必要だって言われたい

ちゃがし

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episode6*言い訳なんてしなくていい

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昼食は新入社員の松田と食堂で取ることにした。
普段はその辺の休憩室やデスクで昼食を取ることが多いが、今日は松田がいるので社食だ。
食券を買いに行こうと諭す松田に弁当を持ってきていることを伝えると、少し驚いたような顔をされた。
松田曰く、タイパ・コスパを考えれば250円の日替わり定食以外は考えられないそうだ。
今まで考えてみたこともなかったけれど、確かにこの弁当の材料費と作るのに掛けた時間を考えると、250円以上にはなるのかもしれない。

「あれ、アタル今日こっち?」
「あ!タルさん!珍しいですね、お昼一緒に食べませんか?」
「おう、なっちゃん達も今休憩か?席空いてるから来なよ。こっちは松田もいるけど。」

弁当を広げて松田が戻ってくるのを待っていると、なっちゃんこと営業部長の樫井捺希かしいなつきに声をかけられた。
麝香と要と共に食堂へやって来たらしい。
昼食の誘いにOKを出すと、隣にはなっちゃん、斜め前には麝香、その隣に要という順で3人が席を取る。
なっちゃんと麝香はそれぞれ定食を取りにカウンターへ向かったが、麝香が目敏く俺達ふたりの弁当が同じ内容だという事に気が付いたらしく、去り際にニヤリと笑って見せた。

「チーフ、おまたせしました!今日の日替わりはからあげでした。…あれ?」
「あ、おかえり松田。勝手にわるいな、人数増えた。」
「いえ、それは大丈夫です。…あ、俺企画部の松田です、要さんですよね。」
「あ、営業部の麝香要です、…ってこの前挨拶したよね?」
「え、覚えてもらえてたんですね!…うわ、うわ、どうしよ、テンパる。」
「どうした、どうした松田、落ち着け?」
「やぁ~、ちょっとその、整いすぎてて…、緊張します。」
「はははっ、そっか、そういや要っていつもそんな反応されてたな。」
「ただいまぁ~。要、今日日替わりからあげだったよ。」
「うん、知ってる。」
「ま、私も今日はA定にしたんだけどね。あ、松田くん、隣良いかな?」
「は、はいっ、どうぞどうぞ!」

戻ってきた麝香となっちゃんと合流して昼食を取り始める。
松田は最初こそ美人姉弟に囲まれて緊張しているようだったが、直ぐに打ち解けて楽しそうに会話に加わるようになった。
主に話しているのは女性陣ふたりなのだが、松田は疑問に思ったことはとにかく聞いて解決したいタイプのようで、ふたりの会話のラリーの中に、松田の質問がちょいちょい混ざってくる。
麝香もなっちゃんもどちらかと言えば頼られたいリーダータイプなので、可愛い後輩の疑問に答えてやるのは苦ではないようだ。

「そういや、なっちゃんところの新入社員は?」
「あぁ、波多野くん達に任せちゃった。この子たちの下に付けたら仕事にならないでしょ。」
「ははっ、まぁそっか。」
「すみません、聞いてもいいですか。」
「うん?」
「チーフってどうして必架さんの事だけ苗字で呼ぶんですか?」
「え?あぁ…、家族以外の女性をあんまり名前で呼ぶのも良くないかなと思って。特に会社ではさ。」
「ん?…あっ!もしかして俺今、なんかすげぇ失礼な事聞きました?すみません!」 
「え?なにがなにが?どうした松田?」
「…いや、家族以外の女性を名前で呼ばないチーフが樫井部長を愛称で呼んでるってことは、ふたりってその、なにかあるのかな、と思いまして。」
「え?どういう事だ?よく意味が分かんない。」
「松田くんナイス、それ私たちもずっと聞きたくて聞けなかった質問なのよ。」
「え、何を?」
「タルさんが樫井さんのこと『なっちゃん』呼びなのって、過去か現在進行形か、ふたりってそういう関係なの?みたいな噂があるんですよ。」
「もともと婚姻関係にあったとか、そういう事なのかなと思いまして。」
「はぁ?噂って誰のだよ。」
「誰のって、みんなのです。」

麝香は訳の分からないことを言い出した松田に向かって親指を立てて笑った。
松田は先ほどの申し訳ないというムードからは一転、ワクワクとした顔になり、麝香に親指を立てて微笑み返している。
横を見るとなっちゃんが呆れた顔でアイコンタクトを取って来て、要は俯いて黙々と弁当を食べているだけだった。

「まぁね、私今の夫と結婚する前はもともと樽前捺希だったから。」
「「「えっ!」」」
「ちょっとなっちゃん、誤解を招くような言い方はやめようか?」
「ふふっ、だってこの子たちの反応面白いじゃない。」
「だからってさぁ。」
「まぁ冗談はさておき、私達いとこ同士なのよ。だから私も旧姓は樽前だし、親戚だから前からの呼び名で呼ばれてるってだけ。」
「あ、そういう…。」
「なんだ、そうだったんですね。…でもやっと謎が解けたぁ。」
「たしかにおふたり、黒目の色が同じですね。」
「なぁんだよ、黒目の色が同じって!」
「あ、ホントだぁ!樫井さん目の色素薄いなぁって思ってたら、タルさんもだ。」
「や、他に何かあるだろ。」
「え~…?」
「ふふっ、やだちょっとホント面白い、この子達。」

隣でおかしそうに笑いながら言うこの人に、幼いころから何度泣かされてきたことか。
たとえ血が繋がっていなかったとしてもこの人とは付き合わない。

「タルさん達いとこなんだってさ、よかったね、要。」
「…。」
「え、何が良かったんですか?」
「ほら、タルさんて社内で名前呼んでるの樫井さんと要だけじゃない?それに樫井さんはあだ名呼びだし、ちょっとしたジェラシーみたいな。」
「あぁ…、チーフの本命は要さんでしたか。」
「なっ、え?どこからそんな話になるんだ?」

今の話を聞いて、どうしてそんなところに繋がる?
疑問に思って声をあげると、松田は要の食べている弁当を指さして言った。

「だって朝からせっせと弁当作ってきて食べさせるって、相当気合入ってるじゃないですか。」
「え?やだっ!本当だぁ~!ふたりともお弁当の中身同じじゃない…。私てっきり要くんがついに彼女と同棲でも始めたのかと思ったわよ。」
「…その彼女がチーフなんじゃ?」
「えっ⁉そういうこと?アタルが?要くんと?」
「いや、違いますよ!タルさんが間違えて凛太郎くんの分のお弁当を作ってしまって、余ったのを俺がいただいただけです。」
「あ、そうなの?まぁ、アタルらしいっちゃらしいわ…。」

要がすかさず否定したことで誤解だと思ったようで、話に興味を失ったらしいなっちゃんがつまらなそうに言った。
目の前では麝香と松井が、同じようなニヤニヤした顔で俺たちを交互に見てくるのが気まずい。

「要、今日日替わり定食からあげの日なのに弁当押し付けて悪いな。」
「いえ、…俺はこっちの方がいいです、美味いし。」
「あのぉ~、そこのふたりイチャつかないでもらってもいいですかぁ?」
「イチャついてはねぇだろっ!」
「イチャついてるようにしか見えないんですよぉ。」
「ねぇ~?」
「ねぇ~?」
「じゃあわかったよ、今度弁当多く作りすぎたら松田のところに持っていくから、そしたらちゃんと食えよ?」
「…タルさん、それはホントにやめてあげて。要が本気の悲しい顔してるんで。」
「あら、要くん目のまわりが赤い。」
「ち、がいます、花粉症です。」
「ふふふっ。」

そうやって俺たちの事を面白がっている悪魔のようなふたりにからかわれながら昼休憩を終えた。
こういう時に息がぴったりなのはなぜだろう。
そして昼休憩が終わると、何事もなかったかのように仕事モードに切り替わっている。
この切り替えの早さも何なのだろう。むしろ見習うべきなのだろうか。
いやはや末恐ろしい存在である。
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