った。
「えっ…?」
言われた意味がわからず首を傾げている俺に、少し切なげに彼は微笑む。
「愛しい君が生まれた日だからね。生まれてきてから今日までの分、全部含めてお祝いしよう?」
「お祝い…。」
「うん、お祝い。」
愛しい君が生まれた日、と言われて、そんなふうに考えたことはなかったから、本当に驚いた。
けれど泣きそうなくらいに優しく細められた彼の眼差しを見ていたら、本当にそうなのではないかと思えてしまう。
「じゃあ明日、1日デートしようね。」
「はっ、はいっ…。」
由良さんと1日デートできるなんて。しかもホテルということは、夜も一緒に過ごせるわけで。
ずっと抱えていた心の蟠りが取れたうえに由良さんと1日デートできるなんて夢みたいで、collarと指輪で身にしみてわかったはずの由良さんの金銭感覚が俺に対してバグっていることについて、この時の俺は完全に見落としていた。
21
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
待てって言われたから…
ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。
//今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて…
がっつり小スカです。
投稿不定期です🙇表紙は自筆です。
華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)
隠れSubは大好きなDomに跪きたい
みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。
更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる